251 神々の思い
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《天の視点》
禍津神とは、今風に言えば超災害の神と言う意味だ。また日の神とは自然神の中では最高神の意味を持つ。
すなわち大禍津日神とは邪神の最高神と言う意味である。
四神の呼び掛けに答えた国津神の中でも極めて強い神の一人として主神ゼリューシュに報告されていた邪神だ。正一位の神位を持ち自然界のありとあらゆる災害や混沌を司る神である。
その姿は四神の全員を合わせたよりも大きいほどだった。大禍津日神は座しているだけで不気味なブーーンと言う唸るような不気味な音が聞こえた。よく観察するとその音は大禍津日神が全身を震わせているために起こった音だと分かる。
大禍津日神は、常に全てに対して怒っており身を振るわせているために起きる音だった。
また、八十禍津日神は八十八の代表的な凶星の神の事である。
そして大禍津日神と八十禍津日神は八百万の災害の神々の全てを全ているのだ。
同様に強い神として報告に上がっていた伏犧、女媧、農神は7神と同格の神々で、三皇と呼ばれるガイアと同じほどに古い特別な神々だった。
身体の大きさは八十禍津日神たち全てを合わせたほどに大きい。
もちろん身体の大きさなどは彼等のような実在と虚空の間に存在する異次元の存在にとっては意味など存在しない。
大きく存在したいなら大きく逆なら小さくなるだけであり、空間すら作り出す存在達だ。
元々、彼らが集まる空間は、国ほどもある大森林とは言え、山よりも大きな四神全てを合わせたよりも大きな神々が楽々存在し得るほどの広さなどあるはずもない。
三皇がいかに大きいかは本来の大きさと言うよりも神々の持つ力を象徴しているに過ぎないのだ。
三皇は7神とは違い、天津神とは距離を置いたために歴史の中に埋没してしまった神々であるが実際の力は7神を凌駕するものだ。
一方、アトゥムを筆頭とするヘリオポリス九柱神もまた非常に古い神々であり、力のある神々であった。オリュンポス神、ギリシャ神、ローマ神などのメジャーな神々と同等の神話体系を有するほどの力ある神々であった。
巨大な山脈のように四神を取り囲み国津神全てを見渡していた。
最後にクトゥルフはガイアを含むあらゆる国津神よりもずっと古くから存在し歴史に埋没して行った別系統の神々の全てを統べる存在である。
もっともクトゥルフは、恐怖の象徴であって、救いとか愛とかそう言った存在からは程遠い異形の存在でありヒューマンには理解し難い存在である。
形も在り方も考え方も異形そのものだ。高位の神々ですらその存在の確かな外形を捉える事もママならぬ存在であった。
赤龍・白虎・朱雀・玄武の四神を前にして、正一位の神々は、高い位置に座し、己が大きさを誇示して他の国津神達に身分の高さをあからさまにしていたのとは対象的に、クトゥルフ神は、かれらの下座の影の中に身を潜ませて闇の中で蠢いていた。その様子は知恵の存在を一欠片も感じさせないおぞましい下等生物のようにしか見えなかった。
「それで? 四神たちよ。呼び掛けをしたソナタらには計画があるのであろう?」
尋ねたのは大禍津日神であった。
「大太柱禍津日の大御神様にかしこみ申す。我ら国津神は古より今に至りて依代の身をみすぼらしく、寒々(さむざむ)なからしめ。悲しき様にて、いと忌みじゅうなり」
(国津神の最重要の神様であらせられる禍津日神様。我らの昨今の姿はみすぼらしい惨めな姿となってしまった)
四神の一人、玄武が話始めたが、ここでその言葉は別の神に遮られたのである。
「玄武殿。堅苦しい喋り方は不要に。伝統より効率を重んじた天津神の方が所詮は優れていたのだ。ここで旧来の話し方に固執しても惨めなだけではないか?」
自嘲気味に指摘したのはヘリオポリス九柱神の主神アトゥム神だった。
玄武は不服そうに顔を顰めたが、神格の上位者からの申し出なので黙って受け入れた。
「アトゥム大御神の仰せのままに。では改めて。我らの惨めな昨今の様子はなんとも嘆かわしい限りです。
ガイア様が幼体化され全ての約定が白紙になった今、天津神が受けた全ての権益を我らが取り戻す絶好の機会なのです」
「ガイア様の大御心が消えたゆえ、幼体になられたのだろうとは妾も感じた。してガイア様は今はどのようにされておるのだ?
馬鹿な神モドキがガイア様を害し奉らんとも限らぬしな」
三皇の一人女媧が呟くように言った。女媧は巨大な蛇のような姿だ。
目は赤く大きな口から出る言葉は金属が溶けるほど熱を持っていた。
「すでに九尾の狐がやってしもうたらしい」
四神の一人である白虎が苦々しく答えた。
「何を? 幼体のガイア様を弑し奉るなど、どれほど恐ろしいことか。
クトゥルフ殿。それがどれほど恐ろしいことかあなた様から説明してくださらんかのう?」
三皇の伏犧が驚いたうに言った。伏犧もまた大蛇である。女媧よりも一回り大きい。彼の口から吐き出される言葉は氷よりも冷たい。
暗がりで蠢いていたクトゥルフが不思議なエコーの掛かったような声で答えた。
「シ、シン、新参の、、カ、カミ、神々よ、、、ワ、ワレウ、、
くとぅ、くとぅる、ふは、い、、、、いぅ、、、ぶ、ぎゅ、、」
クトゥルフの言葉はモゴモゴと異音に変わり何を言っているか分からなくなった。
「ふむ。古き神よ。ワシから説明しておこう」
クトゥルフの言葉を遮ったのは三皇の一人、農神だ。見た目は優しげなヒューマンの老人のようでもある。
しかし巨大なその姿は荒ぶる巨牛に座しており、力ある神であることを周囲に示していた。
「クトゥルフ殿は、我らガイア様の同胞とは別系統の系譜を持つ古き神々で、新しい秩序を作れずに衰亡してしまった神だ。
新しい神々は普通、古き神々を滅ぼすにしろ取り込むにしろ古き神を滅ぼすものだ。
クトゥルフ殿は彼等の前の創造の神を食い破ったが呪いを受けて古きも新しきも共々に衰亡してしまった悲しき時代の神々なのだ。
古き神々を食い破れば新たな主神となれるとの迷信の真実の姿がそこにある。弱き存在が古き神々の主を取り込むことに失敗すれば悲惨なことになるのだ」
三皇農神か滔々(とうとう)と述べた。
「ふむ。なればガイア様が再生されようとしているとは我ら国津神が滅びようとしていると言うことなのですか?」
四神の一人、朱雀が尋ねた。
「良きかな。良きかな。朱雀よ。その方は再生の神。不死鳥として皆の希望となりたいのであろうな。
しかし、幼生となられたガイア様は今はまだ滅びるのか新たな主神の糧になるのか決めかねておられるはず。それ故に我らはこうして存在し得るのだ。
しかし、朱雀よ。いやここに集った八百万の神々よ。そもそも、ガイア様を害するにせよ取り込むにしろガイア様と比肩しうる神格を持つ神でなくば無理なことだ。
それはクトゥルフ殿を見れば分かるであろう。しかしガイア様が幼体となられたのは新しい神がお生まれになられたのか、あるいはガイア様が再生されて新たな神話を紡ぐおつもりなのか。
ワシにも分からぬな」
農神はしみじみと述べた。
「どちらにせ。ガイア様の幼生体を糧にして大神になろうする馬鹿はどこにでもいるはず。直ちに保護して差し上げるがよかろう」
女媧が農神の言葉を受けて言った。
彼女の目は、巨大な神々を前に小さくなって震えていた九尾の狐を睨み付けていた。
「したが、そこの小僧を手玉に取ったと言う者が気になるの。その者がガイア様に害をなそうとするやもしれぬ。どちらにせよガイア様を保護し奉るべし」
大禍津日神が周りを見回して言った。
四神の一人、青竜が
「え? 天津神との戦いは?」
と呟いたが誰も聞いていなかった。
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