023 賢者リビエラの考察
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《レルトニール公子の従者リビエラの視点》
わたくしは、リビエラスト・リューペンス。わたくしは、叡智の結晶と呼ばれる我が父に恥じぬ知謀の持ち主と皆から讃えられている。そして天職は『賢者』だった。
『賢者』は魔法職の最高峰と言われるレア職である。頭脳系のステータスに大きな補正がかるとも言われおり最も欲しかった天職だ。
父も喜んで、わたくしを時期当主にすると仰ってくれたほどだ。
でもわたくしには憧れの方がいらっしゃる。わたくしはその方の伴侶になることが子供の頃からの夢だ。なのでわたくしは、その方のおそば近くでお仕えしたいと父にお願いした。
しかもできれば主の仕事の補佐的な仕事をしたいとわがままを言った。
父上は、せっかくの『賢者』なのだし法衣貴族を目指してはと勧めてくださっが、官僚などで国に勤めるなんて。わたくしの目指すのは憧れの人の側で仕事をすることだった。
我が家リューペンス伯爵家は、その知謀を買われて公爵家の筆頭の寄子になったのだ。
神々に愛されしテンシラーオンと人々は言う。
現テンシラーオン公爵様も、先代様も。先先代様も。代々のテンシラーオン公爵家の皆様は、ハッキリ言って異常だ。
現テンシラーオン公爵様は、獅子公と呼ばれる。獅子とは百獣の王であり、獅子を冠する異名は、本来国王以外につけぬ慣わしである。
ところがそんなことを無視して獅子の異名を冠せられるのはその余りにも大きな偉業のゆえだ。
王国歴2215年。魔界との異名を持つ巨大な魔物の領域である『暗き魔物の森』より魔物が溢れ出した。
世に言う『地獄の大禍』である。ダンジョンで発生するスタンピードとは比較にならない最凶の魔物によるスタンピードだった。
如何なるダンジョンとも比較にならないほどに危険な『暗き魔物の森』の何万匹ものSランク以上の魔物が溢れ出したのだ。終末戦争の勃発だったとも語られる。
この時、各国は禁じ手とされる勇者召喚の儀式を行い異界から勇者を召喚して対処しようとした。後に世界勇者連合と称される異世界から召喚された勇者達を集めて対魔物軍が作られ、各国の参加要請があり、初代国王が異世界転生者であり異世界召喚を禁止された我が国ラッシート王国は、勇者ではなく由緒あるテンシラーオン公爵家の御曹司サインシースを派遣したのである。
当初、世界の勇者達から痛い目で見られていたサインシース・テンシラーオン公爵だが、実際には最も活躍したのが彼であった。
その偉業は、10年を経た今でも人々に語り継がれている。
時代の変革期において、テンシラーオン家は、重大な役割を果たし続けてきた。そんな現テンシラーオン公爵の偉業にひけを取らない実績を代々のテンシラーオン公爵家の人達はあげ続けてきたのである。
それほどテンシラーオン公爵家の人達は、皆優秀であると言うことだ。それゆえにテンシラーオン公爵家は、神々に愛されていると称されるのだ。
我が家は、そこに目を付け、テンシラーオン公爵家の寄子となったわけだ。
そして、目の前のレリトニール公子様の異常さもまた格別である。
容姿の優れているのはもちろんなこと、幼少より頭脳優秀であり、何よりも努力家である。天職もないのに様々なスキルを取得し、しかもそうして得たスキルのレベルまで上げてしまったと言う本物の万能の天才だ。
頭脳面が得意なわたくしだが、その頭脳面ですらレリトニール公子様に比べれば赤子のようなものだ。
わたくしが憧れ、父上に無理を言って様々な画策を行い、今の地位を得た。もちろん、父上のことだ、わたくしの企みなどたなごころを指すがごとく周知していらしただろうことは確かだが。
それほど、憧れのレリトニール公子様は、正直申し上げて外見だけで好きになった。公子様をはじめて見たのは公子様がまだ三つの幼子の時だ。
あまりの可愛らしさにわたくしの心は一瞬で奪われた。
その後、会うたびにこのまま幼子のままでいて欲しいと心から願い、神に祈りを捧げた。しかしその願いは裏切られた。しかし、裏切られた結果、少しずつ成長されるたびにレリトニール公子様は、わたくしの想像を遥かに超えて素敵になって行かれた。
いつしかわたくしの憧れは、崇拝になっていた。もちろん、わたくしのくだらない心根など少しでも公子様に悟られるや否や、二度とお目通りが叶わなくなるほどに引かれる事は必至。絶対の秘密である。
そんな公子様だが、なんと聞いたこともない天職を得られ、英雄認定されてしまった。しかも新しい『世の理』であるサブ職業のシステムを解明され発表された。神々からもその偉業に対して、聖人の称号を得られた。
それだけでない。わたくしの最大のライバルである剣王アイリスと修行をされて彼女の報告では、剣王を上回る実力を発揮されていると言う。彼女の欲目がかなりあるとしても凄いことだ。
さらに、今の話を聞いていても公子様の知謀は、計り知れない。
わたくしは、愚民どものつまらぬ不満など貴族の権威を高らかに示すことで容易に払拭できると心から信じていた。
そんなわたくしは、レリトニール公子様がご転居される機会に、公子様が如何に立派な方であるかを示す丁度良い機会であると捉え、一際豪華にしたわけだが、これは浅知恵であったのだ。
レリトニール公子様は、公爵家の一人息子とは言え学園に入学する前の未成年の少年である。
その未成年のレリトニール公子様がこれほどの私財と人員を伴われて転居するの様を以て、レリトニール公子様の偉大さを演出しようとしたのだ。
それに対して公子様は、派手にするなと仰せだ。
わたくしは、それを我々従者の負担を思ってのお優しい心遣いだと解した。
そして、それは正解であるはずだ。
しかし、それだけでは無かったのだ。公子様の思慮は、更なる深みにあったのである。
公子様の仰った言葉から推察するに、愚民共は余りにも惨めで不幸なため、何をしても不満が溜まる。そんな彼等に対して公子様の権威を示すために行なった今回の行幸だが、これにはデメリットが多くあったのだ。
レリトニール公子様は、それをわたくしに教えてくださったのだ。
時と場合と効果を考えて演出しろ。それが公子様の仰りたいことだ。
今にもスタンピードを起こしそうな『嘆きの壁』踏破、更には最も危険なダンジョン『暗き魔物の森』までも踏破し、国家の悩みの種の両危険ダンジョンの魔物の間引きを見事に完遂してみせた功績は、獅子公様の偉業にも匹敵するであろう。
そんなレリトニール公子様がたかが二百輌余りの馬車を動かされても領民は、感動しても悪様に思う者はほとんどいないことはわたくしにもレリトニール公子様にも自明のこと。しかし、この程度のセレモニーならやらぬ方がマシだとレリトニール公子様は、仰った訳だ。計り知れない知謀を前にして、自分の不明が恥ずかしいばかりだ。己が馬鹿さ加減にめまいがすると同時に自分の仕える主人の想像を絶する賢明さに陶酔するのであった。
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次回は12時にアップ予定です。