234 これはダメだ
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《天の視点》
オオカミの降らせた雨は、次第に雨量を増していき、湿った重たい風も強さをどんどん増していった。
雨雲はどんどん広がっていき、暑く黒々とした暗雲に変わっていった。あたかも夜のように陽光を遮り災いの先触れとしては上々の出来だ。
オオカミは満足して地上の汚泥を洗い流すかのように降り注ぐ豪雨を眺めていた。
やがて豪雨は、集まり大きな流れとなって全てを飲み込んでゆくだろう。
☆
《レリトニール公子視点》
あちゃー。これは天災だな。
めちゃくちゃ降っている。ごうごうって比喩じゃないよ。凄い音だ。
こりゃあ、急がなきゃ!
俺は急いで川を探を探した。恐らく最初に洪水が起こるのは大河の近くだろう。
あ、あったあった。
地面の低そうなところに盛り土を作って避難所を作るぞ。
そこそこの山になったか、これで大丈夫だろう。
よしよし、山に人々が避難してくるよ。よかったよかった。
どんどん山をつくるぞ!
俺は、そんな感じで各所に向けて素早く飛びながら、低そうなところに次々に地属性魔法を掛けて、小さな山をたくさん作った。
そうこうしているうちにもどんどんどんどん洪水が起こり水嵩が増していく。
逃げ遅れている人もできるだけ助けた。
よし! どんどん助けるぞ!
☆
《天の視点》
豪雨、雷鳴、人々の悲鳴。様々な音が唸るように響いていた。
オオカミは満足して天災の様子を眺め回していた。
その時、身が凍るような威圧感を背後に感じた。何か恐ろしい者が現れたと悟った。恐る恐る振り返ったオオカミは、しかし安堵のため息を吐いた。
「兄者。どうしてこんなところへ?」
「ああ。ガイアが幼体になって彷徨っているって聞いてな。どうやらこの辺に来ているって気配で掴んだんだが、来てみりゃお前達の乱痴気騒ぎに、せっかく掴んだ気配を邪魔されたって訳だ」
オオカミは、自分の兄の話を聞いて目を見開いて驚いた。
「え? ガイア様が? ではこんな騒ぎをしていてはガイア様の怒りに触れるのでは?」
「まぁ、そうだろうな。お前など忽ち消されるだろう。だが俺に任せておけ。ガイアはまだ幼体だから良い糧になってもらうぜ」
「いやいや。兄者。相手はガイア様だぞ。顕現されたガイア様が幼体だとしても御本尊様は大地そのもの、ガイア様の怒りを買ってはフェンリルの兄者でもタダでは済まぬだろう。
しかも幼体なのだとしたら庇護者もおられるのではないか?」
「ああ。強き神々は再生される時に幼体になられる。恐らくお前の言うように庇護者が現れたからこそ幼体となられて顕現されたのだろう。
しかしな神狼よ。強き神々の再生されるその時こそが我らにとっての好機なのだよ。食うか食われるか。
それがこの世界の真理だ!
あとは俺に任せておけ神狼よ」
「ああ。兄者の命令には逆らえないが、大丈夫なのか?」
「任せておけ」
巨大な狼、フェンリルはそう言うと更なる雨と風を呼び寄せた。
☆
《レリトニール公子視点》
先程から急に雨足が強くなった。もはや息をするのも苦しく感じるよ。これはダメだ。
これでは、山に逃げた人も助からない。
周りを見ると酷い状況だ。
泣き叫ぶ人。
溺れる女の子。
なんなんだ。
俺は必死で人々を助け続けた。
家の屋根に登っている人を見つけるとどんどん転移でそれらの山に飛ばしていった。
溺れている人はまとめて転移。時には洪水そのものを海に転移で海まで飛ばしたりした。
でも、これってもし大事な物とか誰かを水と一緒に転移してしまったらなんて考えるとちょっと躊躇っちゃう。
こんなことをしていて一体何人の人を助けることができるだろう?
どれくらいの人が犠牲になるの?
これではダメだ。
そうこうしているうちにも豪雨の勢いがどんどん増してきた。本当にバケツをひっくり返すような感じで降り始めた。
これまでにも数えきれない人々を救ったけど、しかしこれでは手がつけられない。
俺は無力感を感じながら、古い神には申し訳ないが直接やめてもらえるように説得するしかないと覚悟を決めた。
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