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島流し12日目:狩人*1

 炉の構造は、至極単純だ。

 まず、地面から少し離れた位置に火格子がある。その上に薪をくべて火を焚けば、火格子の下の給気口から空気が流れ込んで、炉の上部に向かって流れていく。

 その空気の勢いで火はより強く燃え上がるので、焼き物に適する温度にすることができる。……と、まあ、そういう仕組みである。

 なので今は、火格子の上ではなく下……地面に直接薪を乗せて、そこで控えめに火を焚いている。炉の完全な乾燥のためだ。

 火格子の上ではなく下で火を焚けば、空気を下から取り込まないのでそこまで大きくは燃え上がらない。乾燥に丁度いいくらいの火になる。

「うーん……先に送風機を作らないとダメかしらぁ」

 炉の乾燥具合を確認しつつ、マリーリアは少々心配になってくる。

 一応、炉は造ったが、これでは給気が足りないかもしれない。

 より良い焼き物を作りたいなら、より高い温度が必要だ。そして、より高い温度を生み出すためには、より多い空気が必要なのである。

 空気の無いところでは火は燃えない。常に空気をたっぷりと取り入れ、火を炉の上部に向かって勢いよく吹き上げるような仕組みが必要なのだ。


 ……ということで。

「まあ、ひとまず形だけ作っときましょ」

 マリーリアは炉が温まって乾くまでの間に、送風機を1つ作っておくことにした。

 送風機は然程難しい仕組みではない。ただ、数枚の羽を持つ棒を錐揉みで回転させて風を起こす、という部品と、生まれた風を集めて送風口から出すための器のようなものとを作るだけだ。

 風を生み出すための、いわば団扇のような棒は、真っ直ぐな木の枝に厚手の葉っぱを折り畳んだものを6枚ほど取り付けてある。まるで風車か水車か何かのような見た目になったが、実際そんなものである。ただし、風を受けて回るのではなく、回って風を生み出すわけなので、風車とは働きが逆だが。

 送風機の外側については、粘土で作った。こちらはひとまず乾燥しきっていなくても問題ないのでこれでヨシとするが、いずれはこれも焼き上げてしまいたい。

 ……さて。

「じゃあ……焼いてみましょ」

 マリーリアは緊張しつつ、いよいよ炉の中に土器を運び入れることにした。




 炉に土器を入れる。炉の上部は、本当なら屋根をかぶせておきたいのだが、被せられる不燃性のものが無い。

 仕方が無いので上部はそのままに、火格子の上に薪を置く。さあ、焼き物の始まりだ。

 マリーリアが固唾をのむ中、火格子の上の薪に火がつき……その途端。

「わ、すごい」

 ……送風したわけでもないのだが、火は大きく燃え上がる。自然と空気が取り込まれて、給気口のあたりにはもう、空気の流れが生じていた。

「……送風機も動かしてみましょ」

 折角なので、送風機の棒を回してみる。くるくるくる、と棒が回ると羽が回って、風が生まれる。風は送風口からぶわりと吹き出して、火を大きく煽った。

「これはいいわねえ。うふふ、疲れるけれど」

 いずれ、紐を引くことで棒を回せるように改良したい。マリーリアはそう思いつつ、一生懸命に送風機を回すのだった。




 ……そうして、2時間程度。

「うーん、多分もういいんじゃないかしらぁ。よく見えないけれど……」

 マリーリアは炉の中を上部からそっと覗いて、炎が燃え上がる中で土器が赤熱しているのを確認した。

 ああいう風に、ちゃんと赤くなるまで熱せられれば大丈夫だ。多分。……そう信じて、マリーリアは薪を足すのを止める。

「ちゃんと焼けてるかしらぁ……。爆発はしていないと思うんだけれど……」

 炉を見つめてみるが、中の様子は分からない。上部から覗けるものにも限界がある。見えないところで土器が割れていたり、崩れていたりすることは十分に考えられた。爆発したような音は聞こえていないが、それでも割れる時は割れる。こればかりは正直なところ運頼みである。

「まあ、見ていても冷めないものね。夕方になったら冷めるかしらぁ……」

 何はともあれ、炉の火が消えて、そして炉がちゃんと冷めるまでは時間がかかる。それまでは土器がどうなっているか確認できないのだ。

「薪を集めなきゃね。第二弾を焼くには薪が無いわぁ……」

 マリーリアは立ち上がると、次の焼き物の準備として、薪を拾い集めてくることにした。既に乾いてすぐにでも薪にできるような枯れ木を大量に集められれば、またすぐに炉を動かすことができる。

 ……土器の仕上がりを見て、割れてしまっているものがあれば同じようなものを焼き直して、何度か試行錯誤する必要があるだろう。そのためにも、粘土と薪が、大量に必要なのである!




 そうしてマリーリアの島流し生活12日目が終了した。同時に、食料もそろそろ尽きる。

 薪と一緒にベリーの類を収穫してきたり、杏のような実を見つけて収穫してきたり、と果物の収穫はそれなりにあった。だが、果物だけでお腹いっぱいになるのは難しい。

「……やっぱりまたマンイーターなり他の魔物なりを見つけるしかないわよねえ……」

 マリーリアはそんなことを考えつつ杏らしいものを齧った。とても酸っぱい。が、ちょっと元気が出る味ではある。

「明日はちょっと探索してみましょ」

 マリーリアはそんなことを考えつつ、ベッドに横たわるのだった。




 翌朝。

「さあさあ、上手に焼けたかしらぁ……」

 マリーリアは起きてすぐ、炉へ向かう。

 一晩おいた炉はすっかり冷めており、中に入っている土器の類を取り出すのにも苦労は無かった。

 積み重ねた土器の類をどんどん出していくと、やはり割れてしまっているものもある。

「ああ、お皿は2つ駄目だったわね。でも壺はいいかんじ。……水漏れしなければ最高だけれど、どうかしらねえ」

 焼き上がって形がきちんと残っている土器は、壺が3つ、皿が1枚、椀が2つだ。割れてしまったものは、壺が2つに皿が2枚、椀が2つ。これならば、まあ、かなり上出来である。マリーリアは、1つも壺が残らないことも考えていたくらいなので。

 そして……。

「それで……ゴーレムの部品はどうかしらぁ」

 もう1つ。食器よりも大切なものがある。

 それはゴーレムの部品だ。特に、命令を刻み込んだ、胸部のプレート。これがちゃんとできているかどうかで、マリーリアの今日の探索が大きく変わってくることになるが……。

「……できてる」

 マリーリアが取り出したそれは、多少の欠けや罅こそあれど、ちゃんとした形になっている。

 ……テラコッタゴーレムの胸部が、出来上がっていた。




「な、なんとか1体分はパーツが生き残ったわぁ……」

 そうして。

 マリーリアは炉から取り出したテラコッタゴーレム3体分のパーツの内、無事だったものをやりくりして、なんとか1体のテラコッタゴーレムを生み出すことに成功した。

 テラコッタゴーレムの胸には、『常に主に付き従い、指示があればその場で待機しろ』と刻んである。ゴーレムづくりでよく見かける定型文だ。これを刻んだゴーレムは、従者として活用できる。

「これからよろしくね。ふふふふ……」

 テラコッタゴーレムはマリーリアの胸くらいの身長しかない。あまり大きなものを作るには、粘土が足りなかったのだ。

 だがこれで十分だ。マリーリアには劣るだろうが、概ね人間にできることができて、一々命令を書き換えずとも命令に対応できるゴーレムが手に入ったのだから、大きさなど些事でしかない。

 自分より小さなゴーレムの頭を見下ろして微笑みながら、マリーリアは早速、朝食を摂ることにしたのだった!




 朝食として、麦粥を食べる。

 獲れた魚と野草を海水と水と麦と一緒に煮込んだものだが、まあ、それなりに美味しい。麦が拾えて本当によかった。

 そうして腹が膨れたら、昨日採ってきた杏の実を1つ齧って……。

「じゃあ、早速食料探しに行きましょうか」

 マリーリアはにっこり笑ってテラコッタゴーレムを従えると、探索に出るべく踏み出したのだった!




 ……が。

「いった!」

 踏み出して一歩目。

 ……朝食の煮炊きに使った焚火跡から零れてきたものだろうが、炭の欠片を勢いよく踏んだ。痛い。ちょっと痛かった。

「……傷にはなってない、わね……?」

 慌てて足裏を確認したが、傷にはなっていない。大丈夫だ。……だが、まあ、痛かった。ちょっとは痛かった。

「……履物が先ね」

 ということでマリーリアは探索の前に、履物を編むことになるのである。




 川へ向かえば、そこには以前浸けておいた植物の茎だったものが揺らいでいる。茎の組織が腐り、水に流れて、繊維が残っているのだ。

 勿論、繊維が完全に繊維だけになっている訳ではないので、腐った組織を洗い落とすべく、暫し、もみもみもみ、と繊維を洗った。

「触ってみたかんじは麻に近いわね。ふふ、ありがたいわぁー」

 出来上がった繊維は濡れていることもあり、灰色がかった茶色に見える。だがこれが乾けばより色合いは薄くなり、マリーリアのよく知る麻袋の麻のような色合いになるのだろう。

「さて、じゃあこれを運んで……あら」

 重石を退かしながら繊維の束を引き上げ、運ぶべく持ち上げたところで……マリーリアは、テラコッタゴーレムが居ることを思い出した。

「……じゃあ、これを運搬してね」

 繊維の束の半分をゴーレムに持たせて、マリーリアはそっと歩き出す。するとゴーレムは繊維の束を抱えたまま、マリーリアについてきた。

「……やっぱり便利だわぁ」

 自分の荷物が半分になる。或いは、一度に運べる量が2倍になる。これは大変に重要なことだ。これでまた1つ、マリーリアの生活は楽になる。

 マリーリアはすっかり上機嫌で拠点へ戻ることにした。テラコッタゴーレムはちゃんとマリーリアの後を付いてくるのだが、それがなんだか可愛らしく思える。

 意思など無い、ただのゴーレムではあるのだが……まあ、かわいいと思えることは良いことだ。マリーリアはそう思い直して、またるんるんと拠点への道を急いだ。




 それから昼まで、マリーリアはひたすら繊維を紡ぎ、紐にして、そして出来上がった紐をひたすら編んだ。

 きちんとした繊維から作った紐はしなやかで丈夫だ。編みやすいし、肌触りもいい。耐久性も高い。また、この手の植物の繊維に共通の特徴として、水に濡れても耐久性が落ちるということが無い。今、マリーリアは濡れたままの繊維を紡いで編んでいるが、丈夫な繊維はとても扱いやすくていい。

 そうして昼を少し過ぎた頃、なんとかサンダルが編み上がった。紐を足首で結んで固定するものなので、履き心地が良いというわけでもないが、まあ、丈夫ではある。

「濡れたままだけれど、別にいいわね。履いちゃえ」

 編み上がったまま、生乾きのサンダルの紐を早速足首に結わえて、履いてみた。

 ……2週間近く裸足で居たマリーリアには、少々新鮮な感覚だった!

「……裸足の方が歩きやすい気がするわぁ」

 すっかり裸足に慣れていたマリーリアは、なんとなく違和感を覚えつつもぺたぺたてくてく、とサンダルでそのまま歩き回ってみる。

「あぁー、慣れるまでにちょっとかかりそう……。まあ、探索している内に違和感は忘れそうだけれど……」

 ……嘆きつつもぺたぺたてくてく歩きまわるマリーリアを、スライム3匹がぷるるん、と見守っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいく頼もしい?テラコッタゴーレム完成!サンダル完成! そういえばマリーリアさん今まで木々の切り倒しや草狩り屋根敷きも裸足でやってたんだなぁ……あしのうらつよい…… [一言] お出掛…
[一言] ぺたぺた歩くマリーリア嬢かわいい
[良い点] ふふふ……命令に忠実な物言わぬ小間使いさんがたくさんお仕事しているのって見てて楽しいわぁ〜。 何も仕事しないスライムちゃんたちがぽよぽよしてるのもかわいいですわ〜。 [一言] 今まさに初…
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