243 恥を知れ
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《剣聖天アイリスの視点》
ああ。本当に光公子様は面倒事を引きつける天才ね。
アスラ大神に引き続きラクシュミー大御神様とサラスバティー大御神様のお二人を引き込んでしまったらしい。お二人はなんと従一位の大御神なのだそうだ。
アスラ大神よりも位が高い神様なのに、あまり知られていないのは、天帝とずっと戦っていたアスラ大神が特殊なだけ?
とにかく南方の大きな国の辺りでは一番上位の神様であるシヴァ様と言う大御神様の奥方様達なのだそうだ。
しかし、リビエラ嬢によるとお二人とも移り気な女神様なのだそうだ。妖艶で移り気な女神。あゝ頭が痛い。
光公子様がリリーアージュ様から何か耳打ちされていた時、わたくしもリビエラ嬢から光公子様がはっちゃけ無いよう監視するだけでなく、お二人の女神様の誘惑からもお守りするようにと耳打ちされていた。
お母様が仰ってらしたけど男はいつまでも子供みたいに振る舞おうとするので目が離せなせないそうだ。
お母様のお言葉は光公子様にあまりにもぴったりと当てはまるので本当にため息しかでない。あの厳ついお父様が子供みたいに振る舞う姿なんて想像もできないのだがお母様の言葉だからそうなのだろう。
男と言うものは娘には格好を付けたがるものらしいから。
紅色のドレスに身を包んだ派手なラクシュミー様と白いドレスに身を包んだ品のあるサラスバティー様のお二人は、賢聖天リビエラ様の懸念に違わぬ妖艶で恐ろしいまでに美しい女神様達でした。さすがに女神様だとため息しかでなかった。
しかも女神様が引き連れてこられた眷属の女性方も一人の例外無く皆さん美女揃いでらした。
聞けば全員が神階と品格をお持ちの由緒正しい女神様達なのだそうだ。
さすがにメジャーな神様はいらっしゃらないそうだが実力は王級程度はあるのが普通の神様達なのだから侮ってはならないと肝に銘じた。
光公子様をこんなにもたくさんの美女軍団からお守りするなんて目眩がしそう。
光公子様はとんでも無い美形男子だがまだ男の子ぽさが残ってる。なにしろ女性に比べると男の子は成長は遅い。
二つ年上のわたくしと光公子様との僅かなこの年齢差が実際の年齢差よりも大きく感じられるのが今のわたくしの心に突き刺さる悩みどころなのだが、今回限りは光公子様のその辺の成長の遅さがわたくしの頼みの綱でもある。
どうか光公子様。いつもの鈍感少年でいてくださいまし。わたくしは心から祈らずにはいられなかった。
「あら。なんて可愛いらしい男の子なんでしょう。それに肩に乗せているのはガイア様ですわね。白いのです? まぁ、なんて愛らしい」
紅色のラクシュミー様は叫びながらいきなり光公子様に抱きつこうとされた。
なんとも積極的なお方だ。
わたくしは決死の覚悟でお二人の間に割って入った。
「は? 小娘お退きなさいな」
身も凍るような冷たい声がわたくしを打った。
「大御神ラクシュミー様。うちの光公子様にお触れになるのはご遠慮くださいませ」
わたくしはそれだけ言って深々と頭を下げてみせた。でもうちのと言うのは自分のみたいで下品でした。
ざわざわ。
ラクシュミー様の眷属だけで無くサラスバティー様の眷属の皆さんまでもざわつき始めた。
わたくしの取った行動に対してであることは間違いない。
ラクシュミー様から立ち上がる怒りの波動がわたくしの身を包むのを肌で感じながらそれでも頭を下げて光公子様の前から退かなかった。
その異様な雰囲気を破ってくださったのはアスラ大神様だった。
「ラクシュミー様。一つお断りしておくがそこの男の子は可愛いらしいだけのとても実力なんてなさそうに見える、あなた好みの男の子にしか見えないでしょうけど、わたしよりも遥かに強いのですよ。その娘に手を出したらわたしと同じように恥をかきますよ。
あなたに何かあったらさすがにシヴァ様に申し開きが立ちませんからね。ちゃんと忠告はしましたよ」
ニコニコ顔でアスラ大神様が助け船を出してくださった。
一触即発の気まずい雰囲気だったこの場所に今度は驚きの波動が広がって行った。
「アスラ様よりも遥かに強いだなんて。ふふふ。そんなにこの子を持ち上げてどうされるお積もりなのです」
妖艶で美しい女神様の雰囲気だったラクシュミー様が一変に変わり巨大な大山のような威厳に満ちた雰囲気になってアスラ大神様を睨みつけた。
「ラクシュミー様。わたしは朱雀青龍白虎玄武の四神が天界のゼリューシュやセイラー達を追い落とす計画を立てているって言うので覗きにたら、こんなに面白いお方がおられたので面白半分に揶揄おうとしたら散々な目にあったのですよ。
わたし一人が恥をかくのは嫌でしたのであなたを引き込んだ訳ですが。しかしなんか嫌な予感がするのです。その娘には絶対に手を出さない事をお勧めしますよ」
「アシュラ。生意気な奴め。わたくしに忠告など。こんな小娘に何ほどの脅威がある。ましてや小娘の後で隠れているこんなみすぼらしい男に何を躊躇う?」
あ、わたくしは耳を疑った。女神様からこんな言葉が吐き出されるなんて。
主を辱められれば臣死す。
既に死んでいるわたくしの命などどうとでもなれば良い。
光公子様にみすぼらしいなんて言葉を吐く輩がいたらたとえ神だろうと、全力で抜刀するだけだ。
目の前の神よりもずっと格下の九尾の大狐にすら全く敵わなかった心眼を極限まで研ぎ澄まし、わたくしの放てる早速最強の居合い抜きを放った。
全身全霊をかけて放った斬撃は、予想どおりラクシュミー様には掠りもせず確実な死を齎す手刀がわたくしの頭を直撃するのを静かに目を閉じて待った。
しかし、手刀はわたくしの頭に落ちることは無かった。
そっと目を開くと光公子様がラクシュミーの手を握っていた。
ラクシュミー様は不思議そうな顔をして取られたご自身の手を見ておられた。
「主人を辱められれば臣下は死す。それゆえに彼女はあなたに頭を捧げた。それを理解もせず、手を下ろす愚か者め。
恥を知れ!」
光公子様が静かにそう仰られた。
ラクシュミー様が反論されるかと思ったら、彼女の顔は恐怖で真っ青になっていた。
ラクシュミー様の視線を辿り光公子様のお顔を拝見してわたくしは心底驚愕した。
わたくしは生まれて初めて光公子様が本気でお怒りになられた姿を見た。
その凄まじい怒気に獣王国の宮殿が悲鳴をあげるように震えているように感じた。
そして放たれる威圧に世界が震えているように感じた。
光公子様の凄まじい怒気に勢ぞろいしていた女神様の一団が意識を刈り取られその場に倒れた。
残るのはラクシュミー、サラスバティーそしてアシュラ大神の3柱のみとなった。
必死に防御態勢を取っていたアシュラ大神はギリギリ堪えることができたが、女神達は光公子様の威圧に圧倒されてその場に膝を付いていた。
「妾の失言であった。許してほしい」
ラクシュミーが許しを請うた。光公子様は、あっと我に帰りラクシュミーの手を離した。
光公子様は、やっちゃったみたいな顔になり頭を掻いている。
光公子様の本気の怒りが治まると全てが元に戻っていた。
「アシュラ大神。冗談が過ぎるぞ。このようなお方だと最初から説明してくおくれ」
蒼白になって、サラスバティー様がアスラ大神をなじった。
「いやぁ、いきなり抱きつく?」
アスラ大神も少しホッとしたのか笑いながら言った。
「彼女達には、可哀想な事をしてしまった」
アスラ大神は、そそくさと倒れている女神達のところに行き、女神達を介抱し始めた。
わたくしも慌てて女神様達に駆け寄ったが、既に光公子様が女神様に治癒魔法をかけて回られていた。
光公子様。そんなに悪いことをしたみたいな顔をされないでください。
わたくしは本当にあなた様の臣下となった事に誇りを感じました。同じことが起こればわたくしは同じことをします。
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