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027ー2 小娘

前回と同じ内容を別の人の視点で見ています。

長くなり過ぎたので二話にしました。


もう一度、前話を読んで頂いてレリトニール公子様とリビエラ嬢が同じ言葉に違う反応を示しているところを楽しんで頂けると嬉しいです。

《女執事リビエラの視線》


 わたくしは、公子様が蹴破った大穴から慌てて飛び出して何が起こったのか理解した。


 公子様は、獣人の女の子を抱き上げていた。女の子はぐったりとして加減が悪そうだ。治癒して欲しいと頼まれたので直ぐに回復魔法をかけた。


 魔法の発動具合から女の子が重症だったことがわかった。あるいは危機一髪だったかもしれない。少し加減が戻った少女に対して公子様は普通に楽しく話している風を装いながら事情を聞き始めた。その様子を見ていてわたくしは、公子様がこんなに子供の扱いがお上手なんだと驚いてしまった。


 わたくしは、周りを見回して女の子の知り合いがいないか確認した。


 どうしてこんな緊急時に女の子の保護者は出てこないのだろうか? 周りを見ても事故を見物する人達が興味深そうにこちらを見ているだけだった。


 わたくしがそんなことを考えている間に公子様は、なにやかやと女の子と楽しそうに話しながら、女の子から事情を聞き取っていおられた。


 さすがに詳細は不明だが女の子は誰かに背中を激しく打たれその勢いで馬車に飛び込まされたようだとの説明を引き出されてしまわれた。


 わたくしは最初。どうしてこんな小汚い小娘などをあんなに無理して助けようとされたのか全く理解不能だった。


 それどころか思わず酔狂がすぎると説教をしたくなるのを我慢したくらいだ。


 馬車に突然飛び出してくる者は実は後を絶たない。いわゆる投身自殺だ。


 哀れに感じた貴族様がお金を出してくれるかもとか、そんな思考で飛び込む輩が意外なほど多いのだ。


 馬丁は、構わず轢き殺しそのまま通り過ぎる慣わしだ。掃除は街の自警団がする。


 もちろん金なんて一銭も払わない。もしそんなことをしたら亡者達が群衆となって貴族の馬車に身を投げ入れるようになり貴族達の物笑いの種なることだろう。


 お優しい公子様が温情を掛けられるのなら仕方がないなぁとか思っていたら、実は娘の説明からこの状況を察するにこれは先程公子様が仰っていたことが現実になったのではと、単なる偶然なのかもしや公子様は全てをお見通されておられたから、あのタイミングで華美過ぎると反感を買うと仰せだったのか。


 この方はわたくしの想像の遥か上を行かれる。神のような叡智をお持ちの公子様には凡人のわたくしなど想像もできないのだが、鳥肌が立って仕方がなかった。


「なるほど。背中を誰かに」


 公子様は、少女が話をしやすくするためだろう。とても優しい声で話される。ああ。あの声でわたくしにもお話くださったらいいのに。


「それで、ミーチャちゃんはここには一人で来たの?」


 そう。聞きたいのはそこよ。保護者出てこい!


「うん。一人だよ」


「偉いね。一人で来れるなんて。ミーチャちゃんのお父さんお母さんは?」


「うん。お母さんもお父さんもいないよ。でもねもう直ぐお母さんが迎えにきてくれるって。だから今日もお母さんが来ないか見に来たの」


 どう言う意味? 両親不在。母親が迎えにくる? この子は、どう言う境遇なの?


「お母さんはどこかで働いているの?」


「ううん。お母さんは、お空の上に行っちゃったんだよ」


 母親の死亡は確定ね。でも父親も不在ってこの子は孤児なの?


「そうか。お空の上のお母さんが来るのを探してたんだね。お母さんが来るってミーチャちゃんは誰から聞いたの?」


 公子様のこの言葉にわたくしは感心した。そうよ。黒幕は誰?


「うん。怖いおじさん達が大人の人には内緒だよって。でもお兄ちゃんは、まだ大人じゃ無いから言っても大丈夫でしょ」


 怖いおじさん来た! やはり黒幕がいるんだ。さすがですぅ。公子様。予測が的中です。何もかも見通されていたのですね。


 わたくしは興奮のあまり、失神しそうになった。


「そうだね。お兄ちゃんは、まだ子供と大人の真ん中だからね。大人への秘密でも話しても大丈夫だよ」


 公子様の言葉は、わたくしの心に突き刺さった。


 子供と大人の真ん中! それもらいました! 公子様。可愛い。子供と大人の真ん中だなんて!


「うん。分かった。怖いおじさん達は、顔は怖いけど親切なんだって。でも、リュキちゃんを虐めるからワタシ嫌い。リュキちゃん可愛いだよ。リュキちゃん。どうしてだか怖いおじさん達が来るといっぱい吠えるんだよ。おかしいね」


 リュキちゃん犬かよ!


「ミーチャちゃん。お父さんは?」


「ううん。お父さん知らないの」


 やはり孤児。


「そうか。ミーチャちゃんの服はとっても可愛いけど誰に着せて貰ったの?」


 へぇ、うまい話の切替方だわ。でも え? こんな汚い服が可愛い? まさか本気じゃ。


「メーラさん。お母さんのお友達なの。いつも怒ってるんだよ。でも優しんだよ。お母さんみたいなの」


 へ? メーラさん? この小娘には保護者がいるの? ただの孤児じゃないの? 下民のなんでも無い子供としか見えないのに。こんな娘の服を見るだけで公子様は、そこまでお見通しって訳? どうしてそんなことまで分かるの?


「そっか。いつも怒ってるのに優しいんだ。ミーチャちゃん。お兄ちゃんがミーチャちゃんをメーラさんのところまで送っていっても良いかな?」


 公子様の言葉にまたまたわたくしは驚いていた。


 へ? 公子様。それは少し酔狂が過ぎやしませんか?


 いくらなんでもそこまでこの子の面倒を見る必要があるのだろうか?


 どうしてこんな下民のしかも獣人なんかにまでそんな慈悲をおかけになるのか。なんて優しいのでしょう。


 わたくしは公子様のお優しいお心に陶酔してしまうのだった。


「うん。お兄ちゃんは、カッコいいからミーチャ。お兄ちゃんのお嫁さんになってあげてもいいんだよ」


 は? 今、この小娘はなにを?


 なにを言っているのかしら?


 わたくしの公子様に向かってその上目線。


 殺したろか。


「え? それは嬉しいな。でもお兄ちゃんのお父さんは、とても優しいんだけど怖いんだよ。そのお父さんがお嫁さんを決める時は相談しなさいって、とっても怖い顔で命令するんだよ。だから勝手に決められないんだ。ミーチャちゃんはお兄ちゃんのお嫁さんになるんだったら、お父さんに会ってくれる?」


 ふふふ。なんて優しい断り方を。でもお上手な言葉。公爵様を引き合いに出して遠回しにお断りになられるなんて。


 さすがに我が公子様。


 お前なんか、公子様はこれっぽっちも想ってなんかいないんだからね。


「うーん。会うのなしでお嫁さんはなれないかなぁ?」


 は?


 この小娘。ほんとに舐めてんじゃねぇ。


「ごめんね。お父さんは、とても優しいけど怖いんだ。無理かな」


 嗚呼。


 公子様。


 わたくしの公子様。


 そのお優しさをわたくしにもお向けください。


 こんな小娘になんてもったいないですぅ。


「うん。分かった。じゃあ、お友達になってあげる」


 く。


 なに?


 なになになに。


 この小娘だけは許せない。


「嬉しいな。じゃもうお友達だね」


 はぁ。


 なんて羨ましい。

 

 本当に、公子様は神様ですか? 


 いえ。きっと神様ですね。聖人様だし。


 あ。小娘を抱き上げた!


 そんな汚いものをお抱きになられたら汚れますよ。


 わたくしは、思わず叫びそうになるのを堪えた。


 見ると剣王や他の嫁候補ライバル達も羨ましそうに小娘を睨んでいる。


 あ、小娘。自慢げにわたくし達を見た!

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