222 ブラックホール
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《天の視点》
第四大魔王ザオラルは、その巨大な身体を身じろぎさせて口を大きく開いていた。
エンシャントティターン、古代巨人族の王であるザオラルは、最も神に近い種族と言われ、六大塔の中でも他の者達からも一目を置かれていた。
彼の配下達は、世界でも最も強力なクランを形成する冒険者の頂点でもあった。
彼らの身長は三メートル半ばにも達するにもかかわらず動きは素早く身軽ですらある。
「大魔王様。やつら我らクランに突っ込んでくるつもりのようですな」
側近が面白そうに言った。
「面白がるな。他の塔の者達に申し訳なかろうが。あれだけの人数による肉弾戦となれば魔導士である六大塔の者達の被害も覚悟せねばなるまいからな」
第四大魔王ザオラルも含み笑いをしつつ言った。
「そもそも肉弾戦は我らエイシェントティターンにとって最も望むもの。あのもの達に本物の恐怖を教えてやるがよかろう」
第四大魔王ザオラルは重低音の声でおかしそうに言った。
「しかし、六大塔全部の集団魔法を防ぐとはどれほど巨大な魔法障壁なのだ?」
ザオラルは目前に迫った大軍に対して払うべき注意を蔑ろにして、自分たちの攻撃を防いだ魔法障壁について熟考していたが。
「大魔王様。奴らの魔法攻撃が発動されるようです」
見ると軍団の先頭には一人の女性が最も早く走ってくるようだ。
黒一色の装束を身に纏った姿は彼らには馴染みのない姿だが、忍者のそれだ。黒聖天エーメラルダ嬢だ。
誰よりも早い為か既に目の良いエイシェントティターンからは顔形まで分かるほどだ。
「あのような小娘に何ができるのか。お手なみ拝見ですな」
「我らの方も魔法障壁は作ってあるのだろうな?」
「大魔王様。万全でございます」
黒聖天エーメラルダ嬢の両手の先に二つの黒い球体が発生した。
「ん? あれは闇属性か? しかしあれほど黒い魔法は見たことが無いな」
「さて? あのような魔法は見たことがありません」
二人がそんなことを言い合っているうちに黒聖天エーメラルダ嬢は、二つの黒い球体を第三大魔王軍に向けて放った。
黒い球体は、次第に大きくなりつつ、第三大魔王軍の魔法障壁とぶつかった。
その瞬間、ガラスが割れるような音が発生、魔法障壁は呆気なく消滅した。一方黒い球体は消えることなくそのまま次第に巨大化していくのだった。
「なっ」
第三大魔王ザオラルは、言葉にならぬ唸り声を上げて成り行きを見ていたが、惨劇はここから始まった。
黒い球体が辺りの空気を物凄い勢いで飲み込み始めたのだ。
「むっ、あれは伝説の暗黒魔法、ブラックホールか? 退避! あの黒点より逃げるのだ!」
第三大魔王ザオラルは声を限りに叫んだ。
その叫び声に呼応して第三大魔王軍は、一斉に退却を始めた。大混乱だ。
黒い球体は、次第に大きくなり、半径十メートルを超えた。周囲の空気が球体に向けて暴風となって吸い込まれ行った。
更にみるみる大きくなり、何もかもを飲み込み始めたのはそれから直ぐだった。
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