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244 呑気な主神と慈母神の願い

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《天の視点》



「お父様。国津神の皆さんが何やらやっていますよ」


 女神アルテミスは日頃のレリトニール公子の監視(覗きとも言う)により、国津神に不穏な動きがあることに気付いたので父である主神ゼリューシュに報告したのだった。


 しかし主神ゼリューシュは呑気なものであった。


「仕方ないな。あの小僧レリトニール大地神モーフを甦らせてしまったからな。色んな意味で騒がしくなるんだろう」


 主神ゼリューシュはそう言うだけで何もする様子も無かった。


「しかし、わたくしたちを追い落とそうなどと気炎を吐く国津神もたくさん出ているようですよ」


 たまたま天主宮に来ていた12神の1柱である水神サーシャは仲の良いアルテミス神に地上の様子を見せられて(レリトニールの自慢話を聞かされて)いたため少し心配になっていたのだ。


「サーシャよソナタまで。土地神どもなど気にする必要もあるまいに。なんなら須弥山(しゅみせん)の帝釈天ら7神に遣いを出して四神ら土地神達を排除させれてやろう。

 国津神の中でも主神クラスの神に動きがあるなら知らせてくれや」


 主神ゼリューシュは、危機感ゼロの雰囲気で面倒くさそうに水神サーシャに答えていた。


「主神ゼリューシュ様。是非そのようにお願いします。土地神もたくさん集まるとなんだか怖いです」


 主神ゼリューシュの妻であり副神とも言うべき母神セレンも呑気な主神ゼリューシュの態度に不安を覚えていた。彼女もアルテミスから地上の騒動を見せられていたのだ。


「うん。そうか仕方ねぇな。じゃあ7神に使いを出しておくよ」


 主神ゼリューシュが面倒くさいげに答えた。


 しかしその主神ゼリューシュの言葉を聞いたアルテミス神が今度は慌てて二人の間に割って入った。


「ですが、何があってもレリトニールちゃんには手を出さないでくださいましよ」


 自分の忠告で天界側の防御態勢が整うのは良いのだが国津神ともし戦争になった場合、現在進行形で国津神と接触をしているレリトニール公子の状況はいかにも危ういと彼女には思えたのだ。


「あゝ。そんな危ない真似はさせないよ。誰が好き好んで爆弾の上で火踊りなんて踊る愚か者などいまい」


 主神ゼリューシュが肩を竦めて見せた。


 あまりにも強くなってしまったレリトニールに対しては主神ゼリューシュはもはや手がつけられないと諦めており、今では完全に放置することにしていた。


「本当ですよ。レリトニールちゃんには、わたくしから国津神に味方するようなことはしないようにお願いしておきますから」


「そんな恐ろしいことにならないように、アルテミスからうまく取りなしておくれ」


 母神セレンが想像するのも恐ろしいとばかりに娘の手を取って言った。


「大丈夫ですわお母様。レリトニールちゃんは決してわたくしたちを嫌ったりしておりませんから」


 レリトニール公子のストーカーであるアルテミス神はレリトニール公子の気持ちが手に取るように分かるつもりだ。


 だが不安材料もある。何しろ何の罪もないレリトニールをモブ職に貶めて実質的に虐めていたのは主神ゼリューシュなのだから。


 もしそれでレリトニール公子が怒り国津神のリーダーになって天界を攻めてくるようなことがあっては悪夢でしかない。


「本当にお願いします。そもそもレリトニール公子に変な職業を授けなければこんなこと心配する必要もなかったのです」


 女達の不安が頂点に達しようとしており、その原因が自分にあると敏感に感じ取ったゼリューシュは話題を慌てて変えた。


「争うばかりで地上を荒廃させるしかできなかった奴らが今になって不満とはな。そもそも天界も自分達の物だったのを見向きもしなかったのは自分たちのくせに。

 今になって返せって言われてもな。ガイアからの正式な譲渡だから聞く必要はねぇよ」


 主神ゼリューシュが意図的に変えたその話題を聞いた副神のセレンは彼女の熱心な信者からの誓願を叶えてもらえるいい機会だと考えた。


 そこで本来ならレリトニールと言う危険分子を創造してしまった主神ゼリューシュの失態をさらに追求するところ、彼女はゼリューシュの話にそのまま乗っかることにした。


「そうですわね。天界は譲って頂いたものですからね。そう言えば地上界の精霊達が生きる場所を年々ヒューマンに奪われ困っていると。

 妖精王からもそれらの者達の救済を訴えられていました」


 副神セレンの言葉を聞いた主神ゼリューシュは自分のことは棚に上げて次から次へと面倒ごとが起きるとばかりに顔を顰めた。


「元々、ヒューマンを滅ぼそうとしていた者達が立場が逆転したってだけだぜ。今更って感じるがな」


 主神の言葉には一定の理屈がある。自業自得だろ? ってことだ。しかし、セレンは悲しそうにして


「でもここは譲って頂いた場所ですし、ほんの少しだけで良いので妖精王の誓願を叶えて上げて欲しいのです」


 主神ゼリューシュはダメだこりゃみたいな顔で頷いた。


「我が妻セレンよ今度は弱きあやかしや妖精達の救済かね」


 主神ゼリューシュは諦めたように言った。遥かな昔滅びつつあったヒューマンに哀れみを持ち救済を願ったのは慈母神セレンだった。その我儘を聞き入れてレベル制やスキルなどのシステムを導入したのが主神ゼリューシュである。その願いは叶い今では弱かったヒューマンも強くなったのだ。


 逆くに(あやかし)達国津神や妖精など古きもの達が土地を奪われて滅びに瀕しているのだ。


 これは皮肉なことに今回の国津神の反乱の別の原因でもある。


 物事は複雑に絡み合い原因は結果を生み出し更なる原因となる。こうして物事の原因と結果を俯瞰(ふかん)して見た時に争いもまた輪廻のようにぐるぐる回っていることに気付かされる。


 慈母神の慈悲が新たなる悲劇を生む原因となったことを知った慈母神はそれでも慈悲を向けずにいられない。皮肉なものだが、それが慈母神の業でもあるのだろう。


「地上で生きる場所が無いなら生きる場所を授けてやってくださいませ」


 副神であり慈母神のセレンが深々と頭を下げて頼んだ。


「お主は相変わらず優しいな。しかし無条件に救済するわけにもいかんぞ」


 それがこの世界のルールだと主神ゼリューシュは釘をさした。自分の意固地さによりレリトニールと言うイレギュラーを創造しているあたり偉そうなことを言えない主神なのだが、そのような避難めいたことは慈母神セレンはおくびにも示さずに


「承知しております。可能な限りで良いのです」


 それだけ言って副神セレンはもう一度頭を下げて頼み込んだ。


 ここまでされると主神ゼリューシュは彼女の願いを聞き入れるしかないし、逆に何があっても聞いてあげたくなるのだった。それがこの夫婦神の在り方でもある。


「なんの価値もない物に哀れみを感じるのはお主の美点だな。しかしほどほどにするのだぞ」


 ため息をついて主神ゼリューシュは偉そうに言った。偉そうに言うのは癖みたいなものだが、慈悲の女神の優しい心根に常々癒されているのを感謝しているゼリューシュでもあった。


 主神の妻であり副神の地位を持つ母神セレンは嬉しそうに「はい」と返事をしていた。


 意固地な男神と優しい慈母神では慈母神の方がずっと大人なのは明らかであり、こうして天界は回っているのだった。母の恵みにより生命が育まれるのは世の摂理だった。


 こうして天界では女性達が呑気な主神のお尻を叩いて国津神に対処することと決まったのだった。





 やる気のない主神ゼリューシュの命で須弥山(しゅみせん)に使いが送られたのは間も無くのことだった。


 主神がやる気が無くとも主神の命令に対して忠実な天帝は、事態の重要性を大いに感じて慌てて他の六神に遣いを送って国津神に対抗するための作戦を発動させていた。


 要請を受けた7神の一人黒帝は最も早く北方より直属の黒帝軍を率いて馳せ参じた。


 続いて黄帝は朋友の暴風の神蚩尤(しゆう)を伴い黄帝軍を率い、更に赤帝は炎帝、紅帝らを伴い炎の軍団を率いて参戦した。


 白帝軍、青帝および蒼帝、地帝軍も順次参戦したのであった。


 こうして瞬くうちに、全ての七神の各天兵軍が天界の玄関口である忉利天(とうりてん)善見城(ぜんけんじょう)に集合し、鉄壁の構えを構築していたのはさすがと言えよう。


 主神が腑抜けていても優秀な部下達のお陰で迎撃態勢は一定の基準に達したのであった。

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