062 はーーー(ため息です)
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《疾風ドリューの視点》
俺はアドリュート・テンペフェレッツ。
なんとも昨日は度肝を抜かれてばかりの一日だった。レリトニール公子様に振り回されて気分的に参ってしまった。
親父様に頼み込んで聖人様のお人柄を探らせてくれなんて言ったが、単に興味本位だっただけだ。
しかし、あの劇的な入門のことだけでなく実技試験での剣王との試合など、もはや噂如きなど信じるに値しないことは誰でも分かるだろう。しかもあの噂ですら人間? と疑うほどの噂だったのにそれを遥かに上回る実力などとは想像もしていなかった。
噂は尾ヒレが付いて話が大きくなりがちなので疑っていたが、本物は噂以上の化け物とか。考えたくもなかった。
あんな化け物に関わるなんて俺自身の軽率さに過去の俺を叱りつけてやりたい気分だ。しかしもはや遅いだろう。せいぜい嫌われぬように尻尾を振るしかないが、目立たないように気をつけないとダメだな。
「しかし、レリトニール公子様は、噂以上のお方だったが、あのリザとか言う魔法使い。おかしな奴だった」
「ええ。エデンバーグ学術尚書閣下の御息女ご当人が見張として付いており、さすがにわたくしでもあまりリザ嬢の部屋の近くで監視はできませんでした。
晩餐会の後、エデンバーグ学術尚書閣下の御息女と共に上階に連れて行かれておりました。
可笑しな格好をしており、エデンバーグの御息女も顔を顰めておりました。あのような破廉恥極まりない格好にほとほと驚きました。恐らくあの娘は貴族社会に馴染みがないような気がします」
「爺や。それはおかしい。ヤーフィルカート公家の使用人なのだろ。そんな常識は誰かに叩き込まれない訳がないぞ」
「そこです。恐らく精神系の魔法かと」
「ほう。それは珍しいな。なるほどレリトニール公子様は、その能力を取り込まれるおつもりか。あれは確か1メートルが射程だったか?」
「さすがお坊ちゃん」
「お坊ちゃんはやめろ。しかしレリトニール公子様も射程に入っておられたようだが?」
「ははは。公子様がリザ嬢に近付かれた後、何か変な話の流れになっておりましたな。わたくしもリザ嬢の常識外の言動には冷や汗をかきましたぞ。あのテンシラーオン家直参の化け物揃いの従者達がいつ爆発するか薄氷を踏む思いでした。
ヤーフィルカート公家の者達は黙っているし、あれほど肝の冷えた晩餐会は久しぶりでした。しかし、わたくしにはあの公子様を精神攻撃などしても少しも落とせるとは思えませんがリザ嬢は相当な自信がお有りだったのでしょうな」
「冷や汗とは本当に流れるのだな。ははは。しかし公子様はお酒を皆に注がれるなんて前代未聞のサービスをされるのであまりにもびっくりしたが、あれは態とリザ嬢に近いて行かれたのか。
それとも知らずリザ嬢は大きな尻尾を見せたわけだ」
何もかも本当に凄い方だと改めて思い返した。
あれは女性だったら美貌だけで戦争になりかねない美しさだ。年齢がお若いのがいけないんだよな。俺も変な趣味に目覚めてしまいそうでお顔はあまり見ないようにしようと思いながらもどうしてもジッと凝視してしまうんだ。あれはもはや魅了スキルって言ってもいいな。
晩餐会に出席していた皆が皆、同じように公子様だけを凝視するって不思議な光景だった。恐らくあのお方が存在する空間はいつもあんな具合なんだろう。
それを理解していないのは公子様だけ。ははは。不思議な異次元空間があったものだ。
あのやり手の親父様でさえレリトニール公子様と同じ寮に俺を捩り込むには相当な人脈と金を使ったと言っていた。
同じ寮に入る者は特に女性が優先されているようで、恐らくレリトニール公子様の妃を探すためだろうと親父様は言っていた。今回集まったメンバーを見て確かにと納得する面々だった。
ヤーフィルカート公爵家の魔女を始め大侯爵家やら左近衛中将家、中務尚書家、衛門長官などの法衣貴族の重鎮の身分の高い姫様達ばかりなのにあんな綺麗どころをよくも集めたもんだ。
世界中の美姫を一箇所に集めたとしか思えなかった。
しかも俺以外の男は槍のシュレディ辺境伯子息ときた。よくも俺を捩じ込んだもんだ。親父様の手腕が凄いのにも驚きだが、今回ばかりは選にハズレた方がありがたかったぞ。後悔しても後の祭りだ。
それよりだ。公子様と同じ寮に入れないなら今度は従者として潜入したいとは誰しもが思うわけだ。あの従者の面々も何とも言えなかったな。とんでもない美女か一癖も二癖もありそうな妖怪どもだった。
リザ嬢のお陰であまり目立たなくって俺同様、彼女に感謝している者もいそうだけどな。
「しかしあの美姫達も彼女達の従者達もたいがいだったな」
俺が感想を言うと我が家の執事殿も笑っていた。
「坊ちゃんも腹を据えなされませ。あの方のお眼鏡に叶えばそれだけで坊ちゃんも人々から一目を置かれるでしょう」
「何を言う。人々から一目を置かれる方がよっぽど簡単だろうに。本末転倒だろう。せっかくやかましい親父殿から離れてゆっくり学園生活を楽しむ予定だったのに、馬鹿な好奇心のせいで」
「あはは。好奇心は猫を殺すとか。この寮に入ったからにはゆっくりなど夢のまた夢になりそうですな」
その一言は確実に現実のものになるだろうと半分諦めつつ、ため息が漏れるのは許してくれ。
まずは本日の試験結果の発表だが、果たしてどんな発表になるのやら。
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