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島流し90日目:秋、そして冬に向けて*2

「それでは皆、うっかり埋まらないように気を付けながら作業を進めていきましょうね!ご安全に!」

 マリーリアはテラコッタゴーレム達ににっこりと微笑みながら号令をかけ、作業を始めさせる。

 ……いよいよ、無人島の地形が変わろうとしている!




 今回の計画は、大きく3段階に分けられる。

 1段階目は、この川を塞き止め、溜め池を作ることである。

 水を一気に流したいので、それに見合った水量を確保すべく、堰を作る必要があるのだ。

 2段階目は、溜め池に水を貯め、そこに土砂を流し込むことである。

 このあたりの岸壁を切り崩し、割り砕いて水に混ぜていけば十分だろう。……本当なら、岩は水流で砕きたいところなのだが、今回はそんなに長距離を流すわけでもないので、砕きたい岩があったらハンマーを使って手作業で、ということになる。

 そして3段階目は……いよいよ、流す。

 土砂と水をよくかき混ぜ、濁りきったところで下流に流す。

 軽い砂はすぐさま流れていき、重い砂鉄はゆっくりと流れる。そして、流れが落ち着いてきた頃……砂鉄が例の滝壺に溜まっているであろう、と。そういう算段である。

 後は適宜、流れ残った砂鉄を流すために水を塞き止めたり流したりしてやれば、回収漏れを減らせるだろう。マリーリアはそこまで考えて……さて。

「じゃあ、あなた達は、今私が石を並べた線の上に土砂を積み上げていってね」

 10体のテラコッタゴーレムにそう命じて、山の切り崩しを始めさせた。そしてマリーリアと残り3体のゴーレムは……。

「じゃ、私達はこっちで木を切って板にするわよぉー……」

 ……板だ。板を、作るのである!




 堰を作る方法は、そう難しくない。勿論、身の程を弁えた規模でやれば、だが。まあ、とにかく理屈は単純だ。

 池の縁になる部分を土砂か何かで作り、そして出口になる部分に作りたい出口の幅に合わせて、杭を2本、打ち込んでおく。そして、その杭に渡すようにして、板材で壁を造るのだ。

 ……板と板の間は、できるだけ開いていないことが望ましい。よって、精密に木材を加工できなければならない。……要は、鉄の道具が無ければ、まあ難しいやり方だ。

 だが、今のマリーリアにはそれができる。板を作って、その板を以てして堰にすることができるのだ!


 ということで、マリーリアは丸太を鋸で切らせている。鋸の両端を持って動かしているのは、テラコッタゴーレム2体だ。……鋸を使うのは案外力仕事なので、マリーリアはこのあたりをゴーレムに任せることにしたのである!

「……真っ直ぐに板にするのって、結構難しいわよねえ……」

 とはいえ、煉瓦を使ってガイドにしながらの切断なので、まあ、それなりに真っ直ぐ切れている。テラコッタゴーレム達も頑張ってくれたおかげで、まあまあまずまずの板が完成した。

「さて。じゃあ、この板の端を真っ直ぐに切り揃えなきゃね」

 そうして丸太を板にしたら、続いてこの板の端を整えていく。板と板がぴったりとくっつくように、真っ直ぐにしてやらねばならないのだ。

「この分だと、微調整はナイフで削ればなんとかなりそうね。ふふふ……」

 だが、ここまでできていれば、後はナイフで如何様にもできる。……木材を板にする、という、ここまでが大変だったのだ!マリーリアは『やっぱり鉄っていいわぁー』とにっこり笑った!




 板を数枚切り出したあたりで日が暮れてきたので、マリーリアは丸太切りのゴーレム3体と共に拠点へ帰ることにした。

 ……残りのゴーレム達は居残りである。ゴーレムは疲労しないので、夜通し作業していても問題ないのだ。更に言えば、ゴーレム達は目で物事を見ている訳ではないので、暗い中でもある程度、作業ができてしまう!……無論、マリーリアの指示を受けた範囲内で、ということにはなるが。

「まあ、どうせ長くかかるし、気長にやりましょ」

 マリーリアは、あくまでも気長にやることにしている。……溜め池1つ造るのだって、鉄穴流し全整備よりはマシとはいえ、大分な大仕事だ。

「ひとまず、秋の間になんとかなればいいもの」

 マリーリアはそう笑って、『気長に、気長に……』と呟きつつ、行きで吊るしていったワイバーンを回収して帰ることにした。

 血抜きが終わっていたので、皮を剥いで骨を採ってやるつもりである。

 そう大きくない飛竜であるとはいえ、ドラゴンだ。その皮も骨も牙も爪も、そして心臓やら何やら、全てが余すことなく資材なのだ!


 拠点へ戻ったマリーリアは、ワイバーンを捌いた。捌いていたらすっかり暗くなってきてしまったので、慌ててワイバーンの肉を吊るして塩を揉みこんで保存し、そしてマリーリア自身はワイバーンの肝や肉を焼いて食べることにした。獲物を仕留めた日はこうして新鮮な肉や内臓肉を食べられるので、中々楽しい。

「あ、そういえばお肉を焼くのに、製鉄炉から出るやつを使ったら楽しそうだって思ってたのよねえ……」

 肉を焼きながら、マリーリアはふと思い出す。

 製鉄する時、炉の横から流れ出させる不純物……。赤熱してすっかりとろけたあれの上で肉を炙ってみたら楽しいのではないか、と思ったが……。

「……お肉は焼かないにしても……これ、どうしようかしらぁー」

 マリーリアは、適当な土器の中にため込んである例のブツ……製鉄炉から流れ出て固まった不純物の類を見ている。

「これ……何かに使えないかしら」

 マリーリアは考える。これも何らかの鉱石の熔けて固まったものであるので、利用できるのではないだろうか、と。

 ガラス質の、艶のある表面はなんとも美しい。何かに利用できれば嬉しいのだが……。


 ……そして、ワイバーンの焼き肉を食べながら考えたマリーリアは、結論を出した。

「……そうだわ、器に掛けて釉薬にしましょ」




 翌日。島流し91日目。

 マリーリアはまたゴーレム3体と共に川の上流へ向かい、溜め池の制作風景を眺めた。

「進んでるわねえ」

 丸々一晩分作業の進んだ溜め池造りは、昨日とはまた異なる風景になっている。

 土砂を崩しては池の囲いになる部分を作成していくのだが……作られた部分が、どんどん広がっていくのだ。

「そうねえ、疲れ知らずのゴーレムがずっと働き続けるのだから、案外、すぐに仕上がるかも」

 ゴーレムと同じ人数であったとしても、これが人間だったらこうはいかない。休憩は当然必要だし、それ以外に睡眠や食事も必要だ。一日の3分の1も働き続けられない。それが良くも悪くも、人間というものだ。

 その点、ゴーレムは1日24時間、延々と働き続けることができる。……厳密にいえば、『マリーリアの魔法の続く限り』ではあるのだが、マリーリアのゴーレム使役については全く問題にならない。この島の中に居るゴーレムを精々10体少々、ということならば、丸々1週間休みなく働かせ続けても問題ないだろう。

 ……まあ、ある程度働かせていると、ゴーレムの体の損傷が発生してくるので、そこで目算が狂うことはあるだろうが。

「ま、問題無さそうね。一応、堰の部分だけ完成させたら、後はお任せしちゃいましょ」

 マリーリアはにこにこ笑いつつ、昨日作っていた堰の部分を完成させた。そしてそれを池の出口になる予定の個所に設置したら、また、後はゴーレム達に任せて拠点へ戻ることにしたのだった。




 さて。

「じゃ、釉薬よね!うふふふ、実験はちょっぴり久しぶりだわぁー」

 マリーリアはにこにこしながら、早速、釉薬の実験に移ることにする。

 以前、イネ科の雑草の灰から作った釉薬を掛けた器を作ったが、アレはアレでよいものができた。

「雑草の灰で作った釉薬は、素朴よねぇ」

 釉薬の色は、白。素朴な模様が自然に入り、少々厚めに仕上がった釉薬の層はなんとも丈夫そうで、まあ、普段使いにも良い焼き物になっただろう。

「こっちを使うとなると、多分、黒っぽい仕上がりになるのよねえ……」

 さて。そして今回使う釉薬は、製鉄で生まれた不純物。鉄以外の金属やその他の物質をたっぷり含んだ、ガラス質の物体だ。色は黒い。これを掛けて焼けば、まあ、そのまま黒い器ができるのだろう。

「じゃあ、これを細かく砕いて、溶いた粘土に混ぜて……ふふふ、どんな風になるかしらぁ」

 マリーリアはにこにこしながら、釉薬づくりを始めていく。

 ……まあ、水漏れしない器は、これからの生活に必要になる。無駄にはならないだろう。

「これができれば、食料の貯蔵がまたちょっぴりいい具合になるものね」

 そう。

 もうじき来る秋、そして冬に備えて……食料の貯蔵を、そろそろ考えなければならないのである!




 そうしてマリーリアは、釉薬を掛けた器をいくつも作って乾燥させておくことになった。

 粘土もそうだが、釉薬も同じように、乾燥しきらない内に炉で焼くと爆発することがある。危険である。なのでしっかりしっかり、乾燥させねばならないのだ!

「じゃ、これはこのまま乾かして……後は、そろそろ食糧庫を作らないとね。となると、また煉瓦、かしらぁ……。木が切れるようになったし、木造でもいいけれど、うーん……」

 そしてマリーリアは、また次の問題に直面することになる。

「……高床の建物、作りたいわねえ」

 そう。虫や小動物を避けるための、食糧貯蔵庫。できれば、それが欲しいのだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴーレム「24時間戦えますか!」
[気になる点] ワイバーンまずい派とドラゴンほどじゃないけど美味い派と異世界ものでは2通りありますがこの世界は後者なんですかねー?
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