ジョングルールが来る
吟遊楽師が来る。冥闇の底から。供の楽団を引き連れて。
街角を回り巡って響かせる、陽気な音色は夕陽に燃えた街に満ち、
私の心に染み渡る。呪われた音色と知りながら。
楽師はこちらを見向きもせずに歌声を供連れの伴奏に乗せる。
吟遊楽師が来る。地平の果てから。供の楽団に演奏させて。
夕闇の大気は音楽に震え、黒い夕雲は楽譜となる。
私の両目は既に奪われ、耳を塞ぐことも出来ずにいる。
楽師はそれを知ろうともせず自らの音楽に酔い痴れる。
吟遊楽師が来る。地底の奥から。供の楽団を賑わせて。
奏者どもは街中の家々、垣や屋根に登り上がって騒ぎ立て、
大聖堂の鐘楼からもあれらの音色を下界へ落とす。
楽師は誇らし気にそれらの様子を眺めては、更に喉を震わせる。
幼き日々の夜語りに祖母が語って聞かせてくれた。吟遊楽師が来る。暗い場所から彼らが来ると。地獄の楽団を引き連れて。決して魅入られてはいけないと。ただ光を求めて人の道を歩むべきだと。
彼らは魅了し人を森奥深くの沼へと引き込む。犠牲者は輝かしければ輝かしいほどその沼地から足を抜けない。泥に溺れて藻掻きつつ。遥けき岸辺をもはや見ず。沈み果てては終の灯までもが消え果てて。
吟遊楽師が来る。暗い場所から。楽団は楽器を打ち鳴らし。
今や街中に満ち溢れる、乱れ狂える楽師の群が、他の人々には見えないのか。
通りすがりに揶揄われても人々は振り向きもせず、気付きもしない。
楽師の姿が見えているのは私だけだと云うのだろうか。
吟遊楽師が来る。心臓の裡から。頭蓋に旋律を湧き出でさせ。
それを呪いと知りながら。憧憬は已まず只彼らの音楽に酔う。
人の生活から外れた後には元の人生に戻れないと知りながら、
こちらを見もせぬ楽師の後を我から追う。