227 古き神々の呟き
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《レリニートル公子視点》
「光公子様。お願いがあります」
獣王国の王子レオン拳聖天がそう言って来た。
「レオン殿下。どうしたの?」
俺が尋ねると
「我がディートラ獣王国に危機が迫っているのです」
鎮痛な面持ちでレオンが言った。
「え? どんな危機が?」
俺は驚いて尋ねた。
「はい。ディートラの近接には北にセミーツ王国があるのですが、どうやらその国とトラブっているようでして」
レオン王子はそのように答えた。
セミーツと言えば、リールセラートの王族と親戚関係があった国だと記憶している。
リールセラートの王族が自滅し、俺が後釜に入ったことで、セミーツとの関係は途絶えている。
一方の獣王国ディートラはリールセラートを攻める時に牽制するため軍を出してくれたり、その礼としてリールセラートの西北の一部をディートラに割譲したりと関係の深い同盟国だ。
「獣王国に何かあれば遠慮なく言ってよ。支援するから」
俺はレオンにそう言った。
「ありがとうございます。ですが獣王国レギオール陛下からはレリトニール光公子様からの支援を断るように伝えられているのです」
レオン王子は悲痛な顔で答えた。
まぁ、それはそうだろう。獣王国にすると、つい最近までリールセラートは単なるラッシートの一地方に過ぎなかったはずだ。
それがあれよあれよと言ううちに周辺諸国を併呑しつつあり、気付いてみれば空前絶後の巨大勢力に成り上がっているのだ。
リールセラート、ラッシート、ディーガ、ケーセシャリー、六大塔同盟がなんとなく俺の傘下に入っている感じになったのは完全に成り行きに過ぎない。
ラッシートなど、いつ俺の傘下になったの? って感じだが勢力は巨大化すると加速度的に大きくなっていくもののようだ。
リールセラートを落とした時には、俺は単なるラッシートで最も将来性のある男に過ぎなかった。
ラッシート王国で最大のテンシラーオン大公の嫡男だった俺が新興とは言えディーガ王国を併呑した大国リールセラートを短期間で攻め滅ぼしその領袖に成ったからだ。
ところがその直後に今度は超大国と言ってもよいケーセシャリー帝国と六大塔同盟を併呑してしまったのだ。
戦争らしい戦争はしていないと言うのが俺の感想だが世間的には全く逆だ。
ラッシートとリールセラートとの戦いはヒューマンの国家間における近年でも最も大きな戦いであった。
ケーセシャリー帝国と六大塔同盟との戦争に至ってはこの世界でも神々の時代の世界戦争に匹敵しかねない超大戦だった。
今回、リビエラ嬢は獣王国にも参戦を申し込んだらいのだが獣王レギオール陛下からは芳しい答えが返ってこなかったと言う。
どうやらレギオール獣王陛下は、ケーセシャリー帝国の旗色が悪いことを察知していたようだ。
要はケーセシャリー帝国は六大塔同盟に負けると思っていた訳だ。
まさかラッシートとディーガの両国が女王自ら主力を率いて参戦するなど想定もしていなかっただろう。
なによりも、初戦で大きく負け越していたケーセシャリー帝国側が、これほど短期間に大勝して六大塔同盟を傘下に降すとは思ってもみなかったのだろう。
レギオール獣王の読みはハズれて彼は大船に乗るのに失敗してしまったのだ。
リールセラートとの戦いではうまく立ち回りリールセラートの北西部の一部を獲得するなど見事な政治手腕を発揮した獣王だったが、ここに来てリールセラートが想定外の超大国になってしまい、警戒し始めたわけだ。
レギオール獣王にすると、このままではリールセラートに併呑されかねないと言う心境だろう。
「レオンのやりたいようにしたら良いよ。なら千人程度の兵を連れて行きなよ。それは自分の兵隊なんだから支援ってことにならないでしょ」
俺がそう言うとレオン王子は俺の前に跪いて礼を言った。
「ありがとうございます。本当なら一度、光公子様の従者となった身。国に何があっても帰るなんて考えるべきではないのですが」
レオン王子の鎮痛な顔を見ると、相当な覚悟のようだ。
「でもいつでも支援すると獣王陛下には伝えてね」
「ありがとうございます」
拳聖天レオン王子はいつまでも頭を下げていた。
☆
《天の視点》
ここは、獣王国の西に広がる魔の森。一国を飲み込むほどの広範囲に亘る大森林だ。
その中央付近に異変が起こっていた。
「妖狐よ」
暗い森林の中でどこからともなく声が聞こえた。
「ん? 狼か?」
「外縁に侵入者だ」
「ほう。我らの領域に無断で侵入するとは愚かにも程がある。侵入者とは?」
「半獣の民のようだ」
「半獣の民。あやつらは我らを敬う心の厚いやつらだと思っていたが?」
「うむ。ヒューマンに追い立てられて逃げ延びてきたようだ」
「狼の。お主も本当に暇な奴だな。ずつと観察していたのか?」
「ふん。暇つぶしだ」
「盟約は破られた。神罰を加えねばならぬな」
「ふむ。理由によらず半獣の国に神罰を下すと言うのか?」
「お主は、逃げ延びるためなら盟約を破っても良いと考えるなら黙って見ていてもよいが?」
「そうさな。しかし原因の国にこそ神罰を下さねばならないのでは?」
「それは好きにしろ。ワタシは半獣の国に約束通り神罰を下すのみだ」
「では、そちらは妖狐に任せる。ワシは、原因を作ったヒューマンの国を滅ぼしに参るゆえ」
「狼の。滅ぼすつもりか?」
「なんの魂胆か知らぬが、つまらぬ悪知恵を働かせて我らの領域を犯す奴らは滅びるが良いのだ」
「盟約を破る者には災いを。それをどう捉えてどう実現させるかはそれぞれの考えしだいだ」
「ああ」
「その通りだ」
「そうだ」
「災いを」
「両方滅ぼしてしまえ」
「思い知らせてやれ」
二人の話を聞いていた大勢の古き神々の呟き声がどこからともなく聞こえてきた。
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