239 百鬼夜行
ブックマーク。高評価。いいね。よろしくお願いします。
《レリトニール公子視点》
俺たちの仲間内の話が終わるのを黙って見ていた獣王レギオール陛下が、そろそろ良いだろうと、玉座から立ち上がると俺の方にやって来た。
「光公子様。この度は本当に感謝に堪えませぬ。ありがとうございました」
レギオール国王陛下は、深々と頭を下げて礼を言った。
2メートルを軽く超える体格なので礼をしても遥かに俺よりも背が高い。
まだ、成長期なんだよ。俺は。うん。
「余が関わっていなかったこととは言え、まだお若い公子様達を危険な目に合わせてしまい、皆さんにも、ラッシート王国やテンシラーオン大公爵様などの皆様にも本当に申し訳なく思っております」
レギオール獣王陛下は、今年五十歳になったと聞いている。。拳聖天のレオン王子からはとても厳しい人だと聞いていた。たくさんのお子様がいらっしゃると言う元気なお方で獣王と言う称号を持つ伝説的な強者でもある。
しかし実際に会うととても温厚で思慮深さを感じさせる賢王だと思った。
そんな彼からすると俺達全員、まだほんの子供にしか見えないのだろう。
そんな俺達だけが危険な目にあったと聞いて申し訳なく思っているようだった。
レギオール獣王陛下は、礼を言った後、俺達の知らない情報を説明してくれた。
レギオール獣王によると、禁断の森に数十名もの獣人が入り込んでいたらしい。調べるとセミーツ王国に住んでいたと思われる獣人ではないかと言う。
「その人たちは?」
俺の質問にレギオールは鎮痛な表情になった。その表情を見ただけでその人達の全てが可哀想なことになったのが分かった。
俺は、レギオール陛下に分かったと頷いてみせ説明するのを省いてもらったら。言うのも聞くのも辛い話だからだ。
「禁断の森に入ると祟られるのです?」
俺が話を変えるために尋ねるとレギオール獣王は、頷いてから説明してくれた。
「古くから盟約があると口伝させています。
口伝は簡単なものです。
『森に入るなかれ。盟約はどんな理由があっても守らねばならない。さもなければ恐ろしい祟りに見舞われる。』
それが口伝です。それゆえ、意図的に森に入る者など記録の残る限り一人もいなかったのですが。
記録では歳はもいかぬ女の子と他国からやって来た商人の二人が森に入ったとの記録があります。これも誰でも知っている半分伝説的な話ですが。
恐らくこの二人は道に迷って禁断の森に入り込んだのだろうと推測されています。そしてこれらの者はみな骸となって森の近くで発見されています。
その後、その発見された場所の近くの村々では洪水や火災など明らかに天罰や祟りと思われる天災に見舞われたと言われています。
今回は結構な大人数で、しかもこれはセミーツ王国の陰謀であると思われますが、このような出来事は前代未聞だし、こんな大胆不敵な行為をすれば祟りも盛大なものとなったのは仕方がなかったのでしょう。
セミーツ王国の大洪水や我が国の火災の規模から考えて古き者達は、獣王国とセミーツ王国の二国を滅ぼそうとしたのだと思います。
幸い光公子様たちがいてくれたおかげで我が国とセミーツ王国は滅びず済むことがてきたのです。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
レギオール獣王陛下はそう言うと再び頭を下げて礼を言ったのだった。
レギオール獣王陛下の話を聞いて納得した。セミーツ王国が裏で糸を引いていたのか。なんか神様の禁断の地への罠はラッシート王国の国境付近でも同じようなことがあった。
戦争になると本当にいい大人が前後を見失ってめちゃくちゃな惨事を引き起こすのは前世の世界でも良くあった。
前世日本では、第二次世界大戦の末期において一億人全てで戦うなんて現代日本に生きていた俺たちには想像もできない作戦を立てたりしていた。それは当時の日本がめちゃくちゃだったのではない。アメリカでも全兵力の半数(75万人)近い戦士で日本上陸作戦を考えていた。作戦名はオリンピック作戦と言う今では想像もできないネーミングセンスだ。
この時代は何千万人もが戦争で死ぬのが不思議ではなかった時代だが、トルーマンなどは参戦するために絶対に妥協できないような内容の文書を日本に送って攻撃させて世論を参戦に向けさせるなんてむちゃくちゃなことをしている。
日本からの宣戦布告の電文は、アメリカの意図的な遅延工作により大使館に着くのが遅れ、更に運の悪かったことにアメリカの日本大使館では、歓送会で誰もいなかったと言う不運が重なり宣戦布告の無い形(国際法では宣戦布告などは戦争の要件ではない)での不意打ちが行われ、日本は卑怯者とされてしまった。
陰謀と言ってもいいのかもしれない。
もっともどんなに理由があっても宣戦布告できなかった日本が卑怯者と罵られるのは仕方ないだろう。
俺は歴史に詳しい訳ではないが、その話を聞いた時は憤りを覚えたものだ。
自国が襲われると言うのに電文を遅らせたと言うのは真実かどうかは不明だが、もしそんなことがあったのならその為に亡くなった方はよほど無念だったのではないかと思う。
戦争ふっかけるような人達は、もうどこか考えがぶっ飛んでる人達なんだと思う。国のため、未来の人達のため、とかなんとか壮大な理由をつけて数えきれない人達の犠牲を強いているのだ。
神様を罠に利用すると言う発想を持つ者達もそんな人達と同じように感じる。この世界は前世と違い本当に神様が存在し、奇跡を色々起こしたりしているのに無茶をする人はどこにでもいる。
侵入した者に災いをもたらす古き者達。モーフは彼等を国津神と呼んでいた。
神々や天災が相手では普通の人達にはどうすることもできなかっただろう。
俺がそんなことを考えていた時だった。
なんか不思議な音楽がどこかから響いてくるのが分かった。
俺たちは何だろうと顔を見回した。
「国王陛下、謁見の途中ですがまた天災などの異変が起こっているのかもしれません。
外の様子を見に行ってもよろしいですか?」
俺が尋ねると、国王陛下はうむと頷いてから自ら先導するように宮殿の外に進み始めた。
俺たちも獣王と一緒に外に出て空を見上げると、見たことも無い外国の煌びやかな服に身を包んだ不思議な生き物達が空を群を作って飛んで行くところだった。総勢数百人もいるだろうか?
見た感じは鴉天狗のようだ。
「うむ。あれは正四位八咫烏権現とその眷属達だろう。
あれは国渡りと言われている儀式をしておるようじゃ。奴等は元々はここよりずっと東の国にすむ国津神じゃ。
あれほどの神格の国津神が棲家を変えるのは国津神達の中で何かが起こっているようじゃし」
モーフが解説してくれた。
見ると音楽は、眷属達が様々な楽器を手に持ち奏でながら大空に響かせているようだ。
宮殿の外には大勢の獣人の官吏達が空を見上げながら何やら言っていた。
そんな中、今度は別の音が背後から響きてきたのだった。
「ん? あれは鬼神族じゃな。従四位酒呑童子権現、正五位茨城童子式神後ろのは羅刹や牛鬼など六位の妖達じゃ。あとは位も持たぬ眷属達だろうな」
モーフの話を聞きながら俺は、百鬼夜行って言葉を思い出していた。
今はまだ空は明るいから夜行と言うのは変だが、鴉天狗や鬼達が鐘やらラッパやらを鳴り響かせて空を進む姿が百鬼夜行と言う言葉を想起させたのだ。
鬼達は、カラス達と合流すると競い合うように音を響かせて西に向けて進んで行く。
彼等の向かう方向は禁断の森のようだ。
この二つの集団がずっと遠くに飛んで行くとまた、東の方からまた別の派手な音が響いてきた。
今度は音だけでなく閃光と雷鳴のようだ。大空が割れるような雷鳴に思わず首を縮こませ耳を押さえたくなる。
「う。あれは従三位雷明神、同じく従三位風明神の二神じゃし。
これは大狐どころの話ではなくなってきたのじゃし。三位以上は、本物の神様じゃからな」
モーフが俺の背中に隠れるようにして説明してくれた。
確か三番目の神格の神様が明神だったはず。九尾の大狐ですら手こずったのだ。風神雷神なんてのが攻めて来たら太刀打ちできないのではないだろうか。
「ん? あれは、、、」
モーフが絶句した。
「モーフどうしたの?」
モーフの視線を追うと一人で空を飛ぶ姿が見えた。効果音などの無い地味な見た目だが、俺にもその者が高い実力者だと分かった。
「正二位アスラ大神。なんとビッグネームじゃし」
モーフ、ビッグネームとか言っちゃってる。俺の影響?
それはともかく。アスラ王か。阿修羅王と漢字で書かれることもある邪神だ。
身の丈は五百由旬(計算すると6750キロになる)、棲家は深海の底の深いところと言われている。
6750キロもの大きさの者が海底に住める訳がないのであり、これは修羅の心の様を比喩したものと言われている。
身長が大きいのはそれだけ尊大でありプライドの塊となっていると言う意味だし、海底深くに住むとは心が深く閉ざされていると言う意味だったりする。
阿修羅王は、自分の娘を天帝に奪われたため、娘をとり戻すために永劫の時を戦い続けると言う背景を持つ亜神だ。しかし皮肉なことに当の娘は、天帝ととても仲が良く幸せに暮らしていたりするのだ。
あれ? あまり気にしたことはなかったが、なぜ前世の世界の神様がこちらの世界に実在するのだろう?
これは何かあるに違いない。
もしかしたら俺の前世の阿修羅王の記憶はこっちの世界の実在する阿修羅王にも当てはまるのだろうか?
あれ? 阿修羅王、どんどん近づいてない?
ブックマーク。高評価。いいね。よろしくお願いします。




