島流し70日目:砂鉄採り*2
さて。
島流し生活70日目になった。
マリーリアはテラコッタゴーレムの部品と、水簸用の瓦のようなもの……それらを作り続けていた。
「そろそろ、第一弾が焼けるわね。ふふふ……」
長く作った瓦のようなそれは、言ってしまえば『樋』だ。
水を中に流すためのもの。そのための、筒を半分に切ったようなものである。
だが、1つ、樋には必要ないものがある。それは、内側の『刻み』だ。
マリーリアは、素焼きの樋を作るにあたって、その内側、水が流れる部分に刻みを付けていた。その刻みは、他の砂より重い砂鉄が沈んで引っかかることを狙いとしたものである。
刻みのある樋に砂鉄や他の砂粒が混じった水を流して、軽い砂は全て流し落とし、砂鉄だけを手に入れる。これは、そのための道具なのである!
ということで、樋の焼成が始まった。
最初に伐採して乾かしておいた薪がそろそろ使えるようになっていたので、乾燥しきっているものを選んで使う。……また薪が必要になることは間違いないので、どんどん別途、伐採していくことになるが。
「そうだわぁ、近い内に炭も焼き始めておかなきゃ……ああ、やることが多いわぁー……」
燃料といえば、炭も必要である。鉄を製錬するのにも使うし、冬場、ずっと室内にこもることになったなら、そこで燃やすものは薪より炭の方がいい。何故かと言うと、炭の方が煙が少ないので。
「炭焼き窯は……とりあえず、砂鉄がちゃんと採れるようになってからね!それまでに薪はたっぷりと用意して……火で乾燥させた方がいいわねえ。やっぱり、冬に使う分や炭を作る分も考え始めたら、これじゃ足りないわぁー……」
とりあえず、マリーリアはテラコッタゴーレムに樋の焼成を任せて、元気に薪の入手を進めていくことにする。
……そう。
これから先、薪が、大量に必要となる。製鉄にも必要。燃料として毎日必要。そんな薪を、大量に入手するには……若く細い木を伐採していってもいいが、そろそろ、太い木をしっかり伐採して、それを縦にパカパカと割って、使いたい。割った木の方が乾燥が早いし、何より、効率が良い。太い木を切れれば。切れればだが。
……ということで。
「石で鋸って作れるのかしらぁ……」
マリーリアは、鋸を作ってみることにした。
鋸、というものは、案外複雑なものである。
刃がギザギザについていれば良いというものではなく、ギザギザの刃が、1つごとに互い違いに、左右へ傾いていなければならない。
要は、削った木の屑が詰まらないように刃の向きを調整する必要があるのだ。そして、そんな細かい細工を石鋸に施すのは、不可能である!
「発想の転換よねえ。鋸、っていっても、鋸自体で木を切るんじゃなくて……研磨の道具だと考えればいいんだわぁ」
なので、マリーリアは考えた。
「うん。やっぱり鋸じゃなくて、研磨剤で木を切りましょ」
……鋸のお株を奪いかねない案を、考えてしまったのである!
ということで、マリーリアは鋸を作るべく、硬い石……海岸から拾ってきたチャート石をゴーレム達に削らせ始めた。
まずは、石にただギザギザの刃を付けただけの石鋸で木が切れるかをやってみる。そして、まあ、恐らく駄目だろうが……その時には、鋸を『研磨剤を保持しながら木を擦るための道具』として使うつもりなのである!
マリーリアの居たフラクタリア王国には、研磨剤と鉄線または鎖を使って木材を切る技術があった。鉄の糸を撚り合わせて作った鉄線や、細めに作った鎖に、研磨剤……硬い鉱物の砂を泥に混ぜたものを塗りつけて、それで木を擦るのだ。
鉄線や鎖によって木を削るのではなく、あくまでも、研磨剤によって木を切る。……要は、やすりを掛けていくようなものだ。それでも十分、木は切れる。
そして今回作る石鋸は、固い石を鋸のようにギザギザにしたもの。ギザギザの凹凸に研磨剤が入り込み、上手く木を切る助けになってくれれば良いのだが。
「これ、もしかすると紐でもできるかしらぁ……。鋸が駄目そうならやってみましょ」
マリーリアはひとまず、ゴーレム達に石器を作らせておいて、自分はまた、土器づくりに移る。
……この島に来てから、ひたすら粘土を捏ねて焼いている気がする。だが仕方がない。やはり、土と水と炎によって人類は進化してきたのである……。
さて。
鋸ができるのは大分先になるだろう。何せ、鋸だ。ただ鋭くすればいいのではなく、ギザギザの刻みを付けなければならないのだから大変だ。
ということで、マリーリアはその間も石斧で細めの木を切り、薪を作っては、樋やゴーレムの部品を焼く炉の周りに立てかけて乾燥させ、そして……。
「炭焼きの準備もしましょ」
……炭を焼く準備を始めるのだ!
木炭、というものは、いわば、『燃え残った木』である。
普通に薪を燃やしていると、木はやがて炭になっていく。そしてその状態で鎮火させれば炭が残るというわけだ。
だが、当然ながら、そんな作り方をしていては、あまりにも効率が悪い!
……ということで、炭を焼くための窯を作らなければならない。木を効率よく不完全燃焼させるため……酸素が入りすぎない窯を作ってやらなければならないのだ。酸素が無い状態で加熱すれば、木は燃えず、ただ加熱だけされて、炭になっていく。それを狙うための窯が必要なのである!
炭焼き窯の構造は然程難しくない。要は、ほぼ密閉した薪を加熱できればいいのだ。
ということで、薪を入れるための部屋を作り、排気のための煙突と火を入れる口を残して残りを全て、酸素供給を断つべく泥で埋める。ついでに、保温の意味もあるので、本当に埋める。ものすごく埋める。なので窯は、薪を入れるための部屋の数倍の大きさまで膨れ上がる。
……という構造なので、もう、いっそのこと地面を掘って作ることにした!上から土を被せて埋めるくらいなら、最初から掘ってしまえばいいのだ!そうすれば断熱も密閉も簡単である!最初から埋まっているから!
「えーと、薪を焼いたら水が出るものねえ。排水ってどうすればいいのかしらねえ……とりあえず穴の底にちょっと窪みを作っておきましょ……。ここに水が溜まって、後は蒸発してくれることを祈って……」
マリーリアは穴の内部を更に掘ったり、穴の側面に粘土を塗りつけていったりしながら形を整えて……ひとまず、今日のところはここまでである。
……石鋸を作るゴーレムと樋を焼くゴーレムを除いたテラコッタゴーレムが7体が集まっても、マリーリアが入れるくらいの大きさの穴を掘って窯を作るのは、大変である!
島流し71日目。今日も樋やゴーレムの部品を焼きつつ、炭焼き窯を作る。
「えーと、煙が出るところを作って、火を入れるところを作って……あ、煙突、どうしましょ。焼いてる内に崩れたら困るわぁー……うーん、樋、使っちゃいましょ」
排気のための穴には、樋を2枚組み合わせて入れて埋める。これで排気のための管が確保できるだろう。
そして、火を入れる口の方は、火を入れてから徐々に塞いでいくことになるので……。
「……木を切りましょ」
マリーリアは、いよいよ炭にするための木を集めることになる!
「なんだか最近、ひたすらに木を切っている気がするわぁー……」
ということでマリーリアは木を切る。ゴーレム達にも石斧を持たせて、ひたすら木を切っていく。切った木はゴーレムに運搬させていくので、案外、作業は早い。
「鋸の完成が待たれるわぁー……」
炭焼きには細い木で十分だが、今後のことも考えれば、やはり太い木をガンガン切り倒せるようになった方がいい。マリーリアは鋸を夢見つつ、石斧を振り回して木を切り倒していくのであった。
木を切りに切ったら、いよいよ、窯の中に木を詰めていく。
そう。詰める。ミッチミチに詰める。沢山詰めておかないと、酸素が残る余地を与えることになってしまう。なのでできる限り詰めるに限るのだ。
「あら、あなたも詰まりたいのかしらぁ?ふふふ、まあ、焼かれたいならそれでもいいけど……えーい」
……薪の間に散歩中のスライムが入り込みそうだったので、マリーリアはそれをつまみ上げて畑に放り投げておいた。慈悲である。
木を詰めたところで日が暮れかけてきたので、その日の作業はここまでとする。
焼けた樋を確認したり、新たなテラコッタゴーレムを生み出したりしつつその日は早めに就寝して……翌日。
島流し72日目。
この日は、薪の上に粘土を被せていく日となる。
……そう。空気を遮断するために、上も当然、塞ぐのだ。ということで、マリーリアは草を刈ってきては薪の上に重ねていき、その上に粘土を重ねていくことにした。
ここは、分厚く。粘土の層をたっぷりと、分厚く。断熱できるように。
炭焼きは、断熱が肝要である。それはそれは念入りに、マリーリアはたっぷりの粘土を重ねていった!
……そうして。
「さあ、焼くわよぉー」
……いよいよ、炭焼き窯に火を入れる時が来たのである!
マリーリアは、火入れ口に薪を積み上げて、そこに着火する。すると、窯の中の薪にも徐々に火が移っていく。
「ああー、あんまり良く見えないわぁー……勘でいきましょ」
マリーリアは火の様子を一応確認しつつ、徐々に火入れ口を煉瓦と粘土で塞いでいく。空気をどんどん遮断して、入り口で火を焚くだけにしてしまうのだ。すると、一度窯の中の薪に付いた火は消え、高まった温度によって木が炭化していくのみとなる。
「えーと、煙は……ちゃんと出てる。よかったぁー」
排煙口からはもくもくと煙が出ている。この煙を冷やして液体に戻すと木酢液が採れるのだが、今はその余裕がない。パイプを作れるようになったら是非、やりたい。
「じゃあ、炭はまた明日、ね」
炭焼き窯の火の維持はゴーレムに任せて、マリーリアは……昨日焼けたばかりの樋を手に取る。
「ささ。こっちはこっちで砂鉄を採ってみましょ!」
炭だけあっても仕方がないのだ。マリーリアは製鉄のため……砂鉄を採りに行く!




