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帰還1日目:侵攻

 そうして。

 マリーリアは、城の前までやってきた。

「王都は諦めたみたいね。潔いことだわぁ」

 ……ここまで、障壁らしいものは何も無かった。兵士達も、王都の周辺の門にはほとんど配備されていなかった。

 唯一、弓兵達が一斉に矢を射かけてきた時があったが、それも、島ゴーレムの腕の一振りで終わった。……そもそも、島ゴーレムにとって、矢など、毛より細いような存在である。そんなものが刺さったとしても、全く損傷にならないのである!

「さて。問題は城門かしらぁ」

 ……ということで、マリーリアはいよいよ、バルトリアの王城を見下ろして、『ちっちゃなお城……いえ、ゴーレムが大きいのよねえ。うーん』と何とも言えない感想を漏らした。まあ、城はちっちゃい。島と比べれば。当然である。

「流石に何か仕掛けてくると思うけれど……」

 マリーリアは城門にまた一歩近づいたそこで、『撃て!』と声がするのを聞いた。つまり……。

「あらぁ」

 砲撃、である。




 どん、と衝撃が走る。

 島ゴーレムはその体に幾発もの砲撃を受け、流石に、体の一部を吹き飛ばすことになった。

 ……無論、まだ、持ち堪えられる。まだ、動かせる。次の砲撃が来るまでの間に、砲台を潰すことはできるだろう。

 だが。

「なら、ここを私の島にするわぁー」

 マリーリアはにっこりと笑うと……ぴゅい、と口笛を吹いて、ワイバーンに乗ったおちびゴーレム達を呼び寄せた。すると、すぐさまワイバーン達が飛んでくる。彼らの脚に括り付けられているのは、籠だ。

「総員、脱出!目標は国王!しかし、脱出を最優先し、巻き込まれないように動きなさい!さあ、進め!」

 マリーリアはひらり、と籠に乗り込む。それと同時、アイアンゴーレム達が、その体の頑丈さを活かして、城門に向かって飛び降りたり、島ゴーレムの腕を伝って城壁まで移動していったり、とわらわら動き始める。

 だが、そんなアイアンゴーレムやマリーリアに構うな、とばかり、島ゴーレムに向けた砲撃が続いた。目標が大きいから狙いやすい、ということなのか、『他はどうとでもなるがこればかりは今ここで倒さねば後が無い』とでも思っているのか。

 いずれにせよ、彼らは誤った判断を下したと言える。マリーリアはワイバーン達に運ばれて上空へ脱出しながら……そっと、島ゴーレムへ割いていた魔力の供給を、切った。


 ……そして。

 ずん、と地響きが走る。

『何だ!?』『やったか!?』とバルトリアの兵士達の声が聞こえるが……もう、遅いのだ。

「……流石に短慮じゃないかしらぁ……」

 マリーリアは、島ゴーレムから脱出しながらぼやいた。

 操作を放棄した島ゴーレムは、損傷した脚から順に崩れ落ちていく。……となると、当然、島1つ分の土砂や岩石が、その場に崩れることになるのである!


 凄まじい音。響く悲鳴。

 島ゴーレムを城門で倒すという短慮によって、バルトリア王城前は土砂で埋まった。

 当然、砲台も、そこに居た兵士達も、皆、埋まった。当たり前である。彼らは短慮のツケを、自らの命で支払うことになったのである。

「ゴーレムって、倒したら死体が消えてくれるような、そういう存在じゃあないのよねえ……」

 ……倒れても、ただでは倒れない。その場にその巨体を残していく。そして、成形し直して魔力を注ぎ直せばまた動く。

 それが、島ゴーレムというものなのだ!マリーリアは、脱出し終えたアイアンゴーレム達が地上を占拠していくのを見ながら、そっと島のてっぺんに降り立ち、にっこりと笑った。

 もし、フラクタリアで『島流しになった者が帰還するなど許されない!』と言われてしまったら、『じゃあ島に住むわぁー』ということで、ここに住もう、と心に決めながら……。




 ……と、そんな時だった。

「……あらぁ」

 ぶわり、と、魔法の気配を感じ取ったマリーリアは、うっすらと微笑んだ。

「ようやくお出ましね」

 目を細めて、魔力の発信源を見つめる。……そこには、豪奢な服に身を包み、しかしそれらも土埃に汚れた、バルトリア国王と思しき者の姿があった。

「随分と巧く化けた死体ですこと」

 微笑むマリーリアの目は、鋭く冷たい。

 ……そう。目の前に居る奴こそが、マリーリアの島にかつて居た者。

 かつて奴隷であったものが、何かのきっかけで魔石を手にし、そこから死霊術を用いて島の体制の転覆を謀った……例の、死霊術師なのだろう。

「自分で自分に死霊術を使ってるのね。中々賢いんじゃなくって?」

 マリーリアの言葉が聞こえているのかいないのか。バルトリア国王は、憎しみに満ちた目で、マリーリアを睨んでいた。




 マリーリアの予想通り、どうやら、現在のバルトリア国王は、齢100を超えるお方にあらせられるようだ。

 尤も、齢を取ることなく、ずっと同じ体を維持し続けているのだろうが。

 ……死霊術を、自らに用いているのだ。肉体を保存し、魂を固定化するための術を、強固に、緻密に編み上げて、それで自身を包んでいるのである。

『自分で自分に死霊術を使うなんてあるかしらぁ……』と一度は思ったマリーリアであったが、100年前も現在もバルトリアで死霊術が跋扈しているらしいことを考えると、どうにも、その可能性に行きあたってしまったのである。

 そして、魔法を自分で自分に使うということは、可能だ。それくらいは、マリーリアもよく知っている。そしてその魔法の精度が極めて高いならば……死霊術であっても、それは可能だろう。

 そうだ。前代未聞のことではある。だが、島の魔石を使い、魔法を強化したならば……十分に、可能だ。

 結局のところ、ゴーレム使役も似たようなものだが……死霊術とは、肉体を保存し、魂を固定化するための術だ。『死者を操る』という至極単純なものではないのである。であるからして、応用したならば……滅びない体に、切り離されない魂。それを実現することもまた、可能なのである。

 そう。今、マリーリアが見下ろしている、彼のように。




「ごきげんよう、国王陛下。私、マリーリア・オーディール・ティフォンと申しますの」

 マリーリアは島の上から国王を見下ろして、優雅に一礼して見せた。頭が高い。物理的に高い。島のてっぺんから国王までの間に、城1つ分程度の高さがあるので、もう、それはそれは頭が高い。

 だが、今ばかりはそんな頭の高さがよく似合う。マリーリアの堂々としてまるで動じることのない態度……島1つを束ね、ゴーレムの兵団を率いる女王の器こそが、マリーリアをより一層、高貴で……かつ、強大な脅威である、と、バルトリア国王に認識させたのである。

 言葉は聞こえずとも、マリーリアの優雅な一礼は見えたらしい。バルトリア国王は、いよいよ怒りに満ちた表情で……魔法を、使う。

「ああ、死霊術ね。まあ、島の中に何人も埋まっているんだもの、それを兵士として使わない手は、無いわよねえ」

 要は、死霊術によって、今さっき死んだばかりの者達を蘇らせようとしているのだろう。……だが。

「……ゴーレムもそうだけれど、その肉体の性能以上のものって、中々出せないのよねえー」

 ……死体は一向に出てこない。

 それはそうである。今、島ゴーレムに潰された死体は……間違いなく、形がほとんど残っていない!土砂に押し潰され、磨り潰された死体がまともに動かせるはずはないのだ!

 そして、もし形が残っていたとしても……人間の肉体は、脆い。自分を押し潰さんとする土砂を掻き分けて出てくることなど、できようがないのである!

「ふふふ。その点、うちの兵士達は優秀よぉ。ちゃんと、土砂に飲み込まれないように脱出できるし。埋もれても、自力で出てこられるし……」

 鉄の肉体は、土砂を掻き分け、岩を殴り飛ばして這い出して来ることもできる。よって、アイアンゴーレムの方が、死霊術の兵士達よりずっとずっと、優秀なのである。

 マリーリアがさっさと脱出を命じていたことも功を奏した。アイアンゴーレム達はすぐさま隊列を組み、そして、国王が居る城壁の一角……そこに位置する塔にまで、どんどんと上り詰めて行く。


「ほら。チェックメイトだわぁ」

 ……そうして数分と経たない内に、ジェードが率いるアイアンゴーレムの兵士達の剣が、バルトリア国王に届いていた。




 ちら、とジェードがこちらを見る。指示を待っているのだろう。

「構わないわ。首を刎ねておしまいなさいな」

 なのでマリーリアも躊躇うことなく、そう指示を出す。騎士団時代に覚えた少々品の無いジェスチャーは、『首を斬り落とす』ことを示すものだ。指示に丁度いい。

 ジェードはマリーリアに1つ頷くと、怯え、顔面蒼白になった国王へと迫り……そして。


 ぱっ、と、血が飛び散る。

 恐らく、肉体の保持が完璧であるが故に、心臓も血液も、動いていたのだろう。つくづく『よくできた死体』であった。

 だが、死体は死体である。

「これでよし、と。うふふ、私、ずっとこうしたかったのよねえ。あの時、撤退命令が出ていなかったら、1年半前にバルトリア王都を攻め落として、こうしていたのだけれど」

 マリーリアがにっこりと微笑む先で、ジェードがバルトリア国王の首をぶら下げて、その手に掲げていたのであった!




 ジェードが戻ってきて、マリーリアの前に跪く。そして、マリーリアにバルトリア国王の首を差し出した。

 マリーリアは、斬り落とされた首を見下ろして、にっこりと笑う。


 だが。

「……流石だな。マリーリア・オーディール・ティフォンよ」

 その生首が、そう喋った。


「やだぁー!生首が喋ってるぅ!」

 そして直後、ぱぁん!といい音がして、マリーリアが振り回した槍がバルトリア国王の生首を思い切り打ち据えた!


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― 新着の感想 ―
[一言] 巨神ゴーレム、ダメージ受けたら自壊させて質量攻撃とかヤバすぎる 地味に戦争もうちょっと続いてたらバルトリア王都陥落させてた宣言……血の気の多さはやっぱり元々の性格かもしれない
[一言] まあ死んでるなら首跳ねた程度じゃノーダメに近い反応もそりゃそうね
[一言] ゾンビ化した死霊術師なら、首落としたくらいじゃあ倒せないですよねぇ。アイアンゴーレムたちでサッカーでもしますか。ボールはバルトリア王の頭で!
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