003 とある転生者の視点
《とある転生者の視点》
モブ公子とか言われて、人々の歓呼を受けている少年を見て、私は唖然とした。
「モブって、庶民ってことよ!」
私は、お隣さんのペーターの耳元に囁いた。
「は? 公子様が庶民なんて職業になるわけないだろ。あの方はテンシラーオン公爵様の跡取り様だぞ。どんだけ凄い貢物をお供えすると思ってたんだ」
その通りなのだ。職天祭で最も重要なのは何を奉納するかだと言うのが一般的な説だ。
神様も、奉納される品物が気に入ったら良い職業をくださるのはそりゃまぁ当然だよね。事実、どんな天職をくださるかは何を奉納しているかに比例しているようだ。
だから貴族は、そのまま貴族的な職業を得、庶民はショボい職業になってしまうのは当たり前の事だ。もちろん慈悲深い女神様などがそのような利己的な動機で差別するなどと言うあるまじき現実について教会は公式な見解を出しているわけではないがペーターのような平民の男の子ですら知っていることだ。
それどころか最重要の職業になるにはどのような貢物を供えると良いかについては、今では確立した学問となっているそうで、王侯貴族様はそれは大変な貢物を奉納すると言うのが常識だった。
現に単なる街の飯屋の娘でしかない私も『街娘』って職業でしかない。
これって、上級職になっても『街の女』や『女将』なんて職業にしかなれなさそうだ。『田舎者』や『農民』よりも少しはマシだけど。転生者に厳しい社会なのだと私は悟ったのだった。
「でもモブって、エキストラって意味なんだよ」
私はペーターに一生懸命説明した。
「エキストラって格好いい響きだね。さすが公子様」
ペーターが目をキラキラさせて呟きながらパレードの中心人物である公子様を見ていた。
こりゃダメだと思い、私はこの話題を二度とする事はなかった。
しかしあの超、超、チョー超絶イケメンの公子様ってモブになってもあんなに嬉しそうに私達に手を振っているのって、絶対に転生者じゃ無いわよね。
なんだか羨ましい。人は生まれながらに差別されて生まれてくるのね。
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