223 古代人の勇者の末路
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《天の視点》
第五大魔王ギュディーゲルは、古代人の末裔であるばかりでなく勇者であった。
悪魔族、妖精族、巨人族などの強い種族の存在するこの世界においてヒューマンは狩られる存在だった。
勇者は、ヒューマンという弱者である種族を救済するために主神ゼリューシュが作った特別な職業だった。
勇者ギュディーゲルは、古代において、剣聖ユーリプス、賢者マイノクラウス、大魔導士サーナウスの勇者パーティーを率いて、ヒューマンを奴隷としていた悪魔族の大魔王サタニアザムからヒューマンを解放した英雄である。
勇者パーティーはその後は素行が悪く歴史に消えていくのだが、剣聖ユーリプスだけはその後も剣の道を極めんと修行に励み続けてついには剣神となり12神の一柱にまで登り詰めた。
勇者ギュディーゲルは、紆余曲折の末に大魔導の研究家の一人として六大塔の大魔王と呼ばれるほどの大魔導士になった。
彼の目的は古の友であるユーリプス神と同じく神になることだった。
研究の結果、神になるには次を克服する必要があると考えられた。
①生死を克服すること
②神に勝つこと
③何らかの偉業を達成すること
④一定のレベルを超えること(レベル800だが彼らには不明)
⑤神からの試練を乗り越えること(②とは別の試練を与えられ、それを克服する必要がある)
⑥天に登る力を持つこと(飛翔や転移の能力)
の六つの条件が必要だと言うのが六大塔の大魔導士達の考えである。
それぞれの条件を解決する為に大魔導士達は六つの塔を立ち上げて現代に至るのだ。
第五大魔王ギュディーゲルは、第五の塔の大魔導士だった。第五の条件は神の試練を乗り越えることであるが、彼には腑に落ちぬことがあった。
彼は主神から与えられた大悪魔サタニアザムの討伐を果たし、人類解放を成し遂げた。試練を乗り越えたと言えるだろう。しかしその時になぜ彼は神になれなかったのか? それが彼の悩みであり最大の疑問であった。
当時は勇者パーティーの中でもダントツに強く、剣聖ユーリプスよりもずっと強かった。
神から与えられた試練を乗り越えた彼は、恐らく神に至る条件であるレベル700を超えていたし、不死の加護も持っていた。飛翔の術も所持していた。神になる条件は全て満たしていたはずだった。しかし神になれなかった。
なぜか?
それが彼が長年悶々として懐いていた疑問だ。
しかし、その疑問には同時に明らかな答えがあったのだ。彼にはその答えが手に取るように分かってさえいた。しかしその答えがはっきりしていると思えば思うほどに彼の悩みは大きくなった。
大悪魔サタニアザムは本物の大魔王と呼んで良い存在であった。
実力は上級の神と同等。大悪魔サタニアザムは、元勇者ギュディーゲルよりも遥かに強かった。
彼ら勇者パーティーは、大悪魔サタニアザムを騙すようにして神具で封印するのがやっとだったので実際には討伐していなかったのだ。
そんな第五大魔王ギュディーゲルにとって神に至る道は自明なのだった。
神に至れなかったのは単純に大悪魔サタニアザムを本当に討伐していなかったからだ。
実際の試練。それは大悪魔を討伐することだったのだろう。
彼が神になる為には大悪魔サタニアザムを本当に討伐すること。
実際にそうなのかは不明だが、彼にはそれが神に至るための試練であると確信していた。
しかし大悪魔サタニアザムを討伐すには神にならねば到底無理そうだとも彼は確信していた。
袋小路である。
それゆえに彼は悩み続けできたのだ。
彼の場合、神に至る道があまりにも自明であったがゆえに帰って袋小路に入り込んでしまったとも言えるだろう。
ユーリプスのようにひたすら修行するのが正しい道であるのだがなかなかそれに思いが至らなかった。
レベル限界に達し、これ以上どうすれば強くなれるのか不明な彼からすれば修行をすると言うことは無意味に感じても仕方が無かったのだろう。
勇者パーティー当時、彼よりもずっとレベルが低くレベル限界に達していた剣神ユーリプスが神に至ったのを知った時、彼は強いショックを受けた。
ユーリプスは剣の神に挑み勝った為、剣神になったと聞いた。
実際には剣神ユーリプスはレベル限界を突破するほどの苛烈な修行をしたことは誰も知らない。
ユーリプスが過酷な修行をした理由が勇者に全く敵わなかったからだったと知ったら大魔王ギュディーゲルはまた別の人生を歩んでいただろう。
そんな彼が飛び付いたのが勇者研究だった。
勇者を研究し、勇者の上位職業を得る条件を取得すれば神に至る能力を得ることができると考えたのだ。
☆
第五大魔王ギュディーゲルは、目の前の光景を信じられずに目を瞬いた。
「んヾっ! なんだお前たちは?」
第五大魔王ギュディーゲルが呻くように尋ねた。
しかし目の前の者達は、彼の言葉など無視してジャンケンを続けていた。
「最初はグー、ジャンケン、ポン。ポン。ポン」
「よし! じゃあ俺があいつね」
そう言ってギュディーゲルを指差したのは槍王シュレディ•レイバーンだった。
「仕方ねぇな。じゃあ俺はあっちの勇者ね」
ジャンケンで負けた風王疾風ドリューが風を纏わせて勇者の副長に近付きつつ言い放った。
「俺たちは雑魚勇者の皆さんのお相手ね」
獣王子拳王レオン、近衛団長剣王ノイツ、第一騎士団長剣王イールドの三人が勇者の一団に向かった。
「お前たち。どうやって我らの魔法障壁を超えてきたのだ?」
第三の塔、五大魔王ギュディーゲルは、疑問を口にした。
「ん? ああ。これで突き破って?」
槍王シュレディが槍の先を指差しながら答えた。
「な、馬鹿な。余が作った障壁をお前らに破れるはずが」
「まぁ、それはこうして対峙してんだから。さっさとやろうか大魔王さん」
槍王シュレディは呆れてそう言った。彼は、もう勝負を始めている他のメンバーを指差して勝負を促した。
「うぬ。雑魚の分際で余を愚弄するのか?」
「はいはい。時代は変わってんだよ。いつまでもお山の大将気取りはやめて時代を肌で感じてよ」
槍王シュレディは相手の大仰な態度に辟易しつつ少し呆れて言った。
所詮大魔王だ勇者だ古代人の伝説的な存在だと言っても剣聖天アイリス嬢が自分でも対応できると判断した相手なのだ。
「うぬ。許さぬ」
元勇者、第五大魔王ギュディーゲルは、伝説の聖剣を抜いて叫んだ。
聖剣を構えるよりも前に、槍王シュレディは大魔王が予想外の攻撃をした。
槍を投げたのだ。
シュレディの投擲はしかし随分緩いものに感じられた。
大魔王は嘲笑いながら槍を撃ち落とそうとした。
「甘いんだよ」
槍王の声が耳元でしたと感じた瞬間、大魔王は激しく殴られて吹き飛んでいた。
槍王シュレディは、槍を投げた瞬間、槍よりも早く移動して大魔王に殴りかかったのだ。
投げられた槍に気を取られた大魔王は槍王が瞬間移動したかのように感じた。
「光公子様が時々おやりなる変則攻撃なんだけど、こんなに簡単にひっかかるなんてな」
槍王シュレディは、目を回して気を失う大魔王を見て呆れて言った。
大魔王と恐れられた元勇者はこうして敗れたのだった。
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