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島流し25日目:どきどき土器*3

「上手くいきますように!」

 マリーリアは祈りながら、炉に火を入れた。

 いよいよ、土器を焼くのだ!


 炉が温まってきたら、いよいよ炉の中に土器を並べていく。

「……全部は一度に入らないわねえ」

 まあ、大量に作って大量に乾かしているので、全ては並ばない。詰められるだけ詰めてみるが、何回かに分けて焼くことになるのは間違いない。

 それすらも楽しい、とばかり、マリーリアはるんるんと土器を炉に入れていく。そうしてそのまましばらく、穏やかに薪を燃やした。……一気に高火力で焼き上げてしまったら、土器の焼き方および収縮が均一ではなくなり、割れる原因となる。少しずつ、時間を使って徐々に炉と土器とを温めていく必要があるのだ。


 そうして土器も十分に温まったであろう、という頃。

「さあ、それじゃあよろしくね」

 マリーリアは炉の前で、ゴーレムに働いてもらう。送風機を動かし続け、高火力を維持し続けるためである。……こういう時、ゴーレムは非常に便利だ。マリーリアだったら、送風機を延々と何時間も動かし続けることはできないだろうから。

 ゴーレムは健気に、特に何を考えるでもなく、只々ひたすらに送風し続ける。酸素を送り込まれた炉は大きく大きく炎を吹き上げ、どんどん温度を上げていく。

 マリーリアはこの光景を見ながらまた、『できるだけ割れずに焼けますように!』と祈るのだった。

 焼き物はマリーリアにとって、運任せだ。

 温度を徐々に上げて焼き縮みを均一にしたり、粘土の収縮防止のために焼き物の粉末を混ぜたり、成形した土器をしっかり乾燥させて土器内部で水蒸気が発生して爆発するのを防いだり……とできる限りのことはしてきたが、それでもやはり、マリーリアには経験と知識が足りない。

 だから、そこは試行回数と……後は、お祈りでカバーだ!




 ゴーレムが頑張ってくれている間にマリーリアは少し植物採集に出かけた。木苺はそろそろ旬を終える。杏はもう少しはあるだろうか。野草の類はのびのびと育っていくので、柔らかく、食べられる部分だけを摘み取って帰る。

 もうじき夏の盛りを迎えるが、野草は秋になったら枯れ行く。できる限り食用の野草を採って、干して保存しておくなどの工夫が必要になるだろう。

 マリーリアはそのあたりも見通して、存分に野草を採集していくことにした。

「あら、また別のベリーが」

 ……そんな中、海岸の岩場の方から少し奥に入った緑地で、木苺とは異なるベリーを見つけた。……よくよく見てみると、ごく小さく可愛らしいその粒は、ビルベリーの類であることが分かった。

 まだ旬には早いようで、ビルベリーの実はまだほとんどが熟していない。だが、その中でも青紫に色づいた小さな粒を摘み取って口に入れてみれば……野生故の強い酸味と豊かな香り、そして若干足りない甘みが口の中に広がった。まあ、これはこれで美味である。

「ということはこの辺りは酸性土なのねぇ……」

 ビルベリーの類は、酸性の土壌で元気に育つ。栄養に乏しい土壌でもよく育つ。……例えば、火山灰を含んだ土壌などでも。

「酸性土で、ビルベリーが元気に実るなら……やっぱり!」

 そこでマリーリアはきょろきょろと辺りを見回し……お目当ての赤色を見つけた。

「リンゴンベリーも見つけたわぁ!ふふふ、やっぱりベリーの類がいっぱい!」

 それは、リンゴンベリー……コケモモの実である。ビルベリーと同様にまだ少し時期に早いようで、実はまだほとんど熟していないが。

 だが、これで夏のおやつにも困らないだろう。マリーリアは嬉しくなって小躍りした。

「案外、無人島も捨てたものじゃないわねえ。まあ、大昔に誰かが住んでいた可能性は高い気がしてきたけれど。うふふふ……」

 ……まあ、これらのベリー類が、大昔、誰かによってこの島に持ち込まれた可能性は考えられる。木苺やグミ、杏などの全てが元々この島にあったとするならば、あまりにも幸運だ。

 だが……まあ、この島の荒れようを見る限り、今、誰かが住んでいるとは思えないのだが。マリーリアはそれを少し残念に思いつつ、『でも、大昔に居たかもしれないお隣さんのことを考えるのはちょっと楽しいかもね』と気を取り直して、また拠点へと帰っていくのだった。




 さて、拠点に戻ったら土器だ。土器である。

 炉の火を消したら、そのまま自然に冷ます。急激な温度変化は割れの原因になるからだ。

 そしてその間は暇なので、池に行って、罠にかかっていた魚を捕ってきた。今日はこれでお昼ご飯である。


 塩漬け肉少量とペリュトンの骨を焼いたものとで出汁を取って、魚の身と野草とを煮たスープを飲んで、それから魚の骨を出汁用に干したり、今晩のスープの為にペリュトンの骨を炉の熾火で焼いたりしつつ……マリーリアはそわそわと炉の周りを動き回る。

「ああー、気になるわぁー、気になるわぁー……気にしたからってどうなる訳じゃないってわかってるけど、気になるのよねえ……」

 落ち着かない。土器がどうなっているか気になって気になってしょうがない。

 だが今すぐ土器を確認することはできない。ゆっくりと炉を冷まして、土器に触れるくらいの温度になるまで待って……確認できるのは早くても夕方になってからだろう。

 マリーリアは『気になるわぁー!』と嘆きつつ、畑へ向かう。……こういう時にやることは決まっている。


「あああー……落ち着かない時にもあなた達、優秀ねえ」

 ぷみょ、ぽよ、とスライムをつつく。たゆたゆたゆ、と揉む。

 ……こうしていると、多少、気が紛れた。紛れついでに『もうちょっと畑を耕しておきましょ……』と思いついて体を動かし始めることにした。そうして働き始めてしまえば、いよいよ、土器のことは気にならなくなってくる。

 労働は偉大である。そしてスライムもまた、偉大である。マリーリアは畑を耕し、その傍らでスライムを、ぽよよよよよ、と揺らして遊ぶのだった。




 ……そうして、夕方。

「そろそろ……いいわよね」

 マリーリアはどきどきしながら炉を開ける。するとそこには、綺麗に焼けた粘土の数々。

 1つ1つ慎重に取り出していく。テラコッタゴーレムの部品の1つ1つ、大量に作った壺……それらを検分して、罅や割れが無いかどうかを確かめていくのだ。

「うーん、海の砂を入れたものが割れてるわねえ。でもこれ、一番底に入れたから、火の勢いで割れちゃったのかも……。或いは、砂に塩気が含まれてて、その影響かしらぁ」

 残念ながら、割れてしまったものもある。海の砂を混ぜたものや、灰を混ぜたものは割れてしまっていた。尤も、これらは海の砂や灰が悪かったのか、はたまた炉の中での位置や火の加減、はたまた乾燥が悪かったのか、そのあたりが分からない。何度か繰り返してみないことには、確かなことは何も言えないだろう。

「にがりで練ったものは変化なしね。焼き物の粉末を混ぜたのは悪くないわ。丈夫にできてる。えーと……川の白砂を使ったものは、ちょっと風合いが違うわねえ……」

 川の白砂を混ぜたものは、他のものより白っぽく焼き上がった。ついでに、爪で弾いてみると、かん、と高い音がした。丈夫に焼き上がった証拠である。

「磁器みたい」

 そう。まるで、磁器のようであった。

 ……となると。

「……あの白い砂、長石とか石英とかの粒……ってことかしらぁ」

 マリーリアは早速、砂の正体を推測していく。

 白い砂、となれば、石灰質のものか、はたまた長石や珪石の類などが真っ先に考えられる。そして、今、このように『磁器のように』なっている陶器を見る限り、川に堆積していた白い砂は、本当に『長石と珪石』であった可能性が高い。


 長石と珪石は、それぞれ磁器や釉薬の材料である。

 ものを溶かしやすくする珪石と、溶けてガラス質になる長石。この2つを混ぜた粘土を焼き上げると、薄くて硬くて丈夫な磁器になる。

 勿論、陶器とは色々と製法が異なる。原料が異なることを除けば一番の違いは、焼き上げる温度の違いだろう。

 磁器の素焼きは、陶器の素焼きよりも温度が低めの方が望ましい。そしてその後は陶器をただ焼く時よりも高い温度で一気に焼き上げて、ガラス質の素地を得る。今回、海の砂を混ぜたものや灰を混ぜたものが割れてしまっていたが、これは温度が高すぎたからなのだろうか。

 まあ、磁器を焼くには少々温度が低く、陶器を焼くには少し高かった、と考えれば妥当だろうか。マリーリアは『研究が今後も必要ねえ』と頷いた。


 納得したところだが、推測はまだ続く。

「ということは……上流で花崗岩が砕けた、って考えられるんじゃないかしらぁ」

 川に長石と珪石の砂が堆積していたということは、上流には長石と珪石が大量にあると考えるのが妥当だ。……となると、マリーリアが真っ先に考えるのは、花崗岩の存在である。

 火山活動によって生まれることが知られている花崗岩は、見た目にも美しい石だ。白い地に、斑のように入った黒や灰、そして薄紅の結晶が混ざっている。そんな石だ。

 花崗岩は、地中深くで溶岩がゆっくりと冷え固まった時にできる石であるらしい。そしてその時に、長石や珪石、そして砂鉄をその内に含むのだ。

 ……つまり。

「花崗岩が砕けたなら、砂鉄もどこかに溜まっているわよねえ……」

 マリーリアは早速、この島における砂鉄の在り処を、見当づけることができたのだ。




 だが。

「……まあ、製鉄にはまだ色々と足りないものねえ。はあ……」

 砂鉄の在り処の見当がついたとしても、すぐさま鉄を生み出し、アイアンゴーレムを生み出せるわけではない。鉄を加工するなら、もっとテラコッタゴーレムが必要だし、送風機ももっと必要だ。さらに大きな炉が欲しいし、何より、大量の炭と、大量の砂鉄が必要なのである!

 少量で試してみても、どうせ歩留まりが悪い。だから、鉄を作るとなったら、一気に作ってしまいたいのだ。マリーリアはそう、考えている。

 なので……今、マリーリアが気にするべきは、砂鉄ではない。

「それに、ええと、磁器よ、磁器。もっと白砂を多く混ぜた粘土を焼いたら、磁器ができるんじゃないかしら!」

 磁器。

 陶器より薄く軽く丈夫に作れるであろうそれを、量産することができるかもしれない。

 更に……磁器を安定して生み出すことができるなら、磁器ポーセリンゴーレムを作れるかもしれない。

 マリーリアの土器づくりおよびゴーレム造りは、更に一歩前進しようとしているのである!


「それに、ええと、長石があるなら、釉薬よ!釉薬を作れるわ!焼き上がった壺に釉薬を掛けて焼きましょ!水を通さない壺ができるわぁ!」

 更にマリーリアは、素焼きではなく、釉薬を掛けた壺の製造にも手を出そうと考え始めた!

 これで、液体の保存ができるようになる!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 花崗岩が流れてきてて酸性の土壌があるということは、火山が近いと思いますが、そうなると酸性土を嫌うローズマリーが原生している点が不自然ですね
[良い点] ぷるるん [一言] そういえばゴーレムはある程度小柄であったとしても人間くらいの大きさをしていないと厳しいのでしょうか? お人形サイズ(ぽ〇ちゃんや一松人形など)でもできるような作業をやら…
[一言] ぽよよよよよ、と揺らされてるスライムくん可愛いですねぇ。甘んじて受け入れてるのか、よくわかってないのかは分かりませんが!一家に一匹欲しいですわぁ。
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