285 え? だって仕方無いじゃん
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《レリトニール公子視点》
トーナメントの準決勝のカードは以下の通りだ。
第一試合
トール様vsアイリス嬢
第二試合
ユーリプス様vs女媧様
第三試合
八十禍津日神様vs黄帝様
第四試合
アスラ様vsロキ様
第一試合はアイリス嬢と北欧神話で最も強いことで有名な神、トール様との試合となった。
アイリス嬢は俺とエカテリーナ嬢が共同で鍛え直した聖剣グランファードを使っている。彼女ほどグランファードが似合う人はいない。
ちなみに、俺はその後エカテリーナ嬢と共同でたくさんの武具を打ち周りの人達の愛用の武具になっていたりする。
今の俺の愛用の剣は神剣ペリクリーンとエカテリーナに名付けられた剣だ。
ラッシート王国に伝わってきた聖剣グランファードは古ヒューマンの勇者の為に天津神の芸術と技の巧の神ライディー様が鍛えた物に俺とエカテリーナが改良を加えたものだ。
俺たちの改良を芸術の技の巧の神ライディー様に見せたら大変感激しグランファードを更に彼独自の改良を加えてくれてグランファードは本当の意味で完成された聖剣となったらしい。
鍛治技術は単に能力の高さだけでなく長年の経験が物を言うのだと教えて頂いた。奥が深い。
さて試合の方だが、トール様はミョルニルを大上段に構え、アイリス嬢はグランファードを正眼に構えた。
剣の構えには上段、中眼、下段の他八双の構えと脇構えの五つの構えがあり、これを五行の構えと称する。
アイリス嬢はそのどれもない剣を眉間から狙うように突き出した構えを取った。いつの頃からか彼女が多用するようになった構えだ。
思うにアイリス嬢の剣の振り方には独特の個性がある。一つは俺の剣道の影響の濃い戦いを模倣したための個性と彼女の身体的特性に合わせて最も合理的になった構えなのだろう。
一言でカッケー。
俺はアイリス嬢の美しさと強さが不思議なカッコ良さに変化した構えに見惚れていた。
その構えから繰り出されるのは変化に富んだあらゆる角度からの斬撃だ。
彼女の斬撃はあまりにも早く強力なので後の先を取るのは至難である。後の先とは『ごのせん』と読み、相手の攻撃が放たれた後に相手よりも先に攻撃を当てることを言う。カウンター攻撃やうまく相手の攻撃をいなすことを指す。
勘の鋭いアイリス嬢の剣技は先の先を見切る剣だと俺は思う。つまり相手の攻撃の呼吸を読み取り攻撃する直前の一瞬を狙う極意中の極意技だ。
なぜなら攻撃の直前には予備動作がある。彼女の狙っているのは予備動作を取ろうとする直前の一瞬の隙を突く攻撃だ。
一方のトール様が振るう武器は神器ミョルニルだが、平ったく言うと金槌だ。破壊力の権化であるが初期動作が遅いのがこの武器の特性でもある。
この戦いは速度重視のアイリス嬢が有利だろうか。
試合開始の合図が鳴ると同時にアイリス嬢は攻撃していた。
剣の軌道は斜め左上段から右に振り切るような少しイレギュラーな斬撃だった。
振り下ろされる前のトール様の右腕の手首とトール様の首の両方を狙った斬撃だった。
ところが戦上手のトール様らしい手首を返した見事な受け技によりアイリス嬢の剣撃は弾き返されるかに見えた。
そこからアイリス嬢の剣は見事に後の先を取るものに変化した。剣先の軌道は円軌道に変化して今度はトール様の胴を直撃した。
こんな複雑な攻撃にミョルニルは向いていない。
ところがアイリス嬢の攻撃は浅くトール様はさすがに神様の中でも特に強いと称される神様だった。アイリス嬢の斬撃を弾き返したのだ。鎧を着ている訳でも無いのに凄いの一言だ。
両者思わずたたらを踏んで左右に分かれた。
見事な両者の戦いぶりに見学していた神々から拍手が起こった。
拍手が終わるより前にアイリス嬢は攻撃を繰り出していた。しかも攻撃速度がかなり上がっていた。
トール様はアイリス嬢の攻撃に何もできず、アイリス嬢の攻撃が一撃目と全く同じ胴を直撃すると、今度はトール様は見事なまでに吹き飛んでいた。
こうしてアイリス嬢は準決勝に駒を進めた。振り返って見るとアイリス嬢の圧勝だった。素晴らしい。
☆
第二試合のユーリプス様と女媧様の戦いは、女媧様の勝利だった。第三試合の八十禍津日神様と黄帝様の戦いは黄帝様が勝利され、第四試合とアスラ様とロキ様の戦いは大方の予想に反してアスラ様が勝たれた。
黄帝様、女媧様の二人が残ったのはレリトニール公子達の最初の予想通りだった。アスラ様が勝たれたのは皆の予想を大きく覆していた。
準決勝はくじにより
黄帝様vsアスラ様
女媧様vsアイリス嬢
に決まった。
☆
「アスラ様。強いよね」
「だって、光公子様がめちゃくちゃ鍛えてましたよ?」
アイリス嬢が言った。
「え? 別に鍛えてないよ」
「は? でもアスラ様だけずっと光公子様とご一緒に修行をされてきましたが?」
「え? そうだっけ?」
「あれは意図的にされていた訳じゃないのですか?」
アイリス嬢がなんか非難的な視線を向けてきた。
「だってグループ分けをアスラ様に任せていたからね」
「ええ? そうだったんですか?」
リビエラ嬢の視線が痛い。なぜ自分にさせないの? と言う事だろう。しかし神様のことは神様が一番知っているはずだし。
俺の神様の友達なんてアルテミス様とアスラ様しかいないし、アルテミス様とは二人きりなるのはなんだか怖いし?
仕方ないじゃん。
(レリトニール公子の嫁候補達も、従者達も別のグループのリーダーとして国津神や天津神達の修行をしていた。
レリトニール公子のグループでずっと修行していたのは結果的にアスラだけだったのだ。アスラの強さの理由はそこにあるようだ)
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