島流し51日目:武器と防具*1
島流し生活51日目の朝。
「はあ、良い朝だわぁー」
マリーリアは『自宅』のベッドの上で目を覚ました。
きゅ、と伸びをしてベッドから抜け出すと、マリーリアは早速、汲み置きの水を使って顔を洗い、炉に火を入れた。
火打石で火を付けるのも、すっかり手慣れたものである。一度、かちん、と大きく火打石を打ち合わせただけで、炉に火が入った。
「今日は……麦粥にしましょ。干した杏とベリーを入れて甘い奴作っちゃうわよぉー」
マリーリアはにこにこうきうきと調理を始めた。なんとなく、室内に炉があると調理のやる気が出てくるものだ。
麦粥の鍋をかき混ぜて、マリーリアはにっこり微笑んだ。
「今日は侵攻日和ね!」
……そう。
マリーリアは本日、島の中央部へと侵攻するのだ!
食事を摂ったマリーリアは、続いてお弁当を作ることにした。
燻製肉はそのまま持つ。現地で炙って食べるか、そのまま齧るかすればよい。
干し杏もそのまま持つ。噛みしめれば酸味と甘みがじわりと滲む、美味しいおやつだ。マリーリアは杏や李の類が好きなので、これを元気の素にしたい。
水は瓶に入れた。これでは足りないかもしれないが、ひとまず、水が続く限りは進んでみようと思う。
……そして。
「集合!」
マリーリアはゴーレム達に声を掛け、集めた。
集まったテラコッタゴーレム10体をそれぞれ見つめたマリーリアは……にっこり笑って、言った。
「全員、武器を持って来なさいな」
いつぞやの号令のようなそれを聞いたゴーレム達は、直ちに動いた。
石斧を持ってきたり、木の棒を持ってきたり、割れた土器の欠片を持ってきたり、石を持ってきたり、煉瓦を持ってきたり……。
それらを見たマリーリアは、ふんふん、と頷いて……。
「やっぱりちょっと心もとないわねえ……。まあ、今日のところはよしとしましょ」
そう、結論づけた。……できれば、魔物と戦うためにしっかりした武器を手に入れておきたかった。だが、そもそも今の状況で手に入る武器など限られている。
何せ、鉄を……武器の原料を探しに行くための武器が無い!今はそういう状況なのだ!
更に言えば、武器を作るための資源を手に入れるためには魔物との交戦を覚悟しなければならず、そして魔物と戦うには武器が必要で……というところからして、既に無限回廊は始まっているのである!
「……まあ、どこかではちょっぴり無理をするしかないのよねぇ」
鉄は使えず、木材の加工もままならない。そんな中で、少しずつ探索範囲を広げ、少しずつ武装を揃えて、そして少しずつ、鉄へと向かっていく。これからのマリーリアは、そんな風にして、この島を攻略していくことになるのだ。
「これから少し、島の内側へ向かうわよぉ。あなた達、しっかり付いてきて頂戴ね。今日のところの目的は……」
なのでマリーリアは、すぐさま島の中心部を制圧するつもりは無い。少なくとも、今日は。
「黒曜石よ」
……今日、マリーリアは島の少し深いところで、武器の材料集めをすることになるのだ。
黒曜石のようなガラス質の石は、割れると劈開して、ごく薄い欠片を生み出す。この薄さが切れ味となるのだ。
そうして、エッジを薄く薄く作っていった黒曜石は、鋭い刃となる。その鋭さたるや、鉄のナイフといい勝負ができるほどだ。
そう。黒曜石で作った打製石器は、鋭い刃物に向いているのである!
……が、その一方で、磨製石器のような耐久性が無い。黒曜石で作った斧を木に振り下ろそうものなら、木ではなく、先に斧が駄目になることは間違いない。
なので、力任せに振り下ろすような武器にはまるで向いていないのだ。
……だが。
「やっぱり槍よねえ」
マリーリアは、黒曜石で槍を作ろうとしているのだった!
槍の良いところはいくつもある。
1つ目には、長いことだ。
……つまり、距離を詰めあぐねる相手であっても、対処しやすい。『刃が届かない』ということが大分減るのだ。
2つ目に、刃の部分が小さいこと。
刀身全てが刃でなければならない剣などとは異なり、槍は穂先の部分だけ刃であればそれでよい。
……つまり!少ない資源で作ることができる武器なのである!実に無人島向き!実に無人島向きなのだ!
そして……。
「何より、多人数で使うのに向いているのよねえ」
マリーリアはころころと笑いながら、土器の欠片を持ってきたゴーレムに木の棒を持たせて長さを確かめる。
……ゴーレム達は当然のように、武芸に秀でたものではない。むしろ、動作は多少緩慢だ。実際の人間との闘いの中では、すぐ壊れてしまったり、害として排除されかけたりまあ、碌なことが無い。
のだが……数は、居る。
この無人島において、マリーリア含めて11人、という人数は……間違いなく、利となるだろう。
そして、ゴーレム達に槍を持たせておくと、長さがある分、敵を囲んだり、一列になって敵の侵入を阻んだりするのに向く。
数という利を生かすためにも、ある程度規格の揃った槍が欲しいのだ!
さて。マリーリアは既に1つ、黒曜石を拾っている。
獲物を探してテラコッタゴーレムと共に歩き回っていた時、偶然、黒曜石と思しき石を拾った。なので、あのあたりを探索してみようかしら、と見当をつける。
……黒曜石の類は、溶岩が急激に冷やされて固まったものだ。それが地上に出ていたのなら、何らかの地殻変動があってのことなのだろう。あのあたりには粘土を掘れる場所もあったことだし、そうした断層が近くにあるのかもしれない。
「前は、このあたりでペリュトンと会ったのよねえ」
マリーリアはあの時のことを思い出しながら、黒曜石を探す。
……魔物が出るか出ないか、というくらいの深度で、マリーリアは黒曜石を探している。いつ魔物に襲われてもおかしくない場所であるので、やはり少しは緊張していた。
だが、それ以上にやはり、黒曜石だ。黒曜石を使って、より良い武器を作り……より安全に、獲物を狩れるようにする。それがマリーリアの当面の目標になるのだ。
「このあたりに黒曜石は……うーん、もうちょっと奥かしらぁ」
生憎、黒曜石と思しきものは見つからない。もっと奥の方に進まなければならないのかもしれない。マリーリアはそんなことを考えながら、ゴーレム達と共に、より深い方へと進んでいく。
島の中心部に向かって進んでみれば、少しずつ、生えている植物も変わってくる。木の密度が高くなり、より視界が悪くなる。
……だが。
「あっ、これは当たりね!」
そんな視界の悪い中でも、マリーリアはそのきらめきを見逃さなかった。
黒く、光沢のある欠片。半ば土に埋もれていても、つやつやとしていて、そのきらめきは確かによく目立つ。
「多分、黒曜石!」
……そうしてマリーリアはまた1つ、黒曜石を手に入れた!
手に入れた黒曜石は、少し小さい。掌に十分乗ってしまう程度だ。だがまあ、槍の穂先にできないことも無いだろう。
「うーん、ひとまず、今日のところはこのあたりを探して……今日見つかった分だけ、槍にしましょ。足りない分は、磨製石器でとりあえずとんがった穂先を作ればいいかしらぁ……。大抵の生き物は、多少鋭ければあとは勢いだけでものが刺さるし、何かが刺さったら死ぬわよねぇ……」
マリーリアは考えながら、ひとまず、この近辺の地面をほじくり返し始める。黒っぽい小石のようなものが見えたら積極的にその周辺の土を掘り起こし、小石に見えているそれが黒曜石の塊のてっぺんがちょっぴり露出しているものであることを祈った。
ゴーレム達も一緒になって黒曜石探しを行って、しばらくの後には、そのあたりの地面はほじくり返した穴ぼこだらけになったのである。
そうして黒曜石をいくつか……それなりに大きな塊も手に入れたところで、マリーリアはさっさと退避することにした。武器も碌に無い中で魔物と遭遇しても良いことなど何もない。
「さあ、帰ったら石器を作るわよぉー」
マリーリアはにこにこしながら、黒曜石を抱えて拠点へ……家へと戻る。
「……『帰る』って、いいわねえ」
家がある喜びをまた噛みしめながら、マリーリアはふんふんと鼻歌交じりに、元気に帰路を急ぐのであった。