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島流し460日目:帰るために*2

「勿論、まだ、この死体が私が殺した人じゃなくて、私が殺した人の双子とか、親戚とか、そういう可能性も無いわけじゃないし……そもそも、殺した相手の顔、そんなに正確に覚えていないかもしれないし……」

 マリーリアは一旦、冷静に考え直した。

 戦場で殺した相手のことなど、一々覚えていないかもしれない。自分の記憶を疑い始めている。

「でもこの髭、見覚えあるのよねぇ……やだぁー……」

 ……だが!幸か不幸か、目の前の死体は、ものすごく髭が特徴的なのだ!なんかこう、一度見たら忘れないタイプの髭なのだ!これはもう、言い訳できない!言い訳できないくらいに、髭!

「この島で死霊術が使われていた上、今、バルトリアでも死霊術が……やだぁー、なんか話が繋がってきちゃったわぁ……」

 マリーリアは一頻り、『やだぁー!』とやった。流石に、色々と混乱した。特に……例の、あの頭蓋骨の話を聞いているマリーリアとしては、ものすごく嫌なのである!

 この島の現状と、例の頭蓋骨の話……あの2つはどうにも噛み合わなかったが、それらが噛み合う可能性が、出てきてしまった。




「一旦整理しましょ。あああ、頭が痛いわぁー……」

 マリーリアは砂浜に木の枝でがりがりと線を引いて、情報を整理し始めた。一旦考えないことには、どうしようもない。気づいちゃった以上は、もう見てみぬふりはできないのだ。

「まず……この島の状況と、例の頭蓋骨さんの話の食い違うところをもう一回まとめましょ。えーと……」

 そうしてマリーリアは、文字を書きつつ記憶と考えをまとめていくことになる。


 ……まず、頭蓋骨の話では、『バルトリアはミラスタ王国との戦いで劣勢に追い込まれ、滅んだ』ということだった。だが、現状、バルトリアは滅びていない。逆に、ミラスタ王国は100年前に滅びている。そして、今のバルトリアはフラクタリアを滅ぼす勢いである。滅びそうにない!

 これについては……前々から考えていたことではあったが、1つ、矛盾しない説明ができる。

 それは、『頭蓋骨さんが死んでしまった後で、バルトリアの王子が島を脱出し、バルトリアに帰り、そこでいきなり戦況が回復してミラスタ王国を返り討ちにした』という説明である。

 ……当然だが、どう考えてもおかしい。そんな都合よく物事が進むようでは、色々と、おかしい。

 だが、説明はつく。現実味がまるで無いが、一応、説明はつくのだ。

 ……或いは、もう少しばかり現実味を出すならば、『一旦、劣勢となったバルトリアだが、王子を逃がした後、国に残った者達の奮闘によってミラスタ王国を返り討ちにすることができた。その後、島に逃がした王子を連れ戻しに行った』とすればよい。

 まあ、王族が無人島に逃げるような戦況をどうやってひっくり返したのか、という最大の謎は残るが、それはそれ、である。王子が帰っていきなり戦況が回復するよりはマシな説明であろう。確か、頭蓋骨の話では『船は奴隷達に破壊された』ということであったし……。


 さて。次に矛盾するところは、『奴隷が死んで減ってしまったので、王子が貴族にまで奴隷の首輪をかけてきた。最早王子は我らが崇敬する相手ではない!』という主張だろうか。

 何せ……廃墟の町を見ている限り、どうも、この島は善政の元に興ったと考えられるからだ。

 恐らく、奴隷にもそれなりの地位と権利を与えていたのではないだろうか。そうでなければ、こんなにも家屋が立ち並ぶことにはなるまいし、貨幣が必要になるような状況にもなるまい。

 ということで……当時のバルトリアの王子が頭蓋骨さんをはじめとした貴族達に奴隷の首輪を掛けたことについて、何か事情があったのではないか、と思ってしまう。無論、その事情というものは、判然としないが……。


 そして何より大きな謎は、今、この島に誰も居ないという事実。そして、この島全体に広がっていた死霊術であろう。


 死霊術がああまで広がっていた。実際に、残っていたゾンビも居た。

 だというのに……それだけなのだ。

 他にあったものといえば、坑道近くの拠点に居た、例の頭蓋骨さんだけである。

 そう。あれだけの規模の死霊術が組まれていた以上、もっとたくさんのゾンビが居てもいいのだ。頭蓋骨さんの話では、もっと多くの奴隷が居たというではないか。ならば、それらの死体はどこへ行ったというのだろう?

 ……ついでにもう1つ気になることを挙げるならば、頭蓋骨さんが死んだ時の話だ。

 彼は、『奴隷が反乱を起こしたらしい。今までどこにこんな数が居たのかと思われるほどの数の奴隷が押し寄せてきた。叩いても全然退かないし怖かった』というような話をしてくれたが……今考えると、あれは……。

「……当時から、既に死霊術が使われてた、ってことよねぇ……」

 ……当時、慎ましくも栄えていたであろうこの町で、奴隷が大量に死んでいたというのもおかしな話だ。だが、それらが死霊術によって操られ、当時の貴族達を襲ったということなら、筋が通る。

 ついでに、この島の中心にあった、例の……『雑な』死霊術についても、説明がついてしまうのだ。

 術者には魔法を学ぶ機会が無かったのであろうと考えられるし、その後、貴族が死んだ理由も説明できる。この島が滅んだ理由も。


「奴隷の中に、死霊術の才能を持った人が居た……ってことかしらね」

 マリーリアはそう結論を出しつつ、浜辺の死体を眺めるのであった。

「……そして、その本人か、その子孫かが、今のバルトリアに居そう、よねえ……?」

 ……ついでに、海の向こうに遠い目を向けるのであった!




 色々なことが繋がって、大変なことになってきてしまった。

 無論、今のところはマリーリアの推測だ。だが……やはり、どうにも、ただの推測とは思えない。

 色々なことが、繋がりすぎているのだ。それこそ、マリーリアには知らない部分でも、きっと何か繋がっているものがあるのだろうと思われる程度には。

「戦場はいい補給所よね。死体が出れば出るほど、戦力が増えるんだもの。味方は死んでも動き続けるし、敵が死んだら駒が増えるわ。バルトリアが連戦連勝なのも、それかも」

 バルトリアが軍事大国になったのは、100年ほど前からだ。それより前の記録は、最早、ほとんど残っていない。100年ほど前にミラスタ王国相手に戦っていたのだろうが……そのあたりから、がらり、とバルトリアの戦績が変わっているのである。

 ……まあ、死霊術は、戦場においてすさまじい強さを誇る能力である。言ってしまえば、無限の兵を手に入れる能力なのだ。

 味方は消耗せず、敵は消耗した分だけ味方になる。そんな能力が大規模に運用できるなら、戦争は負け無しであろう。


「奴隷の首輪の説明も付いちゃうのよ。要は、魂の固定だわぁ……。先に奴隷化して魂を縛っておけば、死霊術で操るの、ものすごく面倒になるものねえ……。ゴーレムとかも、そうだけれど……不純物があるって、操作に支障をきたすのよねえ……」

 更に、頭蓋骨が言っていた奴隷の首輪についても説明がついてしまう。

 死霊術をこの島の中で大規模に操れる者が1人居たならば……真っ当な者であれば、『殺されて操られる』ということの心配をするだろう。或いは、実際に奴隷が大量に死んだことがあったらしいので、それを見て咄嗟に判断したのかもしれない。

 ……当時のバルトリアの王子は、貴族達に奴隷の首輪を掛けたというが、それは恐らく、貴族達が死んだ後に操られることのないように……つまり、『だからこいつを殺しても旨味が無い』と判断させて、少しでも命が助かるように、ということだったのだ。


「頭蓋骨さんに、これ、教えてあげたいわねえ」

 無論、マリーリアの推測が正しい、ということにはならない。推測はあくまでも推測だ。事実はもう、深い闇の中。歴史の底に沈んでしまって、取り戻す手段などありはしないだろう。

 だが、それでもマリーリアは、例の頭蓋骨に教えてあげたい気がするのだ。……あなたが仕える相手は、立派な人だったんじゃないかしら、と。




 さて。

 頭蓋骨さんのことは、まあいい。適当な頃合いでお供え物でも持って行ってあげよう、というくらいなので……。

 今、考えるべきは、これからの計画のことでもあり……新たに推測できてしまったことから考える、マリーリアの現状である。

「死霊術を使えば死体が動く。だから戦争では負けなし、だけれど……人以外の相手には、効果が薄いのよね。つまり……」

 マリーリアはようやく、自分がこの状況にある理由を理解することができたのだ。

「……私って、最悪の相手なんじゃないかしらぁ……?ゴーレムって、死霊術じゃどうにもならないものねえ……。あっ!だから私、処刑されることになったのね!うふふ、納得だわぁー!」

 そう!

 マリーリアが処刑されることになった理由は、まあ間違いなくバルトリアからの申し出であろうし、それに日和ったフラクタリア国王によるところが大きいだろう。

 だが、バルトリアが何故、マリーリアを潰したかったか、といえば……少々、疑問だったのだ。

 何せ、マリーリアは指揮官。実際に敵を殺して前線で戦っていた騎士および騎士の鎧となったゴーレム達はまた別であり、更に、マリーリア以外にも、他の隊を率いていた指揮官が居たはずなのである。だというのに何故、マリーリアがわざわざ処刑の対象になったか、といえば……。

 ……当然、『ゴーレム使いのマリーリアは死霊術師にとって最悪の相手だから』であろう!


「……ところで、私をこの島に島流ししたのって、最大の悪手じゃないかしらぁ……。ということは、私を処刑じゃなくて島流しにしたことと、行き先についてはバルトリアじゃなくてフラクタリアで決めた、っていうかんじよねえ、きっと」

 無能ここに極まれり。バルトリアからしてみれば、殺してほしかった人間が殺されず、しかも一番送り込んでほしくないところに送り込まれてしまった、というところだろう。フラクタリア国王が機転を利かせた……とは思えない。そういう人なのである。あの王は!

「或いは、私1人、無人島に放りだしたら死ぬって思われてたのかも。そうだとしたら舐められたもんだわぁー。うふふふ」

 実際はこのように島全土を支配下に置き、もりもりとアイアンゴーレムを量産しているので、まあ、敵としては大失敗である。バルトリアでは今頃、誰かが頭を抱えているのかもしれない。抱える頭が首の上に残っていればいいが。




 マリーリアは笑って、海岸を後にする。

 海岸の死体は、『適当に海に放流しておいて頂戴な』とゴーレム達に命じておいた。これで、適当に海の藻屑が増えることになるだろう。

「ま、よくってよ。死霊術相手なら、私、とっても強いもの。その分、しっかり準備して帰還すればいい、ってことだものね。……敵を、しっかり潰せるようにしなきゃ。相手は私を何としても潰したいでしょうから。うふふ」

 ……杞憂なら、それでいい。だが、準備はしておくべきだ。そして、それを怠るマリーリアではない。

 やるなら徹底的に。……それが、マリーリアのやり方である。

 相手が死霊術師であるというのなら……やはり、徹底して、ゴーレムによる武力を固めて出向くべきだろう。

 それも、可及的速やかに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 島の謎を探っていたら、ぐるっと回って自分の島流し理由にも辿り着いてしまった。 [気になる点] マリーリアちゃんとオトモ騎士達、戦場で戦ってた時に、なんで死霊術に気付かなかったんでしょう?切…
[一言] 単なる追放&逆襲な話ではなくなって、アイアンゴーレムの増産は今後も続けるべきな状況になってきたようなー
[一言] なるほど治めるべき国民なんて端から居ない訳か。みんなアンデッドと…生産性の無さそうな国家だなそれ…。
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