092 チビ竜
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《アイリス嬢の視点》
どんどん危険に向かって突き進む。そんな感覚に身が凍りそうだったわ。
突き刺すような威圧。それには禍々しいばかりの敵意が感じられた。
公子様は相変わらずの自然体でスタスタという感じの軽妙な足取りで鬱蒼とするシダの生い茂る原野を歩いて行かれた。
この辺の雑草ってほんとうに。公子様にはお辞儀をしているように避けるのに、わたくしには敵意を持って攻撃してくるの。
バタバタと騒がしく雑草と格闘して歩くわたくしと、優雅に歩かれる公子様の差に思わず苦笑したのを覚えているわ。
これは今だからわかるんだけど、わたくしが身も凍りそうになる恐怖を感じている威圧感も、皮膚がヒリヒリするような敵意も、公子様にはそよ風ていどにしか感じられて無かったのではと思う。
その時公子様は、わたくしの雑草との悪戦苦闘に痺れを切らせて雑草達をお叱りになられたの。
そうすると雑草が恐れ慄いて臣民達が偉大なる王に平伏するように、地面に這うようにして道を作っのよ。
今だに信じられない光景だった。
わたくし達はその幻想的な草達が作った道を暗闇の中に進んで行った。
その先に、その魔獣はいたわ。
全身真っ黒で禍々しい雰囲気に包まれていた。大きさは多分だけどケェツァルコアトルに比べると小さかったけど、そもそもあのレベルの魔獣は大きさなんてあんまり関係ないもの。
重魔獣ベヒーモスは、重力を操る魔物。自身の体重を何百倍にもして攻撃してくる化け物ね。
しかもベヒーモスは空間魔法まで使う本物の化け物。瞬間移動で我々の頭上に現れて、恐ろしく重たい身体を重力操作で更に重たくして落下攻撃してくる。
突然頭上に現れたと思ったら恐ろしい速度で落下する攻撃よ。身体が大きいから避けるのは無理ね。
しかし、公子様にはそのような単純な攻撃は全く無駄だった。
公子様は避けることもお出来になったはず。でもわたくしの身を案じたのでしょう。
そのままベヒーモスの下敷きになったはずだった。わたくしは恐ろしさで目を瞑ったわ。
しかし気付けばいつもと同じこと。瞑っていた目を見開くとそこにはベヒーモスの残骸が有ったわ。
公子様はそんな魔物に興味無いってお姿でそのまま巨木の所までいくとタッチして。笑って言うのよ。
「アイリス嬢もタッチしなよ。ちょっと小さい竜が邪魔だったけどたいした魔物もいなかったな」
とても光るような笑顔だったのを覚えているわ。
あのSSS級重魔獣ベヒーモスも公子様にとってはチビ竜なんだと思ったわ。
本日三回目の投稿です。
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