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島流し293日目:探索*4

 弩。クロスボウ、とも言われる。

 バルトリアでは既に普及しているようだが、フラクタリアではあまり見ない武器である。

 弓と交差するように支えの棒を取り付け、そこに矢を乗せ、引いた弓の弦を引き金に引っかけ、引き金を引いたら弦が放たれて矢が飛ぶ……という仕組みのものだ。

 クロスボウは、弦を引き金で留め置く。つまり弓を引き絞ったまま保持する筋力が無くても使えるので、狙いを定めやすい。また、矢を番えた状態で持ち運ぶことができる。つまり、一瞬で攻撃できる、というところに大きな利点があるのだ。

 逆に、1発撃ってしまったら2発目を準備するのに時間がかかることや、弦を引き金にまで持ってくるところ、構造が普通の弓より複雑であるため修理や手入れに手間がかかることなどは欠点であろう。

 ……と、そんなクロスボウであるが、マリーリアは早速、クロスボウを作ってみることにした。




 そうして迎えた島流し296日目。マリーリアはクロスボウを作る。

「ああ、あなた達は大丈夫よ。弓の鍛錬をしておいでなさいな」

 手伝おうか、とやってきてくれたアイアンゴーレム達には、弓の鍛錬をさせておく。……ゴーレムであろうとも、鍛錬は大切だ。弓を引き絞り、矢を放つ経験を何度も積んでいけば、それは彼ら自身の知識となり、弓の精度が上がっていくのである。

 どのくらいの力でどのくらいの角度に矢を放てばどのあたりに矢が飛ぶのか、といった判断は、やはり、マリーリアの知識を受け渡しただけでは上手くいかないのだ。何せ、ゴーレムとマリーリアでは体躯も膂力も違うのだから。

 つまるところ、知っていることとやったことは異なる。人間もゴーレムも、この辺りは同じなのだろう。

 ……ということで、マリーリアはジェードやテラコッタゴーレム達と共に、クロスボウを作っている。

 ナイフで木を削って弓の形を作り、矢を支え、弦を張るための支えを取り付け、握りと引き金を取り付けて、弦を張り……と進めていく。

 弦は鉄線を撚ったもので作る。あまりに細いとマリーリアの指が切れるので、多少、太めに作ってある。

 また、鉄線を使うため、引き金やそれに伴う金具は鉄で作った。引き金を木で作ってしまって、鉄線で摩耗して破損……なんてことになっては目も当てられない。

「弦を一々張り直す時、結構力が必要になっちゃうから……うーん、緩められるようにした方がいいかしらぁ。それで、弓に近いところで弦を巻き上げて、締められるようにすれば……構造が複雑になっちゃうから、今はやっぱりやめておきましょ……」

 一度矢を放った後、弦を再び引き金に掛けるのに中々の力が要るであろうが、そこを解決しようとすると、いよいよ構造が複雑になる。それを作るだけの暇は無い。マリーリアはさっさとドラゴンを仕留めてやりたいのである!

 ……どのみち、マリーリアが矢を射らねばならない状況など、限られる。もし、ドラゴンがマリーリア目掛けて飛んできたなら、その時はドラゴンの目でも狙って矢を放ってやらねばならないだろうが、精々その程度だ。

「大体のところはゴーレムに任せましょ……」

 今回、マリーリアはアイアンゴーレムを13体程度連れていくつもりでいる。

 鉄穴流しのゴーレム達には引き続き砂鉄を確保してもらうが、製鉄と生活のゴーレムは連れていくつもりである。尚、鍛冶のゴーレムには矢と弓、そして槍を量産してもらっているので、彼らは弓の鍛錬ができない。よって彼らは置いていく。

 ……まあ、ジェード含めて13体のアイアンゴーレムが一斉に矢を射掛ければ、ドラゴンといえども、そうは生き延びられない。

 翼に穴を開けてやり、高度を維持できなくなったところを狙って槍で突いてやれば、それで仕留められるはずである。

「私が活躍する場面は無さそうよねえ……。まあ、クロスボウも、使わなくていいならそれに越したことは無いわぁ」

 マリーリアは出来上がりつつあるクロスボウを眺めつつ、にっこり笑う。

 まあ、平穏無事ならそれがいいのだ。ただ、有事の備えを怠らない、というだけであって。




 ……そうして、弓と矢、そして槍の準備が終わって、島流し299日目。

「じゃあ、出発しましょう!留守の間はよろしくね」

 マリーリアと、率いるゴーレム軍団は拠点を再び発つことになった。

 今度はスライムも連れていく。道中のぷにぷに要員である。一緒に寝たりご飯を食べたりできる生き物というものは、精神の安寧の為に役立つのである!

「……ふふふ。なんだか、懐かしいような気がするわぁー」

 だが、今回はスライムが居なくても、マリーリアは元気だったかもしれない。

 それもそのはず。マリーリアが率いるのは、弓と槍で武装したアイアンゴーレムの軍。かつてマリーリアが騎士達を率いていた時のことが思い出されて、マリーリアはなんだか、勇気を貰ったような、そんな気分であった。

「折角だもの。楽しんでいきましょうね」

 マリーリアはにっこりと笑うと、アイアンゴーレム達が進軍する様子に目を細める。

 朝陽を反射する鉄の体が、なんとも眩しかった。




 まずは、マリーリア達がうっかり床を踏み抜いてしまった例の仮の拠点までを目指す。

 一度往復した道であるので、ある程度は慣れている。とはいえ、道中は山道や森の中だ。冬眠から目覚めた魔物が襲い掛かってくる可能性も高いため、警戒は常に怠らない。

 ……こういう時、アイアンゴーレムの軍はとても強い。

 何せ、それぞれがそれぞれに情報を与え合い、常に1つの生き物のように統率された行動を取れるのだ。『死角が無く、警戒を怠ることも無く、疲労することもない軍』であるので、まあ、当然ながら、強い。

 マリーリアはゴーレム達に囲まれるようにして動いていたが、ふと、右舷のゴーレムが、がしゃ、と動く。そしてその一拍後には、全てのゴーレムが動き……右前方に居た魔物……冬眠から目覚めたばかりで獲物を探しているのであろうバジリスクに襲い掛かっていった!

「あらぁー、優秀」

 その判断速度も、行動の早さも、目を瞠るものがある。バジリスクはあっという間にアイアンゴーレム達にかこまれて、あっという間に討ち取られていた。

「……やっぱりこれ、楽しいわぁー。ね、あなたもそう思うでしょ?」

 マリーリアは、隣に居たジェードににっこりと話しかけた。ジェードは『万一バジリスクが包囲網を抜けたり、他の魔物が襲い掛かってきたりしたらその時にすぐマリーリアを守れるように』とマリーリアの傍に控えていたのだが、マリーリアの方を向いて、こくん、と頷いてくれた。

 ……優秀なゴーレムである!




 休憩はあまり挟まず進み、例の仮拠点に到着したのは、日暮れの気配が漂ってきた頃であった。まあ、つまり、完全に日が暮れるまでにはまだ、少し時間がある。

「ここから鉱山の拠点まで、ちょっと急げば行けちゃうわね。行っちゃいましょ」

 マリーリアはそう判断して、さっさと移動を開始する。できる限り近くまで進んでおいて、明日の朝一番にドラゴン討伐を行ってしまいたいのだ。

「……この拠点、床、無くなっちゃったものねえ……」

 ……そして何より、屋根も床も無い家屋で寝るのは、嫌なのである!まだ、鉱山近くの仮拠点の方が、状態が数段はマシなのである!まあ、あちらはあちらで、白骨死体と一つ屋根の下ではあるのだが……。


 ということで、マリーリア達は無事、鉱山近くの仮拠点にまで戻ってきた。

「ああー、相変わらずの白骨死体だわぁー……。お邪魔するわね」

 マリーリアはまた、例の白骨死体に祈りを捧げてから野営の準備を始める。……野営とはいえ、この仮拠点は屋根も床も残っているので、ある程度は楽である。

「えーと、ここで枠を組んで、引っかけて……うん。これでいいわぁー」

 今回は、床があることは分かっていたので、それに合わせて寝具を持ってきた。

 それは、バラして運び、組み立てて使う簡易ベッド……のようなものである。

 木材を四角く組み合わせて、そこにハンモックを張る。それから、ハンモック付きの枠を支えてくれるものを下に噛ませて、地面から浮くようにする。……というような具合である。

 今回は、ハンモックの枠の下に大きめの石をいくつか噛ませて、地面から少し浮くようにした。これで、マリーリアの体重を支えても、ハンモックが床に付くことは無い。マリーリアは体がバキバキにならずに済みそうであった。


 寝床ができたら、食事を作る。

 今回の食事は、スープだ。水は瓶に入れて持ってきた分もあるが、道中で給水して空っぽになった瓶には、新たに水を汲んでおいた。その水の煮沸も兼ねて、スープを作る。

「まずはお水の煮沸……多すぎる分は瓶に戻して……うふふ、お鍋があるっていいわぁー」

 ……今回使っている鍋は、マリーリアがずっと使ってきた鍋ではない。新しく作った鍋である。鍛冶ゴーレムが最初に作ってくれたものの1つだ。早速、鍋の恩恵に与っているマリーリアは、水を煮て、瓶にある程度戻して明日の飲料水を確保して、それから鍋に残った湯でスープを煮込み始める。

 具材は、麦と燻製肉、そして少々のハーブだ。簡単なものだが、温かいものを腹に収めると元気が出る。春が来ても、まだ当分は朝夕が冷え込むだろう。今も中々に涼しい気候である。そんな中での温かなスープは、中々に美味しい。


「えーと、残りは明日の朝に食べましょ」

 さて。スープを食べ終えたマリーリアは、満足しつつ、まだ中身が半分弱残っている鍋を、横に置いた。……隣ではスライムが、煮戻した燻製肉をもりもりと食べている。だが、スライムが居ても、この量は食べきれない。それもそのはず、明日の朝食の分まで合わせて作ったので。

「ついでにお供えってことで」

 ……そしてマリーリアは、その鍋を、白骨死体の傍に置いてにっこりした。白骨死体からは特に、感謝も文句も聞こえない。当然である。死人に口は無い。

「さ。今日はさっさと寝ちゃいましょ。明日は楽しくなるわよぉー」

 マリーリアはにっこり笑うと、装備を解いて楽な格好になったり、水で絞った布で体を拭いてちょっとすっきりしたり、寝床にコートを敷いて寝心地を良くしたり……とやってから、簡易ベッドに横になり、眠った。

 歩いた分、疲れていたのか、寝付きは良かった。マリーリアはスライムを抱いたまま、ゴーレム達に見守られながら、ゆったりと眠ることになったのである。




 ……その夜。

「……あら?」

 マリーリアは、目を覚ました。……否、『目を覚ましたのではない』。マリーリアは自身の感覚の違和感から、すぐさま状況を把握した。

「これは、夢……夢ね。うん。夢だわぁー」

 ……自分の状況を、『これは夢』と即座に判断して、マリーリアは思い切り念じた。……すると、マリーリアが念じた通り、拠点の床からにょっきりと可愛らしい蔓が伸び、花を咲かせた。……成程、やはりここは夢の中であった!


「夢魔でも居るのかしら。やだぁー」

 マリーリアはきょろきょろと夢の中を見回して首を傾げた。

 人を夢の中に連れ去り、そこで生命力を奪う魔物、というものも存在する。尤も、そんなものが居たとしたら、『今までこの無人島でどうやって生きていたんだ』となるので、可能性は薄い。

 マリーリアは訝しみつつも辺りを探り……。

「お嬢さん……ここだ……」

 ……そんな声を聞いて振り向けば。


「お嬢さん……」

「やだぁー白骨死体っ!」

 カタカタと骨を鳴らして笑う白骨死体がマリーリアに声を掛けていたので、マリーリアは白骨死体に跳び蹴りを食らわせた!


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― 新着の感想 ―
[一言] 夏だったらピッタシなイベントだった... どのみち反応は一緒であるだろうなぁと確信持てるけど
[一言] Bones「骨は語る」 未練あるだろうから化けて出れるだろうけど、あんさん喋れたんかい!
[一言] ワンクッションは無いと声が骸からって、そりゃ一発はやむを得ずw
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