083 気持ちいい
ブックマーク。高評価。いいね。よろしくお願いします。
《豪商サスティナ・ジェラート視点》
なんだかさっきから魔物の数がやたらに多い。
女忍エーメラルダ様が手裏剣と言う投擲武器をたくさん投げられている。
あれは公子様考案の武器だ。器用さが高いエーメラルダ様にとても適した武器だと思う。
あんな武器まで考えて作らせるのが凄い。
女忍エーメラルダ様の闘い方はレリトニール公子様が考えて、エーメラルダ様が工夫されて完成されたもので、エーメラルダ様の職業にとても適したものだそうで彼女の強さの秘密になっている。
女忍エーメラルダ様は、元々は王国派の貴族の中心人物とも言われているエデンバーク学術尚書の家系の方でスパイとしてテンシラーオン家に送られてきた人だった。わたくし達、テンシラーオン家の寄子としては心を許せないお方のはずが、レリトニール公子様が全ての情報を正しく王都に知らせるようにと態々言われた事があり、以来彼女は公認のスパイとなった。
毎日、よくもあれのほどと呆れるほどの量の報告書を書いているがあれはもう、レリトニール公子様への恋文だ。
ご本人はお気付きになっていらっしゃらないようだけど恋する乙女が好きな殿方の惚気を延々と綴っているようにわたくしには感じでしまう。
しかしその軽妙な筆致は素晴らしい。一つの才能だと思う。
彼女の報告書は、その日のうちに書き写されて一つは大公爵様に一つは奥様に一つは王都に送れている。さらにはレリトニール公子様のお姉上君のセシーリア公女様とシルビアーナ公女様のお二人にも送られている。
わたくし達もその一つが共有されているが、わたくしもこの報告書を読むのが大好きだ。
彼女は一体いつあれだけの文章を書いているのか不思議で仕方がない。
彼女が投げた手裏剣は一つも違わず全てが魔物に命中し、みるみる魔物を屠った。
しかし、あの無数の手裏剣でも間に合わないほどの魔物が通路の向こう側から群れでやって来ているのが見えた。
これはなんとかしないと怪我人がでる。
わたくしはそう判断し走ろうした時、聖女リリアージュ様が真っ先に行動された。
「聖女様。前に出ては危険です。お下がりください。あなたは全世界の宝なのですよ。お怪我があっては」
女忍エーメラルダ様が叫んで止めようしたが、聖女リリーアージュ様はさっさと皆の前に出て戦う構えをとられていた。
直ぐに魔物の群れはやってきた。聖女様は見事な杖術を披露されて魔物を退治されている。
でもこのままではだれかが怪我をしてしまいそうだ。
わたくしは、慌てて懐を探った。何か投げる物をと思ったのだ。懐から出てきたのは財布だった。
そう言えばわたくしは常時たくさんの金貨を持ち歩いていた。いついかなる時に公子様がお金を必要とされるか分からないからだ。
豪商には収納スキルがあるので、何よりもお金があれば必要な物はなんでも買えると考えて、できるだけたくさん入れていたのを思い出した。
チラリと金貨を見た。
庶民なら一生涯金貨など見ずに過ごす物も多いと言われるほど金貨は価値がある。しかし緊急事態なので仕方がない。
わたくしは、金貨を何十枚か枚持つとそれに念を込めて魔物に投げつけた。なぜか上手く当たると言う確信があった。
《『銭投げ』のスキルを取得しました。豪商の「お金を上手く操る能力」に伴い攻撃力が上がります。また投げる貨幣の額に比例して攻撃力が増加します》
天の声が聞こえた。
なんと、新スキルを取得したようだ。なぜお金を投げようなどと思い付いたのかは、このスキルがあったからだろう。
魔物はわたくしが投げる金貨が当たるとどんどん消し飛んでいくようだ。
「サスティナ様、いくらお金持ちだからって何を投げているんです?」
女忍エーメラルダ様が悲鳴をあげた。よほど金貨を投げたことにショックを受けたのだろうが、仕方がない。
魔物がどんどん押し寄せてくるのだから。わたくしは懐から次々と金貨を取り出すと周囲にばら撒くように投擲した。
無数の金貨がキラキラと宙を舞い。どんどん魔物が消えていく様は圧巻であった。
思わず。
「気持ちいい」
と呟いてしまったほど気持ち良かった。
ブックマーク。高評価。いいね。よろしくお願いします。