私がこの気持ちに名前をつけるまで、そばにいてくれますか?
どうやら私は人であり、人ではないらしい。
幼い頃から言われ続けてきたことがある。
「人の気持ち考えたことある?」
「人の心がないよね」
人の気持ちってなんだよ。
人の心がないって、それはもうただの『人形』じゃないか。
でも何も言えなかった。
実際わからなかったから。
でもある人が私に教えてくれた。
私はその日から人になることが許されたのだ。
人になって初めて抱いたこの気持ち。
この気持ちに名前をつけるまで、私のそばにいてくれますか?
その時私は君に伝えるんだ。○○だって。
私、柳瀬心陽が彼と出会ったのは高校二年生の時だった。
友達は多くは無いけど少ないわけでは無い……と思う。
そんなよくある地味な高校生活を送っていた私に彼は突然現れた。
彼の名前は与田颯太。
他校の高校2年の男の子だ。
私が本屋さんでライトノベルを手に取ろうとした時に彼も手を伸ばしていて手が触れてしまった。
そんな出会いだった。
「君もこのラノベ好きなんだ?ちょっぴり悲しいけど純愛な感じがして好きなんだ」
「好きかどうかはわからないけど、読んでます」
今思い返すと恥ずかしすぎる返しだ。
よく彼もこんな人と仲良くなりたいと思ったものだ。
それから何度も彼とは本屋さんで出会い、近くの公園で色んなラノベの感想を言い合う仲になった。
「この主人公はなぜ悲しんでいるのでしょうか。好きな子が親友のもとで幸せになっているのに」
「そりゃあ、自分の好きな女の子を親友に取られちまったからだろ」
「ん?でも彼女は幸せそうですよ?」
「あぁ彼女は幸せそうだな。でも自分ならもっと幸せにできたかもしれない。というか自分が幸せにしてやりたい。そういうもんだ」
「なるほど」
彼は私の質問にも嫌な顔ひとつせず笑顔で答えてくれる。
そのことにわたしも人知れず心を許していっていた。
彼と私はラブコメや純愛とか恋とか、そういったジャンルが好みのようだった。
今日は彼にこんなことを聞いてみよう。
彼と会う日が楽しくて仕方がなかった。
気がつけば本を買いに行くことより彼に会いに行くことが主な目的に変わっていった。
彼といるなら私は「人」としていられる、それはとても心地がいいものだった。
彼は私に、人形に命を吹き込んでくれたのだ。
でも、それは長くは続かなかった。
学校の委員会の仕事が長引いて少し遅くなった帰り道。
暗い夜道をあかりが照らしてくれていた。
私は1人歩いて帰っていると、偶然彼を見つけた。
「あっ…」
声をかけようと思った。
でもできなかった。
隣には私なんかより可憐な女の子がいたからだ。
しかも彼女と体を寄り添って歩いていた。
以前の私なら声をかけていた。
でも今はできなくなっていた。
私は私の変化に気持ちが追いついていなかった。
私を今支配してるこの気持ちはなに?
どうして胸が締め付けられるみたいに苦しいの?
「ねぇ、教えてよ……颯太くん…」
私は声にならない声をポツリと呟き立ち去った。
一瞬彼が振り返ったような気がしたが気のせいだろう。
翌日、私はよくわからない気持ちを胸にしながら学校へと向かった。
「浮かない顔をしてどうしたの?こはるん」
私に話しかけてくれたのは、私の数少ない友達、綾瀬光莉ちゃん。
私とは住む世界が違うのに気にかけてくれる優しい女の子だ。
本人曰く、放っておけないらしい。
ちなみに「こはるん」は光莉ちゃんが勝手に読んでる愛称だ。
「なんでもないよ光莉ちゃん」
「いいからいいから!うちに話してみなよこはるん!うちが手とり足とり教えてあげるから~」
手をこちょこちょしながら近づいてきたので無理やりにでも喋らせるつもりだろう。
私は観念して、今までの出来事を全て話した。
光莉ちゃんは最初は真剣に話を聞いてくれてたけど、途中からニヤニヤしていた。
「……てことなんどけど、どうかな?私やっぱりなにか病気にかかっちゃったかな」
「うん。かなりやばい病気だよ。」
すごい深刻そうな顔でプルプル震えていた。
あぁ、やっぱり病気のせいなんだ……しかも深刻な病気なんだ。
私がショックを受けていると声を出して笑っていた。
ひどい。
「ごめんごめん!少しからかっただけだよ~!それはね、恋の病だ!」
「恋の病?」
首をかしげながらも続きをうながした。
「こはるんは恋しちゃったんだ!多分気づいてないだろうけど」
恋、私だって知ってます。
ラノベでラブコメ作品とか呼んでるもん。
「じゃあ、私の胸が締め付けられるようなこの感じはあの有名なやつなの?」
「それは、ブラのサイズがあってないだけ……ってごめんごめん~!」
私は頬をふくらませてムスッとした。
人は怒るとこうするってラノベに書いてあったのだ。
要するに怒ってますアピールだ。
「それは嫉妬だね!こはるんに色んな気持ちが芽生えて嬉しいよ~」
光莉ちゃんはキャピキャピしながら抱きついてきた。
「いきなり抱きつかないでよ」
「ごめんごめん!なんか嬉しくなっちゃって。最近のこはるん、感情豊かで嬉しい!初めてであった頃はお人形さんみたいだったのに、今や恋する乙女だもんね!」
言いたいことだけ言って彼女はぴゅーっと離れていった。
お人形さん……始めて光莉ちゃんと出会ったのは1年生のときだ。
私とは住む世界が違う人。
それが彼女の第一印象だった。
彼女はクラスでも人気な明るい女の子。
一方私は人の気持ちも分からない、人の心のないお人形さん。
月と太陽、陰と陽、陰キャと陽キャ、人形と人間。相容れない存在だと思っていた。
でも彼女は何度も何度も私が冷たくあしらっても話しかけてきた。
最初は好感度狙いなのかと思っていた。
私、陰キャにも優しいよ~って。
でも何度も何度も来る彼女を見て私も考えが変わった。
彼女は本心で私に話しかけてくれていた。
今思えばなんて酷い態度だっただろう。
それでも彼女は私を気にかけてくれた。
わたしは彼女に自分のことについて少し話をしてみた。
彼女は私の態度に目を丸くして驚いていたが真剣に話を聞いて、怒ったり悲しんだりしてくれた。
今でも私は憶えてる。
あの日、光莉ちゃんと「友達」になったんだ。
光莉ちゃんと話した事で胸にあったモヤモヤとした気持ちは軽くなっていた。
早く彼に会いたい。
私は学校が終わるのが待ち遠しくてしかたがなかった。
チャイムがなり、最後の授業が終わる。
クラス内は慌ただしく、部活に行く人、遊びに行く人でごった返していた。
私はゆっくり帰り支度をして、人が少なくなってから本屋さんへと向かった。
私と彼の特別な場所。
私が人としていられる場所。
ライトノベルのコーナーには人がちらほらといたがそこに彼はいた。
私は嬉しくて、駆け出したくなる気持ちを抑えて彼の元にゆっくり近づいた。
彼も私の気配を感じて振り向いた。
嬉しかった、彼も私の事待っててくれてたんだって思えて。
でも私は見てしまった。
彼の隣によりそっている女の子を。
「え、なんで……」
私は歩みを止めた。
なんで私じゃない女の子といるの?
ここは私とあなたにとって特別な場所じゃないの?
頬が濡れてるし、世界もぐちゃぐちゃだ。
わたしって、泣けるんだ。
これが、失恋なんだね。
勝手に期待して勝手に失望して、これが「恋」なんだね。
私は逃げるように駆けだした。
「柳瀬さん!待ってッ……」
彼が呼ぶ声が聞こえて走る速度を緩めて振り替えった。
もしかしたら追いかけてきてくれるのかな。
あのラノベみたいに。
でも現実は物語より残酷だ。
「いっちゃだめ!」
となりの女の子に腕を掴まれていた。
「ダメだよ!だって……」
その後の二人の会話はよく聞き取れなかった。
でもわかった事がある。
彼はおいかけてはこなかった。
私は家に帰ると自分の部屋にこもって泣いた。
こんなに泣いたのは久しぶりだった。
やっぱり私は「人」にはなれないんだ。
ううん。
むしろこんなに悲しいなら私は「人形」のままでいい。
それから私は眠れない夜を何日もすごした。
毎朝鏡で見る顔は、目のクマも酷くて、荒れた日本人形のようだ。
もちろん学校では光莉ちゃんに心配された。
最初は「こはるん、どうしたの?なんかあった?」
ある日は「こはるん、お昼一緒に食べない?」
そして今日は「こはるん、今日一緒に帰ろ?」
私はただひとこと「ほっといてよ」ということしか出来なかった。
苦しかった、こんなこと光莉ちゃんに言いたくなかった。
私は荷物を素早く片付けて教室を一目散に立ち去った。
外は私の気持ちを表してるみたいに雨が降っていた。
天気予報では晴れだったはずだ。
傘なんて持ってきていない。
今の私にはお似合いの天気だ。
私は雨にうたれながら、学校を後にした。
学校の近くの公園まで来た。
制服は雨に濡れてびちゃびちゃだ。
わたしはベンチに腰かけ、雨空を見上げてた。
このまま全部何もかも洗い流してくれないかと目を瞑って祈った。
でも目をつぶって思い出すのは彼との日々。
「私にはなにもなくなっちゃった」心の声が口からおもわず漏れた。
もう全部どうでもいいの。
黒い感情に心が支配されていく。
突然頬をうっていた雨が止んだ。
目を開けるとそこには傘をさした光莉ちゃんがいた。
「探したよこはるん!雨に濡れてびちゃびちゃじゃん!うちの家近くにあるからいこ!」
彼女は私に手を差し出した。
「……ほっといて」
私はその手を払いのけた。
「こはるん、風邪ひいちゃうよ。ほら、いこ?」
「ねぇ、こはるん?」
「ほっといてよ!!」
バサっ。
私は感情に任せて、彼女の傘を払いのけた。
やってしまった。
やっぱり私なんか人と関わっちゃダメなんだよ。
私は逃げるようにこの場から去ろうとした。
ぼふっ。
彼女が私に抱きついていた。
「ほっておけるわけないじゃん!!そんなに辛い顔して、友達の私がそんなこはるんをほっておけるわけないじゃん。ひとりになんかさせるわけないじゃん。」
「……どうして…どうして私にそんなに優しくしてくれるの」
私は泣きながらうったえた。
安心して、一人にしないからと言わんばかりにギュッと彼女が力をこめる。
「だってこはるんはウチの……初めての友達だから」
彼女は泣きながらそういった。
彼女の言葉が私の中をすっと照らしてくれる。
夜明けを告げる朝日のように、心地よい気持ちが私の心を満たしていくのがわかった。
気が付くと私は彼女を抱きしめていた。
「こはるん……くるしいよぉ」
「ごめんね光莉ちゃん。わたし、わたし…」
彼女はくしゃと私に微笑んだ。
「大丈夫、わかってるから。とりあえず、うちの家にいこっか」
私は光莉ちゃんに連れられて家に向かった。
彼女の家に着くとすぐにお風呂に入れられた。
最初は断ったけど、光莉ちゃんに「こはるんに風邪ひいて欲しくないから」って押し切られた形だ。
私は体をシャワーで洗ってから湯船に浸かった。
お湯の温もりが体だけでなく心も温めてくれるみたいだ。
すると脱衣場からガサガサと音がして光莉ちゃんの声が聞こえた。
ドア越しだからすこしこもって聞こえる。
「こはるん、濡れた服とか乾燥機に掛けとくね!」
「ありがとう光莉ちゃん、何から何までごめんね」
「いいよいいよ!」
さっきまでと違ってクリアな声が聞こえた。
不思議に思い浴室と脱衣場を繋ぐドアを見るとそこにはありのままの光莉ちゃんがいた。
私は思わずキレイだなと見とれて……
「あ、えと、ありがとう?すぐにでます」
あまりの出来事にパニックになっていた。
自分でも何を言ってるのかわかんない。
「慌ててるこはるんも可愛いねぇ~。ウチ、友達とお風呂入ってみたかったんだ~」
光莉ちゃんは素早く体を洗うと浴槽に、私の隣にちょこんと入ってきた。
「ふたりではいると狭いねぇ~」
「う、うん…わたし、もうでるよ」
立ち上がろうとしたら腕を掴まれた。
「まだダーメ!お話しよ?裸の付き合いってやつ!」
すごいキラキラした目で見られたから私も立ち上がるのを諦めた。
しばしの沈黙。
水滴がぽちゅんと音を立てていた。
彼女はなにか決意した顔でおもむろに話し始めた。
「今から話すのは、とある女の子の物語だよ。」
その女の子はとても可愛らしくて、いつも周りに笑顔を振りまいていました。
彼女といるとみんな幸せです。
彼女はどんなことでもきいてくれて優しく女神のような存在でした。
でも女の子は実は悩んでいました。
それは誰も女の子自身の話を聞いてはくれないからです。
自分の気持ちを押し殺して生きている女の子は次第に疲れていきました。
そんなとき、女の子はとあるお人形さんに出会いました。
お人形さんは近づいてくるわけでもなく、ただひとりぽつんといるだけでした。
女の子は不思議に思い、自分から近づき、話かけました。
最初は冷たくあしらわれますが、次第にお人形さんは何も言わず、女の子の話を聞いてくれるようになりました。
女の子は嬉しくて毎日話しかけました。
しかし女の子は途中で気づいてしまいました。
自分の話しかしていないことに。
あの人たちと変わらないことに。
だから女の子は聞きました。
あなたの話も聞かせてと。
お人形さんは少し考えながらとゆっくりとお話をしてくれました。
そこで女の子は初めて、何でも言い合える相手、友達に出会えました。
女の子は決意しました。
友達を大切にしようと。
それから女の子は友達と楽しく過ごしています。
「光莉ちゃん、お人形さんも女の子と出会えて、ほんとに楽しく過ごせてるよ」
私は泣いていた。
悲しいから泣いてるんじゃない。
このポカポカとした温かい気持ち、これが嬉しいって気持ちなんだと私は知った。
これが嬉し涙なんだね。
光莉ちゃんも泣いていて、やっぱりこの人と友達になれてよかったと思った。
それから2人でくだらない話を言い合った。
「こはるん、ほんとに怒ってるときはほっぺに空気入れてムスッとしないよ。それはラノベだけだから!」
「私バカにされてる?怒っていい!?」
「ごめんごめん~」
それから私たちはお風呂を出て、光莉ちゃんの部屋にいった。
私はそこでここ数日の出来事を詳細に語った。
光莉ちゃんは真剣に話を聞いてくれた。
「もう一度、本屋さんに行こう。彼にもう一度会って話を聞こうよ」
「でも……私、彼に会うのがこわい。答えを知るのが怖いよ」
「じゃあ、その女の子に彼を取られてもいいの?」
「それは嫌!」
自分でも思ってる以上に大きな声が出た。
光莉ちゃんはにやっと笑った。
「恋する乙女め~、自分に正直になりなよ?今のその気持ちを大事にしてね」
私は光莉ちゃんの家を後にして帰宅した。
雨はすっかりやみ、陽の光がさしていた。
翌日、私は本屋へと向かった。
自分の気持ちに正直に生きた結果だ。
彼の姿は見当たらなかった。
しばらく待ち、帰ろうとしたら背中をつつかれた。
彼だ!と思いふりかえると、そこには彼の隣にいた女の子が私に話しかけていた。
「あの、柳瀬さんですよね?」
彼から私のことを聞いたのだろうか。
私が少し身構えると彼女は、すいませんと謝った。
「人に聞く前にまず名乗れって話ですよね。私は与田風花と言います。風花と気軽に呼んでください」
よだ、よだ……与田?
もしかしてと思っていたら答えは直ぐに聞こえてきた。
「兄がいつもお世話になってます!」
私が勝手に彼女だと思っていたのは、妹だった。
完全に私の勘違いじゃん、何やってるの私は、と自問自答していると風花ちゃんに手を掴まれた。
「時間が無いので有無を言わず着いてきてください。」
そのままタクシーに乗せられ近くの大学病院へと向かった。
なんだか胸騒ぎがする。
そのまま手を引かれ連れていかれた個室の病室。
表札には、「与田颯太」と書いてあった。
「よかった……お兄ちゃんまだここにいた。」
「どうした風花、そんなに慌てて。手術は明日で今日じゃないぞ」
私は風花ちゃんに背中を押されて彼の前に出た。
「柳瀬さん?!どうしてここに…風花が連れてきてくれたのか」
「だってあのままお別れになったら、さみしいじゃんか」
私は状況が上手く理解できずに混乱していた。
お別れ?どういうこと?と頭の中で考えていると、彼が察して説明してくれた。
「俺、実は小さいころから病弱でね、何回も心臓の手術をしているんだ。先天性の心疾患があってね、最近それがまた悪くなってきちゃって。歩くのも息切れが酷くてね、風花に支えて貰いながらじゃないと今は自由に歩けないんだ。」
私は彼の話を聞いて全てを理解した。
やたら距離感の近い、体に寄り添っていた女の子、風花ちゃんは彼を支えてあげていたんだ。
私は自分の愚かさと今の現実に打ちひしがれていた。
私はなんて浅はかで愚かなんだろう。
「あの時は、追いかけられなくてごめん」
彼は申し訳なさそうに、謝った。
私はポロポロと涙を流しながら彼の手を取り謝った。
「ううん。私こそ勝手に勘違いしてごめんなさい。風花ちゃんが彼女に見えてしまって、逃げてしまってごめんなさい」
涙でいっぱいで視界がぼやけていると、彼にそっと抱きしめられた。
「来てくれて、ありがとう。」
私はその言葉を聞いて、心が彼で満たされていくのを感じていた。
もう少し彼に抱きしめられていたかったが、彼が恥ずかしそうに「ご、ごめん」と私を引き剥がした。
「また、私に色んなこと教えてくれる?」
私は彼に聞いてみた。
でも帰ってきた答えは、期待していたものでは無かった。
「……それはできないかもしれない。」
「えっ…」
「もう何回も手術をしてて体の状態も良くないらしいんだ。次は耐えられないかもしれない。だから、これが最後になるかもしれない。だから君に伝えたいことがあるんだ。そして、忘れて欲しい」
「……やだ!そんなの私聞きたくない!最後なんて言わないでよ!」
私は駄々こねる子供みたいに、泣きながら彼に訴えた。
「私を人にした責任とってよ!私のこの気持ちがなんなのか、君に伝えるまでそばにいてよ!私を置いていかないでよ……私はずっと待ってるから。忘れたりなんてしないから!」
彼は私の言葉を聞いて、感情的な私を見て、泣きながら笑っていた。
「そんな姿の柳瀬さんみたら死ねないね!ごめん、さっきのはなしで!待っててくれ、風花に連絡させるから」
それから私と風花ちゃんとで連絡先を交換した。
「ごめんねお兄ちゃん、先に連絡先交換しちゃって」
風花ちゃんはいじらしく彼に笑顔を向けていた。
彼は「うるせぇ」といいつつ「ありがとな、風花」とつぶやいた。
風花ちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を背け「先に下で待ってます」といい走り去った。
私は彼に近づいて耳元でそっと囁いた。
「私がこの気持ちに名前をつけるまで、そばにいてくれますか?」
彼は恥ずかしそうに「…あぁ、もちろんだ」と答えた。
私は彼と別れて先に待っている風花ちゃんの元へ向かった。
風花ちゃんはベンチで体操座りをしていた。
私に気がついたのか風花ちゃんは「さっきはごめんなさい」と謝ってきた。
私はそっと風花ちゃんをだきよせた。
「私を彼と合わせてくれてありがとう」
私は風花ちゃんの頭をゆっくりと撫でた。
次第に鼻をすする音が聞こえてきた。
「お兄ちゃんが、元気になってよかった…ありがとうございます柳瀬さん」
「心陽でいいよ」
「心陽さん、本当にありがとうございました」
それから2人でタクシーに乗ってそれぞれの家に帰った。
私は家に帰ってすぐに光莉ちゃんに電話した。
光莉ちゃんは「こはるんから電話してくるなんでびっくりだよ~」と驚いていたが、私の話をしっかり聞いてくれた。
「うちの力が借りたくなったら教えてね!」
光莉ちゃんの言葉が心強かった。
そうして迎えた手術日、私はずっとソワソワしていた。
光莉ちゃんは事情を知っているから何も言わずにただそばに居てくれた。
それから数時間がたち放課後。
「手術は上手くいきました!」
風花ちゃんから連絡がきた。
私は嬉しくて隣にいた光莉ちゃんを思わずギュッと抱きしめた。
「こはるん…くるしっ……」
「ごめん、光莉ちゃん!嬉しくてつい」
私が離すと光莉ちゃんは息を整えてから微笑んだ。
「よかったね、こはるん!」
私は満面の笑みでそれに応えた。
「うん!」
それから数週間後、風花ちゃんから連絡がきた。
1週間後いつもの本屋で会おうBy颯太
私はすぐに光莉ちゃんに電話した。
「光莉ちゃん、たすけて!」
「え、え、どうしたのこはるん?」
私は事情を説明した。すると電話越しにニヤリとと笑った。
「うちにおまかせあれ!めちゃんこ可愛くしてやんよ~」
そして迎えた約束の日。
「光莉ちゃん、変じゃないかな?」
「めちゃくちゃ可愛いよ!うちがお持ち帰りしたいくらい。てかその胸ひきょー!」
光莉ちゃんにコーディネートされた私はまるで別人だった。
ボサボサだった髪は、丁寧にブラッシングされ、ゆるいウェーブがかっている。
化粧もナチュラルな仕上がりだ。
光莉ちゃん曰く、「もとがいいからこれくらいが映える」らしい。
服は清楚な白いブラウスで首元まできっちりとボタンが留められ、ほんのり透ける袖が軽やかだ。
そのブラウスに合わせたのは淡いブルーのプリーツスカート。
丈は膝下で控えめだが、ふわりと揺れるシルエットが女性らしい柔らかさを引き立てている。
「ほら行ってらっしゃい!」
光莉ちゃんに背中を押されて私は彼の待つ本屋さんへ。
いつものラノベコーナーへ。
そこには彼がいた。
私は駆け出したい気持ちを抑えて、彼にゆっくりと近づく。
私は彼の背後から話しかけた。
「颯太くん!」
彼は振り返り、そして私を見て驚いていた。
「え、もしかして柳瀬さん?」
私は少し頬をぷくーっと膨らませた。
「私だって勇気を振り絞ったのに、自分だけ「柳瀬さん」ってずるくない?」
そういうと彼は少し恥ずかしそうしながら「こ、心陽ちゃん」と呟いた。
2人で顔を真っ赤にして恥ずかしがってた。
すると本棚のところからこちらを覗いてる2人がいた。
光莉ちゃんと風花ちゃんだ。
「心陽さんめちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」
「うちがコーディネートしたからね!風花もしてあげよっか?」
「いいんですか!?お願いします光莉姉さん!」
しかもむちゃくちゃ仲良くなってる。
2人は私に見られてることに気づいたのかすぐに居なくなった。
「颯太くん、わたし変じゃないかな?」
私は定番のセリフを彼に聞いてみた。
「めちゃくちゃ可愛いよ。似合ってる」
「……ありがとう」
やっぱりそういう人に褒められるのってすごく嬉しい。
もう、私はとっくにこの気持ちに名前をつけてる。
2人でいつもの公園へ。
「ねぇ、颯太くん。私が前言ったこと覚えてる?」
「あぁ。「私がこの気持ちに名前をつけるまで、そばにいてくれますか」だろ」
やっぱり彼はちゃんと覚えてくれてる。
私は一歩彼に近づいた。
「悪いけど、あれ訂正させてもらうね」
彼が「えっ」と驚く隙に、私はそっと彼にキスをした。
「好きだよ、颯太くん。」
彼は顔を真っ赤にしていた。
きっと私も真っ赤に染まってる。
「俺も心陽が好きだ!」
好きな人に好きって言われることがこんなに嬉しくて幸せなことなんて知らなかった。
影でこっそり見てた風花ちゃんと光莉ちゃんも出てきて、「やるじゃんこはるん!」、「お兄ちゃん自分からいかないと~!」と言っていてみんなで笑いあった。
私は颯太くんと出会って、人形から人になって恋をした。
だから私はもう一度颯太くんに言う。
前回とは違う言葉を。
「私がこの気持ちに名前をつけても、そばにいてくれますか?」
読んでいただき、ありがとうございました。雨乃りんごです。
感想、レビュー、ブクマ、評価など、よろしければお願いします‼️
また、「君の手のひらで今日も踊る~振り回される恋も悪くない?踊らにゃ損です!~」もよろしくお願いします。