277 しでかした? 光公子様だからね
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《天帝の視点》
天界との通信で天界セレスを降臨させると聞き、わたしは慌てて外に飛び出て空を見上げた。
天界セレスが火だるまのようになって空を埋め尽くす様にわたしは絶句した。
それはまさに世界の終わりが訪れたかのような恐ろしい光景だった。
本当に大丈夫なのだろうか?
下級神毘舍遮に何が起こったのか尋ねたら、わたしが天界と通信している間に様々なことがあったらしい。
そして極め付けが妖精王の予言とそれを裏付けるような天界セレスの今目の前で起こっていること、あまりの大異変に下級神毘舍遮は震えて今にも消え入りそうな様子だ。
予言は救世主がセレスに乗って降臨すると言うものだったらしい。どうやら妖精族が伝承してきたもので神々に協力するようにと結ばれていた簡単な物だったと言う。
しかし協力を促された諸神からは無視され戦いがその後も続いていた矢先にセレスが降下してきた。相当なインパクトを神々に与えたようだ。
神々の乱戦はどうなっているのだろうかと視線を眼下に向けて見ると、さすがに諸神も戦いを止めてセレスの様子を伺っている様がここからでも見える。
守将達不在の須弥山は総攻撃を受けたらひとたまりもない。四神からもインダスのシヴァ神からもわたしは外に出るなと言われていた。
なぜならわたしが外に出れば神々の格好の標的になるからだ。今のようにてんでバラバラに戦ってくれていればそれほど脅威でないが彼らが一丸となって攻撃したら須弥山はひとたまりもない、そのきっかけにならないよう隠れていろと言う訳だ。
彼らの意見も最もであると思ったので宮殿内に止まっていたのである。
「天帝よ」
背後から声に振り返ると舅殿のアスラと妃のシャチーの二人だった。
「おかげで娘とゆっくり話し合えた。わたしの誤解が多かったことを改めて理解した。すまなかった」
アスラが頭を下げて謝罪した。荒神であるとシャチーから聞いていたアスラから受ける印象は、想像とは全然違うもので匂い立つような気品と気圧されるような威厳が感じられた。
「貴方は正二位と聞いていたが、正直その程度の神とはとても思えませんね」
わたしはアスラの風格に打たれながら言った。
「これは光公子様と修行をしたからですよ。神格が上がったのだと思います」
「なんと、貴方のような古参の方が神格が上がるなど聞いたこともありませんが」
「光公子様の修行は特別です。天津神様の成長システムを光公子様独自に改良されたとても効率よく成長できるようにしたもののようです。
既に新しい神代の時代が始まっているのですよ」
アスラが笑いながらいった。
「それはそれは。ではわたしもまだ成長できるのでしょうか」
「恐らく。しかし光公子様の修行は想像できないくらいに大変ですよ」
アスラはどこか遠い所を見るような目をしながら呟くように言った。
どんな修行なのかアスラの言うとおり全く想像もできないが相当に苛烈なものであることだけは分かった。
「ところでセレスが近付いてきているようですね。光公子様がまたまたしでかされたようですな」
アスラが火だるまようになって空を埋め尽くすほどになったセラスを見ながら言った。
「しでかす?」
「そう。光公子様の従者の方々のよく使われる言葉をそのまま使ったのだが、なかなかうまい表現だと思います。
光公子様は常に予想を超えた行動を為されるそうだ。
ガイア様を取り込んだのも、またあゝして天界セラスを降臨させているのも。光公子様が何かをしでかされたと言う訳だ。
しかし、それらしでかされた事全ては実は非常に深い計算の元に行われているのだそうだ。なぜなら一見奇想天外にみえる彼のしでかしは必ず最高の結果を齎すからだそうだ。
それはまるで全てを予測しているかのように、あるいは全てが光公子様の思惑に従わせられているかのように。予定調和と言っても良いのであろうな」
アスラはそう説明すると天界を見上げてからからからと笑った。
アスラが語る光公子様のお人柄は大神御神に相応しいお力を持たれた方だと思われた。
天界に行かれてまだ数時間程度のはずだ。そんな短時間であゝして天界を降臨させている。
凄まじい実行力と言わざるを得ないだろう。
須弥山に集まった世界中の強力か国津神達が、今まさに天界セレスの降臨するところに居合わせた。あの光景を目の当たりにしても未だに逆らう馬鹿は完全に無くならないだろうがそれは限られたものになるだろう。
何もかも計算づくと言われるとその方が納得がいく結果と言うものだ。
わたしは空を埋め尽くすほどの大きさになったセレスを見ながら大きなため息を吐いていた。なぜならセレスは先程までの燃え盛る姿から巨大なバラの花のような美しい外見に変わっていたからだ。
セレスはどうやら減速していたようで次第に穏やかな雰囲気になり、アスラの説明もあり、ようやくわたしは安心してセレスを見られるようになった。
それから暫くしてセレスは止まったようだ。
セレスが余りにも巨大で今では視界の限りの空を埋め尽くしていた。もはや夜空であるべき空はセレスに変わり、セレスから灯される柔らかな光により須弥山は未だに夕暮れ時のような明るさだった。
間も無くしてセレスの先端から何かが出てきた。その様子を見てセレスが相当近くまで来たとはいえ、まだまだ遠いのだと分かった。遠すぎてセレスから出てきたのが何なのか分からなかった。
セレスからはどんどん何かが出てきて大きな集団を形成し始めた。それが綺麗に整列したとき、ようやくそれが天界に飛ばされた天兵達だと分かった。
更に幾ばくかの時間が経過し、天兵達が降りてくると、その先頭に天津神達の集団がいるのが見えた。
更に数分して一番先頭に光公子様達がいらっしゃるのが見えた。
ようやく彼らの全貌が見えた。
光公子様御一行と数千の天津神の集団。そして数万の天兵軍だった。
この時、どこかの馬鹿が先頭の光公子様に向けて雷槍を投じた。
光公子様はされを軽く受けて、投げ返された。投げ返された雷槍は明らかに威力を増しており、投げた者に直撃していた。
投げたのはオリュンポスの主神であるゼウスのようだ。光公子様の返礼の直撃を受けて真っ黒になっている。
さすがに主神クラスのゼウスが死んだとは思えないが相当なダメージを受けただろう。
光公子様の反撃に対抗しようと、ゼウスの回りにいたオリュンポスの他の11神がそれぞれの武器を構えて反撃しようと身構えたようだが、彼らは攻撃することができず凍りつくように動きを止めていた。
なぜなら光公子様が先程投じられた雷槍の何十倍もの大きさの雷槍を構えていらっしゃったからだ。
白旗を振ってたくさんの攻撃を当てられた経験からか、今度は対応を変えられたのだろう。
光公子様の横に添うように飛んでいる女性、確かリビエラ様だったか、彼女が何やら指示しているようにも見える。
光公子様は、手に持たれた巨大雷槍と同じものを無数に出現させるとそれを身の回りに侍らせたまま降りて来られたのだった。
攻撃してきたら打ち込むぞって意味だと誰にでも分かる。あんな魔法を使うのは主神ゼリューシュ様でも無理だろう。
古のガイア様でも無理だったのでと思う。
その威嚇は力を信奉する国津神達には効果的だった。その後誰も光公子様に攻撃をする神はいなかった。
わたしはその一部始終を見るために大口を開けて空を見上げていたのだろう。
「天帝様。お口が疲れますわ」
妃のシャチーがわたしの顎に手を触れて注意してくれた。
「わたしは彼らに合流するぞ、天帝とシャチーも一緒に来るが良い」
アスラ様が既に空に浮き上がりながら言った。
「承知した。シャチーも一緒に行こう」
わたしは妃のシャチーの手を取ると空に浮き上がった。
わたしの護衛達には申し訳ないことをした。振り向くと相当慌てて付いて来ていた。すまぬ。
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