078 嘆きの壁、再び
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《女忍エーメラルダ嬢の視点》
「え? この人達をお連れして『嘆きの壁』に行くのですか?」
わたくしは突然の剣王アイリス様の提案につい驚きの声を上げてしまった。
「ええ。と言っても8階層程度までの予定ですし、何と言ってもこの辺で歯ごたえのある迷宮はあそこしかありませんし。
明日までに帰れるのはあそこしか思い当たりませんし。何よりもわたくしと公子様には馴染みのある迷宮ですから」
何でもないと言うように剣王アイリス様は仰った。でもそれはアイリス様と公子様だからなのではないだろうか?
「しかし、『嘆きの壁』ではイレギュラーな魔物も出ると噂ですが?」
「大丈夫。あそこの迷宮では時々ボス部屋から魔物が上階に上がってくることがあるの。それが過大評価となって『嘆き』なんて大層な名前で呼ばれているだけ。
公子様に散々連れ回されてその辺の事情はよく理解しているし。10階のボスも8階にまで上がってくることは無いと思うし、上がってきても所詮10階だし」
「所詮って。10階のボスってどんな魔物なの?」
「ええ。ミノタウロス。レベル260程度だわ」
「レベル260程度って。もう。公子様との修行が長くなると感覚がおかしくなるのは理解していたつもりだけど剣王アイリス様も大概ね。そんなのが出てきたらわたくしもこの人達を完全に守るのは不安があるわ」
「まぁまぁ。エーメラルダ様。そんな時は剣王アイリス様にお任せしていれば良いのだし。わたくしも一緒なのですしその程度なら何とかなると思います」
豪商サスティナ様がわたくしと剣王アイリス様の間に入ってとりなした。
まぁ、そうなのだが。それに聖女リリアージュ様もいらっしゃる。対人会話スキルはからっきしの聖女様だが彼女の魔法の腕は賢者様に匹敵するし杖術のレベルは4だとの噂だ。ミノタウロス程度なら聖女様一人でもなんとかなさるだろう。なによりも聖女様の癒しの魔法のあるのは心強い。
そしてもう一人だ。
「リザ様も多少は戦えるのですよね」
わたくしは魔女っ公女リージィー様を守ると言ってついてきたリザ様に尋ねた。
「はい。従者の皆さんには敵わないまでも『嘆きの壁』の十層のボスならわたくしでも何とかなるかと」
リザが答えた。
なるほどさすがに公子様が保護しただけの実力だ。それを聞いてわたくしは安心した。
「では『嘆きの壁』に向かいますか」
☆
《天の視点》
その頃、『嘆きの壁』の二十層のボスであるファイアードレイクが十層のボス部屋でミノタウロスを美味しそうに食べていたのだが、彼女達はそんなことを知るよしもなかった。
とは言え、このイレギュラーにしても剣王アイリス嬢がいればなんてこともないただのハプニングに過ぎない。
女忍エーメラルダ嬢、豪商サスティナ嬢、聖女リリー時の三人が共闘すれば容易く退治できる魔物に過ぎなかった。
何事も起こらなければである。
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