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島流し75日目:製鉄*1

 ということで、ゴーレム達が数体、滝壺に沈んだ。

 ぶくぶく、と素焼き板から細かな泡を立ち上らせながら、ゴーレム達は澄んだ水の底で難なく砂鉄を汲み取っていく。砂鉄をたっぷりと含む砂がたっぷり入った土器は、滝壺に腰くらいまで浸かったゴーレムに手渡され、そこから水に入っていないゴーレムに手渡され……と、どんどん運び出されていく。

「本当に砂鉄が沢山……これは効率が良くて助かるわぁ」

 マリーリアは土器の中を見て、にっこり笑った。土器の中に手を突っ込んで、一握の砂鉄を取ってはそれを零し戻しつつ確認してみるが……やはり、驚くほどに純度が高い。これなら、今までより余程簡単に砂鉄を集められよう。

「……いずれ大規模に砂鉄を集めることになったら、ここの上流に堰を作って水を貯めておいて、そこで岩をたっぷり砕いて砂鉄を出して……それを一気に流せばいいわねえ。それだけでここに砂鉄が溜まるんだもの。ふふふ……」

 マリーリアはにこにこ上機嫌で、集まってくる砂鉄を眺めた。

 砂鉄はもう一度か二度、水簸のための樋を通して砂を除去しなければならないが……それだけでいいのだ。


 ……炭はある程度、できた。砂鉄も、もうじきできる。

 そう。もう既に、マリーリアは最初の製鉄に挑める段階にある。




 ということで、マリーリアはゴーレム達に砂鉄採りを任せつつ、拠点に帰って製鉄炉を作ることにした。

 ……とはいえ、最初は然程大きくない炉を作ることになる。それはそうだ。木炭も砂鉄も、集まったとはいえまだ少量。これに見合った最初の炉を作るのだ。


「えーと、砂鉄が土器にたっぷり3杯くらいは採れそうだから……まあ、炉はこれくらいの大きさでいいかしらぁ」

 マリーリアは早速、地面に木の枝で線を引いて、製鉄炉の大きさを決めていく。

 炉は然程大きくない。だが、高さはある。マリーリアの肩くらいまでの高さだ。……マリーリアが立ってすっぽりと収まるような、そんな大きさと形状になりそうである。

「それで、不純物が溜まってきたらそれを抜く穴と、あと、送風口……そうだわぁ、ふいごが無いとそろそろ駄目ね。作りましょ。丁度、木の板が流れ着いたから……あれと革でなんとかなるかしらぁ。それとも、革だけで作った方がいいかしらぁ……?」

 炉を作るにあたって、用意しなければならないものは色々とある。その1つがふいごだ。

 火力を上げていくために、どうしても送風が必要なのである。如何に送風するかは、製鉄をやる上で1つの大きな問題となるのである。

「いずれは足踏み式のふいごが欲しいわねえ……」

 マリーリアは『ふいご、ふいご……』と歌うように呟きながら、ひとまず、炉の形を作るべく粘土を捏ね始めるのだった。


 焼き物をするための炉と同じように、製鉄炉も粘土で形作る。粘土を積み上げていくので、自重で崩れてしまわないよう、下の段がある程度乾燥してから次の段を積むことになる。まあ、時間がかかるのだ。特に、高さがある炉を作ろうとするとどうしても時間がかかる。

 そして、炉で時間がかかる分はふいごの作成に充てる。

「ふいご、ふいご……ううーん、どうしようかしらぁ……どう作るかが問題なのよねえ……」

 ……そう。ふいご作りは、困難を極める!

 具体的には……構想段階から、既に!




 ふいご、というものは、空気を送るための道具だ。製鉄するには必須の道具である。

 が……このふいご、当然ながら、作るのが大変なのだ!


 まず、ふいごには、『送風口』が当然必要である他、『空気を送るために縮めることのできる構造』、そして……『吸気する時には開いて吸気し、送風する時には閉じて送風口以外から空気が漏れないようにできる弁』の存在が不可欠である。

 ……以上を満たすものをできる限り単純な構造で作ろうと思うと、まず、獣の革の袋、ということになるだろう。

 胃袋のような、上下に穴が開いている袋を作って、片側は送風口にする。そしてもう片側は、『吸気する時には広げ、送風する時には手で絞って口を塞ぐ』というようにして……そして、空気を詰めた袋を手でぎゅっと握って空気を送る、という……まあ、そんな道具が、最も原始的なふいごであろう。

 だが当然ながら、そんな非効率的な道具で製鉄ができようはずもない!

 ということで、もう少しばかり改善されたふいごを作りたいのだが……ここから先が、難しいのである。


 次に原始的なふいごは、最も原始的なふいごの送風作業をもう少し効率的にしたものだ。板2枚で皮の袋を挟むようにして、送風しやすくする。また、革の袋および板に穴を開けて、そこに内側から一枚、ぺらりと捲れるようになっている革を貼りつけておけば、それが弁になって吸気もこなせるようになる。

 ……ということで、これもまあ、悪くはない。だが、個数が必要になることは間違いないだろう。幸い、革はたくさんあるし、ゴーレムも沢山居るので材料および、ふいごを実際に動かす労働力には事欠かないが……。

 ……このふいごをもう少しばかり別方向から発展させていくと、箱ふいごになる。

 箱ふいごは、箱の中に箱の内部をみっちり塞ぐように板が1枚入っていて、その板に取り付けた棒を動かすことで、箱内部の空気を圧縮することができる……というものだ。要は、ピストンである。

 昔、マリーリアは木の筒の片側に小さく穴を開けて、もう片側からピストンを押すことで水を飛ばす水鉄砲を使って遊んだことがあるが……正に、あんな具合で空気を送ることができる。

 また、送風口を板の辿り着く先ではなく、箱の真ん中あたりにしてやって、板がぴたりとくっつく面とともに弁付きの給気口を設けてやれば、棒を押しても引いても送風することのできるふいごになる。

 ……そして更に進めていけば、足踏み式のものや、もっと大規模に造って多人数で足で踏んで送風する大型のふいごなどもできるわけだが……さて、ここで問題となるのは、それらふいごを作る技術と材料の兼ね合いだ!


 まず、革袋でしかないようなふいごならば、今すぐにでも作れる。革に穴を開けて素焼きか木を削ってつくるかした送風口を挿しこんで、接合部を松脂の接着剤で固めてしまえば、まあ十分に事足りるだろう。

 だが、これを板で挟んだ形のものにしようとすると、今度は……まず間違いなく、釘や鋲の類が欲しくなる。革を木の板に留め付ける必要があるからだ。

 或いは……革袋と木の板を接合しないにせよ、木の板2枚の短辺を蝶番のようなもので接合してしまった方がいい。となると、やはりそこで鉄製品が欲しくなるのだ!

 そして言うまでもなく、大型のふいごなどは作るための材料も道具も無い。ふいごというものは空気を送るためのものであって……つまり、空気の漏れが無いように作らねばならないのだ。ぴたりと接合する面やぴたりと組み合う辺を石斧と木材で作ることが非常に困難なのだ!


 ……ということで。

 散々考えた結果……。

「箱が漂着してくれてて助かったわぁー……」

 マリーリアは、箱を使った箱ふいごを作ることにした!




 箱ふいごならば、漂着した木箱をそのまま使える。木箱に穴を開け、まっすぐな棒を通し、ピストンとなる木の板を取り付けて……給気口と送風口を作ればいい。

 給気口に取り付ける弁は、革を使うつもりだ。ピストンとなる板は空気を動かさなければならないが、かといって箱にあまりにもピッタリすぎると今度は動かなくなってしまう。なので板に毛皮を巻いて、みっちりと空気の通り道を塞ぎつつもある程度動くようにしておくことにした。

 箱はある。棒は、以前漂着したオールの柄の部分を使おうと思う。板は今回流れ着いたものを研磨して大きさを合わせればいい。毛皮はそれなりにあるのでなんとかなるだろう。

 送風口は焼き物で作ればいい。それをモルタルで継いで伸ばして、炉に空気を送り込めるようにすればいいのだ。

 これでひとまずやってみて、駄目そうなら……。

「……駄目なら、スライムに詰まってもらいましょ」

 マリーリアは、スライム達がぷるぷるぽよぽよやっているのを思い出して、にっこり笑った。

 液体や気体を漏らさないようにするために、スライムを詰めておくのはとても簡単かつ効果的なやり方なのだ!




 ……そうして、島流し生活78日目。

「なんとかできたわぁー」

 マリーリアはなんとか、箱ふいごを3つほど、完成させていた!


 流れ着いた木箱をそのまま使ったのだが、生憎、その箱自体に隙間があった。なのでそれらの隙間を全て覆ってしまうべく、一通り、モルタルを塗ってしまった。

 吸気や送風のための穴は、地道に黒曜石のナイフで削って開けた。そこに貼り付ける弁は、とりあえず鞣した革の中でも薄くて柔らかいものを採用しているが……松脂の接着剤で貼り付けた革の弁が機能しないようだったら、スライムを詰めると決めている!

「うん……うん、ちゃんと風は送れてるわね」

 元々、貨物を詰め込む用途で作られている大きな木箱をそのまま使った箱ふいごなので、送られる風の量もそれなりに多い。マリーリアは大いに満足しつつ……。

「あっ」

 ……だが、どうしても限界はあったようだ。

 案の定、と言うべきか……十数回、送風と吸気を繰り返した箱ふいごであったが、残念ながら、接着した皮が剥がれて、弁が機能しなくなってしまったのである!




「あ、弁が壊れたみたいだわぁ。まあ、接着剤で貼り付けただけだと、そうよねえ……。剥離しちゃうわよねえ……」

 マリーリアはため息を吐いた。まあ、こうなるような気はしていたので、衝撃は然程無い。だが、残念であることは確かである。

 ……可能なら、弁となる革を鋲で打って止めてしまいたかったのだが、生憎、鋲や釘の類は作れていないのだ。木ネジや木釘でなんとかするというのも、中々に難しいものがある。これはどうしようもなかった。

 ……なので。

「ま、いいわ。スライム詰めましょ」

 むにゅ。

 ……マリーリアは容赦なく、スライムを詰めた!詰められたスライムとしてはいい迷惑だろうが、そんなことを気にするマリーリアではない!

 箱ふいごの棒を前後に動かすと、吸気するときには『すぽん』とスライムが外れて吸気され、そして、送風する時には『むぎゅっ!』とスライムが詰まって送風口だけが空気の出口になる。

 マリーリアはこれを確かめて、『あっ、いい具合だわぁ』にこにこ上機嫌に笑う。

 ……そしてスライムは、何を考えているのか、何も考えていないのか、箱の中で『すぽん』『むぎゅ』を繰り返すのだった!


「さ。これでふいごは完成ね!早速、製鉄しーましょ!」

 そうして、スライム2匹を内部に閉じ込めた箱ふいごは製鉄炉へ接続され……いよいよ、ここで製鉄が始まるのである!

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― 新着の感想 ―
主人公がのほほんとしてるのと、スライムのおかげで話がきつくならないで読める
[良い点] 「……駄目なら、スライムに詰まってもらいましょ」からのハラハラ……そして容赦ないスライム詰め!!! [一言] スライムくん達つよくいきて……!
[一言] まあ、狭いところにつまるのスライム達も好きみたいだし…。 うん!いつもごはんもらっているのですから、たまには働くのもいいと思うよ!スライム! 1日交代で出してもらえるでしょう!
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