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島流し8日目:雨*5

 スライムが増えた、ということは、まあつまり、魔力がそれなりに得られた、ということだろう。

 スライムの主成分は魔力と水である。当然、水を保持してぷるぷる動くための体がありはするのだが、その大部分は水でできており……そして魔物なので、魔力によって動いていると考えられている。

 そしてスライムは、分裂する。

 環境が悪くなってきて命を繋ぐのが難しくなってきたり、はたまた逆に環境が良くなってきて増えたくなったりした時に増える。そして、増えるためには当然、たっぷりの水の外、スライムが誕生するのに必要な程度の魔力が必要なのだ。

 ……ということは。

「マンイーターの素材がよかったのかしらぁ……」

 ここのスライムが雨の度に増えているのは、水がたっぷりと手に入ったからだろう。そして、水さえあれば増えられる、というようなこのスライムの様子を見る限り、まあ、魔力はそこそこにあるように見える。

 そして、魔力といえば、マリーリアがスライム達に与えているマンイーターの素材の切れ端である。

 マンイーターも当然ながら魔物なので、その体、その茎、その根っこ……それらには魔力が含まれるのだ。それらがスライムの分裂を促したのだろう。

「まあ、賑やかでいいってことにしましょ。増えちゃった分、しっかり働いて頂戴ね」

 マリーリアは3匹のスライムをぷにぷにとつついた。スライム達は分かっているのかいないのか、ぷるるん、と体を震わせていた。




 さて。

 炉に粘土を積み上げたら、屋根を葺く。

 昨日集めてきた草の束をひたすら葺いていき、昼にはベッドに、そして夕方には薪小屋にも屋根がついた。余った時間は木を切るのに充てた。薪が増えた。

 ついでに炉もできた。あとは乾燥を待つばかりである。……といったところで、さて。

「やっとベッドで眠れるわぁー!」

 マリーリアはベッドで寝た。ハンモック状のベッドは中々寝心地がいい。少なくとも、雨の中、屋根の下に押し込められるようにして地面に横たわっているよりずっといい!

 充実した気持ちでマリーリアは眠り……そして翌日。


「土器も炉も、乾燥していないものねえ……。うーん、何しようかしらぁ」

 マリーリアは少しばかり困っている。というのも、今すぐやりたいことが今できないからだ。




 現在、最も逼迫しているのは間違いなく食糧事情である。

 マンイーターによって大分楽になったが、それでもまだまだ足りないのだ。何せ、食料は食べると無くなっちゃうのである。

 ……ということで、ここらでまたもう1匹、何か魔物を狩ってその肉を頂きたい。が、それをやるなら、できればテラコッタゴーレムが欲しい。マンイーターのように動かない魔物相手ならマッドゴーレムと投石でなんとかなるが、動く魔物相手だと、流石にああはいかないのだ。


 次に欲しいものは、新たな資源である。

 新しくベリーの茂みが見つかるでもよし、粘土の地層が見つかるでもよし……とにかく、行動範囲を広げていきたい。いずれは山まで制圧するのだ。領土は広い方が良いし、そこにある資源は冬を越すのに必要だろう。

 だが、探索するならやはりテラコッタゴーレムが欲しい。荷物持ちが居た方が効率がいいのだ。


 ……ということで。

「いずれ炭も焼きたいし、薪はあるに越したことが無いものねえ……」

 マリーリアは木を切ることにした。とりあえず、燃料は大事である。

「それに、炉ができたらテラコッタゴーレムを作って、その後は煉瓦焼きを始めたいから……煉瓦干し場も大きいのを作らなきゃいけないのねえ……支柱に良さそうな木も集めなきゃ」

 それから煉瓦干し場も造ることにした。とりあえず、屋根は大事である。

 ……まあ、木を切るのは地味だが大事な仕事である。マリーリアは日が暮れるまで、ひたすら木を切り続けたのだった。




 翌日。

「ちょっと炉が乾いてきたわねえ」

 昨日は炉の近くで火を焚いていたからか、炉は順調に乾燥してきている。

 が、まだ慌ててはいけない。ここで一気に火を入れてしまうと、炉の中の水分が膨張して爆発する。……そう!炉が爆発する可能性があるのだ!

 そんな怖いことにはならない方がいいので、炉も土器も、しっかりと乾燥させてから焼いた方がいい。火を焚いて乾燥を早めるのも、ほどほどにしておいた方がいいのである。


「薪も溜まってきたし……煉瓦干し場を先に造りましょ」

 ということで、マリーリアは今日は煉瓦を干すための場所を作ることにした。




 煉瓦を作る作業は、概ね『粘土を捏ね、成形し、乾燥させ、焼く』という4つの工程に分けられる。

 が、それぞれを細かく見ていくなら、例えば、粘土を捏ねる時には不純物をできる限り取り除いた方がいいし、成形は型を使うか何かして煉瓦の規格を揃える必要がある。そして、煉瓦を乾燥させるにあたって、煉瓦をまずは『最低限、移動させられる程度には乾燥させる』必要がある。

 そう!乾燥させるために乾燥が必要なのだ!何故ならば、乾燥していない粘土はふにふにと柔らかく、その場から動かすことすらできないから!

 ……よって、煉瓦を作る際には、煉瓦干し場の地面にそのまま煉瓦を成形していくことになる。煉瓦干し場の屋根の下がそのまま、煉瓦づくりの作業場となるのだ。

「面積がそのまま、煉瓦造りの効率に直結しちゃうのよねえ。でも、あんまり大きいと屋根を葺くのが大変……。どうしようかしらぁ……」

 マリーリアは屋根を葺くのが嫌いである。ものすごく大変なので、できればやりたくない。特に草葺きは。草葺きは……材料を集めてくるところからして、大変なのである。

「ここが南国なら、ヤシの葉っぱを使って比較的楽に屋根を作れるけれど……ううん、どうしようかしらぁ」

 フラクタリア王国では、屋根材といえば木の板葺きか、石瓦スレート葺き、はたまた瓦葺きである。どれを考えても、それなりに面倒ではある。何せこの島には資源が無い。板を作れるほどの太さの木を伐り出すには鉄の斧が欲しいところだし、石瓦を作るための工具も当然、無い。瓦はこれから焼きたいところだ。瓦が先か屋根が先か、という話になってしまう。

 そう考えるとやはり、草を一生懸命集めてきて草葺きにするのが妥当なのだろうが……。




 考えに考えたマリーリアは、海へ向かった。2回目の雨の後、まだ海を見ていない。何かいいものが漂着していたら、と思うのだが……。

「……あら」

 海岸に辿り着いたマリーリアは、目を瞠った。

「板……?」

 そう。いつもの流木の溜まり場にあったのは……板だったのである!

「板!」

 マリーリアは駆け寄って確かめてみたが、やはり、板である!大きなダイニングテーブルくらいの大きさのある、板である!

「板だわぁー!きゃあー!」

 マリーリアは飛び上がって喜んだ。この板は見る限り、船の甲板か船室の戸か、そんな何かに使われていたように見える。ということは、どこかで一隻船が沈んでいる可能性があるのだが、まあ、それについては祈りを捧げるとして……それでもやはり、板は嬉しい!

「しかも、壊れかけの木箱!こっちは……まあ!麻袋!中に麦の粒があるじゃない!きゃあー!すごい!すごいわぁー!」

 更に大収穫である。破損しているとはいえ木箱があり、更に、流れ着いている麻袋は破れていたが、中にはまだ二握りかもう少し、といった程度の麦が残っていたのだ!

「……種籾じゃないのは残念だけれど、ありがたいわねぇ……」

 残念ながら、麦の粒は精麦されてしまっており、白い粒が見えるばかりだ。だが、それはそれ。食料として、十分に過ぎるほどありがたい。

 砂浜に落ちてしまっている麦の粒もできるだけ拾い集めて袋に入れていく。白砂の上に散った麦の粒は非常に見づらかったが、それでも可能な限りは拾い集めたい。

 ……そして。

「やっぱり板だわぁ!夢じゃないのね!ふふふふふ!」

 やっぱり板!板があることで、マリーリアは一気に元気になったのであった!




 ……とはいえ。

「まあ、これ一枚で屋根を葺くのは無理ねえ。……大人しく草葺きにしましょ」

 大きいとはいえ、板一枚。これで煉瓦干し場の屋根を全て賄うことはできない。

 なので……残念ながら、やはり、草葺きだ!草葺きするしかないのである!マリーリアはしょんぼりしつつ、渋々草刈りに出かけるのであった!




 ……そうして、島流しから12日目。

「ああー……やっとだわぁ……やっとできたわぁ……」

 マリーリアはようやく、煉瓦干し場を造り終えた。

 そして……。

「炉もそろそろ乾いたかしらね。……ちょっと火を入れてみましょ」

 いよいよ、焼き物を始める時が来たのである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなところでは大変貴重な!板である! 説明解説の「!」いっぱい付く文章、謎にテンション上がりますね。 好きです。
[一言] 板に喜んでるの可愛いな…
[一言] スライムに術式を刻んで使役とか出来ますかね。生物には使えないのかな?以前のコメントで紙のヒトガタを操るのが得意な人もいるとの事でしたから、魔物使いみたいな職もありそうですが。
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