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島流し460日目:帰るために*1

 無人島は、もうじき実りの秋を迎える。

 ……島のあちこちでは今日も土砂が切り崩され、砂鉄を生み出している。

 ついでに、島の一部……かつての坑道であった部分にはおよそ100年ぶりにつるはしの音が響くようになった。

 また、島は少々形を変えた。山の頂点が切り崩され、さながら、座ったゴーレムの頭のようになっている。

 そうして、ゴーレムの腕にあたる部分に通された索道2本は、今日も砂鉄やゴーレム、その他の資材等々を運び、この島の発展を支えている。


 ……島流し460日目。

 この島は、この半年弱で急激に発展を遂げている。




「よし。今日もアイアンゴーレムが増えたわねえ。うふふ……」

 その夜、マリーリアは今日の成果を確認しながら、新たなゴーレムを生み出した。

 ……鉄穴流しの効率化が進んだ他、鉄鉱石の採掘も進められるようになった結果、アイアンゴーレムの生産速度は随分と上がった。

 今や、1日に2体程度のアイアンゴーレムが増えているような有様だ。すぐにアイアンゴーレムが増えていくので、とにかく労働力には困らない。

 島中がアイアンゴーレムによって、整備されていく。マリーリアの知識や経験をある程度受け継いでいるアイアンゴーレム達は、魔物すら支配下に置き、木々を伐採し、植物を刈り取り、或いは植え直して、新たな設備を造り……といった作業を、それぞれがどんどん進めていくのだ。

 マリーリアが直接指示を出しに赴くこともあるが、概ね、『じゃあ、最終的にこんなかんじにして頂戴ね』という目標をある程度細かく設定しておくだけである。それだけで、後はアイアンゴーレム達が島中で働いてくれるのだ。

 アイアンゴーレムは、疲れない。24時間働き続けることができ、更に体も丈夫である。

 ……そんな奴らが100体以上集まったこの島は、最早、マリーリアの島と言っても過言ではない。

 そう!マリーリアはこの島の頂点に君臨していたのだった!




「島の整形は……成程ね。こんなかんじなのね」

 さて。

 今日のマリーリアは、小さなアイアンゴーレム達から報告を受けている。

 報告の内容は、島の整形の進捗状況である。

 この小さなかわいいアイアンゴーレム達は、ワイバーンを1匹ずつ手懐けており、騎獣として運用していた。そうして空を飛び回り、定期的に地図を描き直しては更新してくれるのである。

 おかげで、島の形の変遷が全て記録されている。マリーリアは『1つ前の地図』と見比べながら、『ここがやっぱりちょっと出っ張ってるわよねえ。もうちょっとこっち削りましょうか』といったように、ジェード相手に話しつつ、考えをまとめていくのだ。……当然、ジェードから返事は無いが。

「ありがとう。ご苦労様。じゃああなた達は伝達をお願いね」

 そうして決まったことは、小さなアイアンゴーレム達に伝えておくと、各地のゴーレム達に情報伝達が成される。

 ……ゴーレムには、ある程度はマリーリアの意思が伝わる。だが、マリーリアから各地に散らばったゴーレム1体1体に直接連絡をしていると、魔力の消費がバカにならない。

 そう。マリーリアは今や、100を超えるアイアンゴーレムを保有している。なので、実は維持だけでちょっぴり大変なのだ!まあ、魔石の首飾りを身に付ければ、倍以上のゴーレムでも何とかなってしまいそうだが……。

 ……ということで、情報伝達については、マリーリアから小さなゴーレムまたは近衛ゴーレム達へ、そして小さなゴーレムや近衛ゴーレムから他のゴーレムへ、というように、連絡網を設けた。

 小さなゴーレム達はワイバーンに乗って空を飛べるので、島中を移動することができる。よってマリーリアの伝書鳩のようになっているのだ。

 ついでに、毎日手旗信号による連絡も行っている。中央の鐘が鳴ったら信号が始まるぞ、ということにしておけば、各地のゴーレム達が信号を受け取ることができる。それを利用して、昼前と夕方との1日2回、定期連絡が行われているのだ。


 と、このようにして行動範囲を大きく広げたマリーリアは、島全土を掌握し、それらを統括する立場として島の中央、廃墟の町の一角に住み着いている。

 元の家の方が愛着があるのだが、島をゴーレムにするとなると、マリーリアが中央に居た方が、便利なことも多い。よって、マリーリアは『元のお家に帰ってゆっくりするのは週に1度!』と決めている。……その時には、ワイバーン複数匹がぶら下げる籠に乗って、悠々と空の旅を楽しみつつ移動している。

 そう。マリーリアは、休暇を取るようにした。

 毎日働かなければ生きられなかった島流し当初とは違い、今は仕事のほぼ全てをアイアンゴーレムがやってくれる。なので、ゆっくりと休む日を設けることができるようになった。

 そして……意識して休むようにしなければ、また風邪をひきかねない。マリーリアはあの風邪の日を繰り返さないためにも、休暇を設けることにしたのだった。

 尚、ゴーレム達も休暇を取るようにしてある。ゴーレムは疲れない体を持っているとはいえ、体に付いた細かな傷や汚れを落とし、使役の魔法を整える時間を設けた方が、より高効率で動けるのである。長持ちもする。よって、マリーリアはゴーレム達にも週に1度は自らのメンテナンスを行うよう命じているのだ。

 おかげで、毎日ゴーレム達は元気に働いている。マリーリアは彼らを眺める度、より一層の活力を得たような、そんな気分になれるのだ!




 ……さて。そんなマリーリアであったが、昼前、小さなアイアンゴーレムから報告を受ける。

「あらぁ?どうしたの?」

 ワイバーンに乗って各地に情報伝達をしていた小さなアイアンゴーレム達の内、この小さなゴーレムは海岸の方へ向かっていたゴーレムである。海岸では製塩と皮の処理、海の監視などが行われているのだが……。

「うん、うん……『漂着物』ね」

 小さなゴーレムが差し示したのは、文字を書いた紙。それらを1文字ずつ指差すことで、ゴーレムからマリーリアへの詳細な意思の疎通が可能になるのだ。

「何が流れ着いたのかしらぁ……。よし、行きましょう」

 マリーリアは『漂着物』が何か異常事態であると踏んで、すぐさま移動する。他の地区からも戻ってきていた小さなアイアンゴーレムとワイバーン達によってマリーリアの籠が運ばれて、そう時間もかからずにマリーリア達は海岸へ到着したのであった。




 ふわり、と上手に着陸した籠から出て、マリーリアは早速、海岸の人だかり……否、ゴーレムだかりへと近づいていく。

「何があったのかし……やだぁー」

 そして、ゴーレム達が見つめていたそれを見て、マリーリアはぎょっとする。

 そこには、倒れた人が何人か、居た。


 マリーリアはほんの1秒程度で、その人間達が何者かを推察する。

 まず、一番立派な服を着た者を見て情報を得る。

 服は、フラクタリアのものともバルトリアのものとも言えない。布地はフラクタリアの伝統織のように見えるが、服の形と縫製の悪さはバルトリアのものだ。となると、フラクタリアの布を輸入して、バルトリアで仕立てたものだろうか。

 身に付けている装飾品の類を見る限り、貴族だろう。フラクタリア国内で見たことは無い。……が、そもそもマリーリアもフラクタリアの貴族の中では然程顔が広い方ではないので、彼が絶対にフラクタリアの貴族ではないとは言い切れない。

 だが、顔立ちを見る限り、バルトリアの者に見えた。

 ……つまり、敵である。

 が。

「……あ、これ死体じゃない。よかったわぁー」

 それは、死体だ。死体であった。既に死んでいる!

 なので安心!マリーリアは、振りかぶっていたつるはしを下ろして、にっこり笑った!

 ……死体でなかったら、殺していたところである。




「うーん……近くで、バルトリアの商船が1つ沈んだ、っていうところかしらぁー……?」

 マリーリアは首を傾げつつ、バルトリア人と思しき者の死体を改めて観察する。

 ……ひっくり返してみると、刀傷があった。傷は海水でふやけているが、それでも分かる限りのものから推測するに……曲刀によるもの、だろう。海賊が好んで使うような。

「……海賊にでも襲われたのかしら。やだぁー」

 ということは、船が沈んだというよりは、船が襲われ、海賊が船に乗り込んできたところで斬り殺され、そのまま海へ捨てられた死体……といったところかもしれない。マリーリアは改めてもう一度『やだぁー』と言っておいた。これから島をゴーレムにして脱出するにあたって、周辺海域は安全な方が嬉しいのだが……。


 さて。

 死んだバルトリア人はどうでもいい。問題は、他にも流れ着いている死体である。

「こっち……は、奴隷、かしらぁ……」

 ……バルトリアの貴族と思しき死体の外にも、死体がいくつか流れ着いているのだが……それらは、貴族のような恰好ではなく、もっと簡素な、或いは粗末な恰好をしている者が多い。

「でも、これは篭手を身に付けているし……うーん、着替え中の、兵士?」

 マリーリアは死体を見ながら推測していく。……ここに流れ着いている死体は、鎧を纏っている訳でも、剣を持っている訳でもない。だが、そもそも鎧を着ているような死体は海に沈んで中々流されないだろう。

 そう考えると、ここにいる死体が兵士達であって、たまたま鎧を着ていなかったか、鎧が脱げたかしたものである、とも思える。

 ……何より。

「この顔、見たことあるわぁー……」

 死体の内の1つに、見覚えがあった。

「確か、国境の防衛線でボコボコにしてあげた軍を率いていた人、じゃないかしらぁ……。或いは、親戚?似てるわよねえ……」

 ……そう。死体の内の1つの顔を見る限り……どうもこれは、マリーリアがかつてボコボコにしたバルトリアの兵団の者であったのである!




 だが。

「……でも、私、あの時にこの人、殺さなかったかしらぁー……?」

 問題は、そこである。

 マリーリアは確か……この死体が生きていた頃、アイアンゴーレムの群れを使ってボコボコに撲殺したような覚えがあるのだ!

 ……1年以上前に死体にしたものが、今、この島に漂着している。然程傷んでいない。

 そう考えると……。

「バルトリアで死霊術が使われてるってこと!?やだぁー!」

 そういう結論に、なってしまうのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] バルトリア滅ぼそうにも一般人が邪魔だなーとか思ってましたが、みんなゾンビーになってるなら気にせずやれますねぇ!なんか思考がヒャッハー方面に寄ってるなぁ…
[気になる点] 死霊術……あっ、あの人既に……やだー。
[一言] 術者から離れすぎたからただの死体に戻ったってことですかね?
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