島流し321日目:開拓*1
「ということで、この島をゴーレムにするわぁー」
……島流し321日目の朝。マリーリアは堂々と、そう宣言したのであった!
「魔石はこの島全土に点在している可能性があるけれど、それでもやっぱり、一番多いのはこのあたりだと思うのよね。だからここを中心として、島の形を整えていくことになると思うの」
マリーリアはゴーレム達に説明していく。するとゴーレム達は、ふむふむ、と頷きながら聞いてくれるので、なんとも話し甲斐がある。
「それで……多分、丁度このあたりが川で、今切り崩している辺りがここ。ここが谷で、それからこっちにまた別の川があるでしょう?だからひとまず、ここで島を区切って成形してみようと思うのよ」
マリーリアは、簡易的な地図……以前発見した仮拠点の地下にあったものを書き写したそれを示しながら話を進めていく。
この地を中心にして、川2本を上手く利用して……この島の中央に、ゴーレムを生み出すのだ。巨大な、巨大な……ありとあらゆるものが『誤差』になりそうな大きさのゴーレムを、生み出すのである!
「ということで問題は、成形。それから他の魂の除去と……『核』の埋め込みね」
さて。島をゴーレムにすると決まったならば、やるべきことも定まってくる。マリーリアはにこにこと笑いながらゴーレム達への説明を続けた。
「まずは成形。ここからここまでをゴーレムにする、っていうのは、分かるようにしておかないとね。……最悪の場合、魔力で線を引いて切り離すけれど、できれば地形自体を弄ってなんとかできた方がいいわぁ」
まず、必要なもの1つ目は、成形である。
ゴーレムをゴーレムとして動かすために必要なのは、マリーリアの魔力と技術。そして、ゴーレムの素体となるもの、であるが……このゴーレムの素体は、マリーリアに形が近ければ近いほど操りやすくなる。
まあ、つまり、人間の形をしていた方がいいのである!
……とはいえ。
「……魔石の量が多ければ、成形がとんでもなく甘くても、何とかなると思うわぁ。小さければ小さいほど造形の精度が必要だけれど、島の一部ほどに大きくなっちゃったらもう、形なんて誤差なのよねえ……」
……ごく小さなゴーレムを作るのであれば、そこには精度が求められる。手のひらに乗る大きさのゴーレムにとっての『マリーリアの指一本分』と、家よりはるかに大きなゴーレムにとっての『マリーリアの指1本分』は、違いすぎる。
そう。ゴーレムが大きければ大きいほど、精度が低くても動くはずなのである。よって、『成形』は、実は然程必要ないのではないか、とマリーリアは踏んでいた。あとはマリーリアの想像力次第、技術次第である。
そして最後に……。
「島の中心……ゴーレムの中心になる位置に、私の一部を埋め込むわ。そうすれば操作しやすいはずよ」
ゴーレムを操作しやすくする技。それは、『ゴーレムに自分の一部を埋め込んで核にする』という技術である。
ゴーレム使役に限らず、自身の体の一部を切り離し、自身の延長とする術はあちこちで使われている。自分の血で魔法の模様を描いたり、先祖の骨を何かの代償に使ったり、といった用法が多い。
「埋め込むのは、そうねえ……血を少しと……」
マリーリアは、持っていたナイフをちょっと見つめる。『血を出す時にはちゃんと研ぎ直してからにしーましょ』と考えたのである!
だが……血は、あくまでも保険程度だ。何故ならば……。
「それに、髪よ!うふふふ。取っておいた甲斐があったわぁー」
マリーリアの手元には、既に『切り離した自分自身の一部』が、大量にあるのだから!
島流し当日に切った髪を今日までちゃんと保存していたことには意味があった!マリーリアは『よかったぁー』とにっこり笑って、ゴーレムづくりにまた一歩、近づくのであった!
そうして準備を行った後……島流し325日目。いよいよ、島を巨大ゴーレムに変えていく計画が始動した。
「じゃあよろしくね。気を付けていってらっしゃいな」
……マリーリアがゴーレム達に任せるのは、島の成型作業だ。
どこをどう削り、どう崩して、或いはどう盛っていくか。これらは、今、鉄穴流しをやっているゴーレム達と相談しながら決める必要があるため、一部のゴーレム達が一度、拠点へ戻ることになった。
「あなたも気を付けて行くのよ」
また、成形しようにも、その指標となるものが無い状態ではどうにもならない。ということでマリーリアは、実験がてら作ってみた小さなゴーレムを……そこらへんに居たワイバーンの背中に乗せた!
「じゃあ、あなた、適当に空を飛んでらっしゃいな。この子を落とさないようにね!」
……ワイバーンは、マリーリアやジェード、その他アイアンゴーレム部隊によって完膚なきまでに叩きのめされたところである。そして、いよいよ逃げようとするところで背中に小さなアイアンゴーレムを乗っけられてしまい、いよいよ途方に暮れたような顔をしていた!
だが容赦するマリーリアではない。戸惑うワイバーンを槍でつんつんつつきつつ、『ほーら、飛び立ちなさいなぁー』と追い立てるので、ワイバーンは背中にゴーレムを乗せたまま、必死に羽ばたいて、上空へと消えていった。
ワイバーンが飛んでいった空を見上げて、マリーリアは『うん!いいお天気!』とにっこりした。混乱しきったワイバーンの『みぇえええええ』というような叫び声が空に響き渡った。
「さて……。じゃあ、私達は『魂の除去』に行きましょう」
こうして、ゴーレム達が動き始めたところで……マリーリアも、動く。
マリーリアやジェード、他4体の近衛ゴーレムが行う作業は、『魂の除去』だ。要は、マリーリアが島をゴーレムにするにあたって、他の魂が残留していればいるほど操作しにくくなるのである。少しでも負担を減らすべく、他の魂……つまり、島に生息する生き物や、その死骸などを除去していく必要がある。
つまり。
「久しぶりに狩るわよぉー。うふふふふふ」
……狩りである。
最近はすっかりゴーレム達に任せてしまっているので、マリーリアにとってはすっかり久しぶりになった、狩りなのである!
ということで、マリーリアは存分に狩り、また、嫌というほど生き物の死骸を除去した。
やはり、島ともなると残留しているものも多い。小動物や微生物が分解しきれずにいるような、大きな魔物の死骸を見つけると、とてつもなく大変である。
死骸は食べられない。精々、畑に撒く程度しか使い道が無いし、それでは魂の除去にならないので、基本的には燃やして火葬にするしかない。
……その点、狩りは良い。狩ったら食べられるので、やる気が出る。まあ、この島がゴーレムになったら、生きている彼らは自らの脚で逃げ出すであろうと考えると、そんなに頑張って狩らなくても良いような気もするが。
「お肉がいっぱいね。うふふふ……」
……だが、今のマリーリアは、『食べる』ことを目標にしてあれこれ動かしている!仕方がない。食欲は、人間にとって大切な感覚の1つなので……。
その日の夕方。仮拠点前には、マリーリア達が狩った獲物が並べられていた。戦果は上々である。
また、小さなアイアンゴーレムが帰ってきた。とことこ、と一生懸命に歩いて帰ってきた姿がなんとも可愛らしかったので、マリーリアは思わずそれを抱き上げた。小さいとかわいい!
……が、ジェードがなんとなくじっとりした目でこちらを見ているような気がして、マリーリアは、そっと、小さなアイアンゴーレムを地面に下ろした。ジェードには目など無いのだが。無いのだが……。
「じゃあ、あなたは早速、地図を書き始めて頂戴な。必要なものがあったら好きに使ってね」
マリーリアは小さなアイアンゴーレムと、地図作成のお手伝いをすることになった他のアイアンゴーレムとを見送ると、さて。
「……お肉、捌きましょうか」
マリーリアは近衛アイアンゴーレムとジェードと共に、狩ってきてしまったお肉の処理に勤しむことになるのだ!
翌日。島流し326日目。
「塩がもっと欲しいわぁー……」
マリーリアはそういう結論に至った。
……というより、単純に、資材や道具のやり取りが面倒なのである。この麗しの廃墟を仮の拠点として活動しているが、そうなると、元々の自分の拠点から1日以上かかる道を経るのが面倒なのだ!
「……これ、今後も起こる問題よねえ」
マリーリアは考える。
……『島をゴーレムにする』という目標はできたものの、それの実現には数多の障害が立ちはだかっている。
これからも魔物の処理は続けていかなければならないし、島をゴーレムの形になんとなく成形していくのはかなりの時間を有するはずだ。
そして何より……アイアンゴーレム100体には、まだ足りていない!
そう!労働力が必要なのに、その労働力が足りていないのである!
つまり、今後も鉄穴流しで砂鉄を採るなり、鉄鉱石を掘り当てるなりして鉄を入手していく必要があるのだ。……特に、鉄穴流しの方は、山を切り崩していく工程が入る分、島の成型にも関わってくる。大切な作業なのだ。
まあ、とにかく、そういう風にして……鉄を大量に生産するのならば、今使っている1か所だけで鉄穴流しをやっていては長い時間がかかってしまう。
よって、元々の目的通り、島の反対側に流れる川も使って、同時に鉄穴流しを行っていくつもりなのだが……そうなると、『じゃあ、集めた砂鉄はどこで熔かす?』という問題が出てくるのである。
……そう。
マリーリアの行動範囲およびナワバリが広がったことによって……マリーリアは、流通の問題に頭を悩ませることになってしまったのである!
「……それぞれの鉄穴流し現場の近くに、それぞれ鉄工所を作る、っていうことも、まあ、できるけれど……そうなると、製鉄ゴーレムが倍必要なのよねえ……」
この問題の面倒なところは、単に『鉄穴流しを2か所でやるなら、溶鉱炉も2つ造ればいいのでは』とできないところである。
というのも、鉄穴流しを行う地点は、島の反対側同士なのだ。その間をゴーレムが行き来していては意味が無いので、それぞれの現場に、それぞれのゴーレムを駐屯させておく必要が出てくる。
無論、ゴーレムの数に余裕が出てくるならそれも可能だ。だが……現状、それをやるのは中々厳しい。できる限り多くのゴーレムを採掘や島の成型に充てたいのだから、鉄工にばかり人員を割いていられないのだ。
ということで、物資とその加工を一か所に集めれば、効率が良い。マリーリアは、鉄もゴーレムも、できるだけ一か所に集めたいのだ。
……例外は炭ぐらいだろうか。あれは、一度焼き始めてしまえばある程度放置ができる上、炭焼き窯は元々が半分程度、使い捨て前提だ。そして何より、木材のまま運ぶより、炭にしてしまった方が簡単に運べる。そもそも、木が一か所に集中していないのだから、『木を切った近くで炭を焼く』のが効率的なのである。
「鉄とか、後は、塩とかも運びたいのよねえ……。となるとやっぱり、運送ゴーレムを準備するか、或いは、もっと簡単に物を運べるようにしちゃうか、よねえ……。でも、それに資材と労力を費やすと、結果として完成が遅くなるかも……」
マリーリアは悩む。
このあたりを解決した方が、島ゴーレム完成が早くなるか、はたまた、流通問題に注力しない方が結果として早くなるかが分からない。
だが。
「……でも、不測の事態に備える、っていう点では、いろんなことをやっておいた方がいいものね」
マリーリアは結局、こう、結論を出したのだ。
「じゃ、索道造りましょ」
索道。つまるところの、ロープウェイである。




