298 希望の星
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《エメルド中佐の視点》
我が憎き主人ショタージュ将軍はこの見知らぬ者達によって滅ぼされた。
しかしあの緑色の妖精は何だ?
ジャストエレメンタルなのか?
何が起こっているのだろう?
四天王とまで呼ばれたジャストフットの大貴族がこれほどあっさりと滅せられるものだろうか?
彼には何重にも『定理の強制』による保護がされているはずだ。恐らく最高神ダイハールが直接強制を働かせても不思議でない。それを破れるものはダイハールと同じレベル7の権能を持つ者しか不可能なはずだ。
そんな存在はアウターの最高神イアスかイネルバの最高神メロードスぐらいしかいないはずだ。
こうもあっさりとショタージュ将軍を滅するなど本来あり得ないはず。
しかし現実にそれが起こったのだ。ミスト家の令嬢サン様の態度を見ても起こった事実を見てもこの目の前の男が高位のレベル保持者であるのだろう。
しかしレベル9などあり得るのか? 何よりも全能の神と交信しているとの発言だ。
全能の神、創造神はあくまでも存在を渇望されているものの未だに存在を確認されていない存在なのだ。
そもそもレベルは7が最高なのではないかと古い昔から議論されているほどだ。
『定理の強制』には上位のレベルによって強制されたことは変更できないと言う制限がある。
この制限に左右されない者は最高位のレベルを所持する者だけだ。それを全能の神と呼んでいる訳だ。
恐らくその神はあらゆる神の中の最高神であり世界を創造した神であろうとのことから創造神とも呼ばれている。
しかしそのような神は確認されていないのだ。
アウターはジャストフットの支配領域とイネルバの支配領域を合わせたよりも広大な星域を支配する神々だが彼らもそんな存在を確認していないはずだ。
なぜならアウターにしろイネルバにしろそんな存在を確認したら戦うことが無意味になるので直ぐに停戦を申し込んでくるだろうと考えられるからだ。
「彼らが高いレベルを所持しているのは事実としてレベル9と言うのは本当なのですか?」
私がそう尋ねるとサン様は笑って答えた。
「嘘やハッタリである可能性は少ないわ。なぜなら光公子様は自分を大きく見せようなんて考えもしていないのは確実よ。
そんな方が嘘を言う理由が無いわね」
「そうなのですか?」
「そもそも貴方も将軍が消えたところもまさかのジャストエレメンタルになったのも見たでしょ」
「ああ。あれはやはり伝説のジャストエレメンタルなのですね?」
「そうよ。ノアがジャストエレメンタルになって現れた時はわたくしは腰を抜かしそうになったわよ」
「はぁ。ノア様もですか? サン様はどうして彼らと行動を共にしておられるのです?」
「わたくしはジャストフットに未来は無いと考えているわ。
近年イネルバとアウターの関係は改善されつつあるのよ。
なぜなら我々ジャストフットの支配地への扱いがあまりにも酷いことが彼らの知るところとなったようで、次第に我々を滅ぼすべき存在と考えるようになって来たと言う背景があるの。
それを知ってからわたくしは今にも彼らが共闘してくるのではないかと気が気ではなかったわ」
「しかしジャストフットが滅ぼされた後はイネルバも滅ぼされるのでないのですか?」
「イネルバはアウターに取り込まれ融和する未来を選ぶとわたくしは考えているわ。
アウターの統治が緩いと言われているのは、実際には彼らは支配するのではなく融和しお互いを高め合うことを望んでいるからだそうよ」
「そうなのですか?」
「これはわたくしがミスト家の家人として得た情報よ。
とても不確かで陳腐な情報だと分かっているけどね。様々な思惑により情報操作を経た到底信じるに能わない情報だくらいはわたくしも承知しているわ。
だからわたくしは直接イネルバと接触して事実を確認するつもりだったの。お父様の邪魔がなければこんなところにはいなかったわ」
なるほど。このサンと言う女性は自身をお花畑と卑下しているがそれだけの人では無いらしい。
「しかしサン様はこれからどうするおつもりですか?」
「わたくしはこの方達が今後どうされるのか見てみたいの。それよりもエメルド中佐はどうするの?
貴方はショタージュ将軍からの強制が解けたのでしょ?
わたくしは貴方がどうするのか干渉する気はありませんよ。好きにしたらいいわ」
さてどうする?
この人達に付いていくか? この不思議な人たちに付いて行ったら恐らく見たこともない世界を見ることができるのだろう。でも
「皆さんに付いていきたい気がとてもするのですが、困っている同胞がいるので」
「そう」
サン様は、それだけ言うと不思議な人たちと遥かに聳え立つ塔に向かって去って行った。
さて、エールの戦士達を集めて直ぐに故国に帰るか。
ジャストフット達は直ぐに蜂の巣を突いたような大騒ぎになるだろう。
四天王の一角がこんな辺境で落ちたのだ。しかも何が起こったのか正確なところは誰も知らないのだ。
この混乱に乗じて故国を取り戻すのだ。サン様から素晴らしい情報を頂けた。我々が頼るのは謎の多い存在だと思っていたアウターだったのだ。
「全艦隊緊急発進するぞ」
旗艦に搭乗するなり命令したら、副官が目を白黒させているのがおかしい。
「は? でも将軍は?」
「どこかに行ったよ」
「どこか?」
「ああ。希望の里かな、ふふふ」
「希望? 願望の?」
「ああ。御伽の世界に迷い込んだのかもな」
「しかし、将軍を放っておいて帰ったらタダでは済まないのでは?」
「誰がラオーズに帰ると言った? 全艦隊、我々の進路は我らの真の主星エールだ!」
「え? 定理の強制は?」
「馬鹿だな。私がこのような命令を出せているのた。既に強制は解消されているさ」
「は、はい。承知しました。エメルド王子いや。エメルド王。直ちに我々エメルド軍艦隊は我らの主星エメルドに帰還します」
副官が涙を流しながら叫んだ。
多くの自決を選んだ尊い先輩達の顔を思い浮かべ涙が自然と込み上げて来た。
私の命令を聞いていた乗組員全員の歓喜の叫びの中、エメルドの艦隊千数百が月を飛び立つ姿がスクリーンに大きく映し出されていた。
スクリーンの先には宇宙で最も美しいと言われた地球が大きく写し出されていた。
あれはただ美しいだけの星ではなかった。私には希望の星だったのだな。
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