島流し43日目:家*4
そうして翌日。島流し43日目の朝。
「ふわ……おはよう」
マリーリアはベッドからもそもそ、と起き出してきて……ふむにょっ!と、妙な感覚を足元から感じた!
「あらぁ?……やだぁー、スライムじゃないの。駄目よ?こっちの方に来たら。踏んづけちゃうところだったわぁ」
そこに居たのはスライムである。どうも、朝の散歩でもしていたらしい。
「畑に帰しますからね。全くもう!」
マリーリアはスライムをむにっとつまみ上げて、早速畑へ向かう。
畑に植え替えたベリーの低木は、それなりに元気に根付いたようだ。これならば、来年はこの茂みを楽しみにすることができるだろう。
「野草の類も、一応、根付いてるわね。うーん……まあ、できればもっと食いでのあるものを植えたいのだけれど」
本当なら、麦か芋を植えたい。麦は栽培しなければ大量収穫できず、大量に無いなら意味が無い作物だ。そして芋は、植えれば育って増えてくれる。でんぷん質は漂着物の麦があるが、全てを漂着物に頼る訳にもいかない。いずれは、麦か芋かを栽培したい!いずれは!
「ところで、またあなた達増えたのねえ」
……そして、畑にはスライムが10匹ほど、ぷるぷるしていた。また雨で増えたらしい。
揃ってぷるぷるしている様子はまあ、可愛らしいので、マリーリアは『まあいいわぁ』とのんびりスライムをつつきまわすことにした。つつきまわされたスライム達は特に逃げるでもなく、ぷるぷるぽよぽよ、畑を元気に動き回っているのであった。
……平和である!
さて。朝食がてら、燻製肉を煮戻したものと野草とを煮たスープを摂ったら、早速煉瓦を積みに行く。
ついでに……。
「そろそろ、桟木を選ばなきゃね」
マリーリアは屋根づくりを進めるべく、桟木を運んでくることにした。
桟木、というのは、屋根の骨組みに橋を渡すようにして置く横木のことだ。それらは、瓦のための土台となる。
つまり、家の壁の、階段状にしたところの煉瓦の段1つずつに桟木を1本ずつ渡していき、その桟木を渡すようにして瓦を渡していく、ということになるのだ。
だが。
「……家を大きくしすぎたわぁー」
……桟木にできる長さの木で、手ごろな太さのものが、生えていないのであった!
煉瓦製造が順調だったものだから、マリーリアはうっかり、『じゃあちょっぴり広めにしましょ』と、少しばかり広めに煉瓦の壁を造ったのである。だが、当然ながら桟木の長さはその家の壁一辺分を更にもう少し超えた程度の長さとなるのだ。
……うっかり、マリーリアの身長の2.5倍程度の家を作ってしまった以上、必要な桟木の長さもその程度!
そして、そのくらいの高さになっている木は……大抵、もう、結構太い!
「えええー……どうしましょ、細くて長い木を探す?それとも、太い木を切り倒して割る……?」
マリーリアは考えた。どちらが楽か、考えた。
さて。
木の成長というものは、環境によって大きく異なる。
まず、環境によって変わるものといえば、樹木の種類だ。
肥沃な土地には広葉樹が多く、痩せた土地には針葉樹が多い。また、広葉樹は目の詰まった、硬い材質であるが、針葉樹は柔らかく、すかすかした材質であることが多い。
……そしてもう1つ。天候もまた、樹木に影響を与える。
穏やかな気候の元で育った木は、すくすくと成長するので、齢を重ねてどんどん太くなっていく。
だが、厳しい気候の元で育った木は、その時その時を生き抜くために必死であるので……樹齢を積み重ねていっても、あまり太くならないことが多い。
そう。太くなく、目の詰まった、細長い木。それが多いのは……険しい環境下。
つまり。
「流石に魔物がいっぱい居そうなお山にはまだ行く度胸が無いわねえ……。ある程度制圧していくにしても、それをやっていると桟木の調達がどんどん遅れそうだわぁー……」
……島の深部に位置する山。あそこになら、細くて長くて目の詰まった、そのまま桟木にするのに丁度いい木があるのだろうが……流石に、それを採りに行くのは難しいのである!
ということで。
「ああああ、またコレね!?またコレなのね!?あああああ……」
……瓦造りの時の再来である。マリーリアは、また苦労して太い木を切り倒すことになったのである!
「割るのもまた一苦労なのよねえ。はあ……」
マリーリアは、しょぼ、しょぼ……と肩を落としながらも、そんなションボリ具合に見合わぬ力強い斧捌きで、ガンガンと木を削っていくのであった!
マリーリアはその日一日を掛けて、木を切り倒し、そしてとりあえず2つに割った。だが、まだ太すぎるので、更に割ることになるだろう。
マリーリアは『煉瓦より瓦より、桟木で苦労するなんて……』と少々落ち込みながらもその日は眠ることにした。
そうして翌日。島流し44日目。
煉瓦を積み、ゴーレムに『この皮、叩いて揉んでおいてね』とペリュトンの皮鞣しを命じ、そして……。
「割るわよぉー……」
マリーリアはどんよりとした面持ちで、石の楔を半割り丸太へ打ち込み始めた!
ひとまず、2つ割りで太すぎたので4つ割りにする。そして4つ割りでも太いので、8つ割りに。
これでひとまず、煉瓦の段にうまく収まってくれるであろう太さになったので、これでヨシとする。
が、8本だと桟木が足りない。
「……また切ってきましょ」
仕方が無いので、マリーリアは今日も木を切ることになる!
またその日1日を掛けて木を切って、割った。前回よりは細い木が見つかったので、多少は簡単だった。
そして、その木は6つに割ることにして……これで概ね、丁度いい長さ太さの桟木が、14本揃うことになった!これでなんとか、桟木は足りる!
「やすり掛けは……あ、もう面倒だから焼きましょ」
色々と面倒になったマリーリアは、出来上がった桟木を焼いた。
……燃やすのではなく、表面だけ炭化させるのである。こうすることで、生木の断面という、非常にカビたり腐ったりしやすい部分を保護し、ついでに、加工しやすくしていく。
「うふふふふ、軽く炭化させて、表面を石で軽く削ればこれで表面はある程度滑らかになるものねえ。うふふふふ」
割った木材の断面は、当然ながら滑らかではない。木の繊維による凹凸がある。だが、それらに火を当てれば、木の凸の部分が先に焦げ、炭化していく。そこに石を当てて軽く研磨してやれば、すっかり炭化した凸部分が先に削れて、全体的に滑らかになっていくのである!
この作業を日暮れまで続けたマリーリアは、残りの桟木は明日加工することにして、また就寝するのであった!
……そうして、島流し45日目。
煉瓦の最後の段を積み、桟木の加工を行った後、マリーリアはペリュトンの皮の様子を見に行った。
「あら。ひとまず、なんとか上手くいったかしらぁ」
ゴーレムに鞣してもらっていたそれは、柔らか、とは言えないながらもそれなりには柔軟になっていた。これなら、毛布代わりに使うくらいのことができるだろう!
「うふふ、これを使って、家のベッドで眠るのが楽しみだわぁ……」
マリーリアはにこにこと微笑みながらペリュトンの毛皮を屋根の下へしまっておく。新しい家ができたら、そこにベッドを作って、この毛皮も使うことにしよう。
……そして。
「じゃあ、午後はいよいよ、桟木の取りつけをしましょう!」
いよいよ家の仕上げに入るのであった!
昼食を摂り終わったマリーリアは、ゴーレム達と共に桟木と瓦を煉瓦の家へと運んだ。
煉瓦の家は、最後の段も組み終わって無事、『向かい合う2枚の長方形と向かい合う2枚の5角形で作られた壁』となっている。
「ふふ……ちゃんとモルタルは固まってるわね。よしよし」
マリーリアは煉瓦の様子を確認する。煉瓦の1つ1つは、隙間をモルタルで埋めるようにして、キッチリと接合されていた。……モルタルづくりおよび灰づくりの苦労が報われるというものである。
「それで、煙突予定地は壁が抜けるようにできてるわね。よしよし」
……更に、いずれ穴を開けたい部分については、モルタルで固まっておらず、動く状態になっている煉瓦が収まっている。マリーリアはこれにも『よしよし』と頷いて微笑んだ。
「じゃあ、後はこの段に桟木を引っかけて……瓦ね!」
そう!ここまでできたなら、後は早い!
屋根の梁替わりである煉瓦壁の段差に桟木を設置して、瓦を葺けばいよいよ、煉瓦の家が完成するのである!