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232 じゃし、じゃし

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《天の視点》


 異変は、空の色の変化から起こった。


 オオカミは、自身の力を表す時には何がしかの前触れのような現象を示すべきだと考えていた。


 妖狐が聞けば笑い飛ばすだろう。彼女なら何の躊躇いもなく炎熱魔法で何もかもを燃やし尽くしただろう。


 あるいは、地面を大きく揺すって地上の小さき者達の棲家を根絶やしにするのかも知れない。


 しかしオオカミは、大きな変化をもたらすには準備が必要だと考える古きこだわりを持っていた。


 故に魔法の行使においてもできるだけ自然に歪みを生じさせず、水が流れに従って流れるかの様な魔法を行使してきた。


 そんなやり方するから余計に分かりにくいんだよと妖狐に言われそうだが。


 オオカミは、海から流れてくる湿った空気を呼び込んで空いっぱいに水の妖精達が満ちるのを待ってから妖精達に雨を降らせるよう命じた。


 空に漂う湿気は次第に厚い雨雲に成長し、重たい湿った風が次第に強くなって行った。


 何事においても最初がある。セミーツ王国では、歴史上未だかつて無かったかのような雨が降るのだが、最初の雨の一滴は普段の雨と何ら変わらない小さな雨粒だった。




《賢聖天リビエラストの視点》



「えらく不穏な予感のする雨雲だね」


 レリトニール光公子様が突然空を見上げながら言った。


 わたくしもレリトニール光公子様の見上げる方向の空を望み見たが何も見えなかった。


「光公子様。雲など見えませんが?」


 それを聞いたレリトニール光公子様は、眉を顰めてから首を振った。


 彼の肩の上にはモーフ様が座って寝てらしたが、レリトニール光公子の急な仕草に驚いたのかふわりと空中に浮き上がった。何とも可愛らしい姿でモフモフしたくなる。


 モーフ様が光公子様の周りをゆっくり周りながらわたくしと同じように空の様子を伺っているようだ。


「大聖天様。あれは土地の神、神狼の仕業じゃな」


 モーフが丸っこい大きな眼を瞬きながら言った。


「神狼?」


「うむ。本人は大きな神と言う意味でオオカミなどと自称しているが、それほど大した奴では無かったはずじゃし」


「そうなの。モーフって物知りだよね」


「もちろんなのじゃし。ワシは古き神じゃからな。地上の神や精霊の事はワシに聞くのじゃし」


「ありがとう助かるよ。でもあの雲はとても不吉な感じがするよね?」


「うむ。あれは天罰の類じゃ。あの雲の下の誰かが土地神を怒らせたのかも知れないな。じゃし」


「ふふ。じゃしって言いたいだね。口調はおじいさんみたいだけどモーフが言うと可愛いね。

 土地の神様は怒ると土地の人々に悪さをすんだ」


「そうじゃな。でも理由もなく神は天罰を下さんのじゃ。悪いのは土地の者かもしれん。じゃし。もし、邪魔をすれば大聖天様に祟りをもたらそうとするんじゃし」


「でもあんなに広範囲に魔法を使ったらたくさんの人の命に関わるよ。そんなにたくさんの人の命に関わるような悪さって何なの?」


「ふーむ。大聖天様は、もしたくさんの人達が理由はともかく襲って来たらどうする? じゃし?」


「うーん。よく分からないけど逃げる?」


「そうなのじゃし? なるほど。不思議な考え方じゃしなぁ〜。普通は返り討ちにするのじゃし。そこは天津神も国津神もおんなじはずじゃし」


「そうなの? 不思議かなぁ〜? 普通逃げるよ? だってたくさんの人達を返り討ちするのなんて嫌じゃない。

 どうしてもって時だけ嫌々返り討ち? にするってので良いんじゃない?」


「まぁそうじゃな。光公子様の仰る事は分かるが。

 古の者達は古くは弱きヒューマン達と共存して来たのじゃ。弱きヒューマン達を助けて自然の猛威から救ってもきたのじゃ。

 これもずっと昔のことじゃが、ある日、この世界に天津神が現れた。彼らは弱きヒューマン達を憐れんで恩恵や魔法のスキルを授けたのじゃな。そのおかげで弱きヒューマン達は一人立ちができるようになった。その時は古き者達は安心もし嬉しくもあった。

 しかし、皮肉なことなのだが、弱かったはずのヒューマンは古き者達の棲家を奪い勢力を広げて行くことになったのじゃ。

 この西の果ての大森林はそうやって追いやられて逃げて来た古き者達が住まう場所なのじゃ。

 ある日、古き者達は天津神に訴えた。元々この土地は天津神の物でも弱きヒューマン達の物でも無く古き神々の物じゃった。このままでは棲家が無くなるとな。

 天津神もさすがに憐れんでこの大森林は古き者達の棲家と認めてくれたのじゃ。後からのこのこやって来た天津神に決められるのは何だか癪じゃがの。

 とは言え国津神と天津神は和合したのじゃ。その約束故に森に手を出したら祟られるのじゃ。約束があるから天津神の恩恵も庇護もないのじゃ。じゃし。じゃし」


「ふふふ。モーフ。最後にじゃしじゃし言ってるよ」


 レリトニール光公子様は笑いながらそう仰った。しかしモーフ様の話は考えさせられる話だった。


 光公子様も冗談めかして笑って聞いていたが目は笑っていないご様子。


 わたくしは、モーフ様に尋ねることにした。


「モーフ様。あなた様もその国津神様でいらっしゃるのですよね」


 わたくしの問いにモーフ様は、可愛い顔を傾けて考えてらした。その仕草が可愛らし過ぎる。


「そうじゃな。本来はこの大地はワシそのものだったが。ワシは国津神と言えるのか?

 大聖天様は剣神ユーリプスとも違うように感じるゆえに天津神と言うのでもないだろうし。

 よく分からないな。

 あ、じゃし。じゃし」


 おどけてじゃしじゃしと仰るモーフ様は何だか光公子様と似てきている気がした。

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