074 天才の仕掛けた罠
《駆け巡る情報。混迷を深めるリールセラート国の暗部。天の視点から》
「ディーガの王女を泳がせるって誰の発案だった?」
「ああ。五頭セクだ。自称五人分の頭とか頭脳集団とか言ってた癖に。逆にテンシラーオンに取り込まれやがって。馬鹿なのか?」
「しかしこの話は本当なのか? こんな重大な情報をよく手に入れたな。あまりにも綿密過ぎる作戦に背筋が凍ったぞ。こんな戦術を奴等は考えていたのか。ラッシート王国の叡智の結晶リューペンス伯か?」
「いえ閣下。テンシラーオン大公爵家の嫡男レリトニールの発案だと言うことです」
「は。こんな重厚で綿密な計画をたった一人で思い付ける訳がなかろう。どんな天才なんだ。その情報は偽物だ。それはレリトニールの箔付のためのいつもの宣伝だ。奴の話は何から何まで信じられない。そんな訳あるかってやつだ。きっと裏で糸を引いている策士集団がいるはずだ」
「たしかラッシート王国にエデンバーグ家ありと我ら暗部では有名な家系がありましたね。レリトニールにも娘を派遣しています。その辺が怪しいのでは?」
「ははは。それはエデンバーグ家だな。それに叡智の結晶リューペンス伯も関わっているのだろ。ふふふ。我国の諜報員も優秀じゃないか。これほど詳しく計画を掴んでくるとは。手厚く報いてやれ。予算を充分に渡してやるのだ。優秀な者はより優遇する。それが組織として結果的に一番効率的なのだ」
「はっ。直ちに。励みになるでしょう」
「にしても、これを事前に知れてよかったな」
「しかし、閣下。このような悪魔のような策謀にどのような手を打たれるのですか?」
「ん? ん? 手だ。手だよな。しかし有効な手は思いつかないな。どうするんだ? 誰か手を考えろ。各方面にこの計画を知らせて手を打たせろ。事前に知っていたら必ず打つ手があるはずだ!」
「閣下。ずっと手を見られておられますが?」
「もう我国はだめかもしれんな」




