210 商才と信用
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(時間は少し遡っています)
《始商王サスティナの視点》
公子様には驚かされた。
「信用を売るのですか?」
わたくしは公子様の言葉を疑って聞き返した。
「そうそう。サスティナのところのジェラート商会の信用を売るんだよ。
ついでにこいつも印刷したらいいよ。少しは箔がつくかもね」
それは公子様が最近作られた家紋だった。
「え? 公子紋を使ってもいいのですか?」
わたくしは驚きのあまり叫んでいた。
公子紋とは、公子様が作られた画期的な家紋で簡素かつ意匠性に富んだ素晴らしいものだった。
公子様は我が家にも公子紋を作ってくださった。
線だけの文様がなぜこれほど芸術的なのか不思議だった。
今までのゴテゴテした家紋には無い品性を感じさせる。
「この紋章を紙に透かして商品の一つ一つを箱に入れてこんな風に包むだろ?
なんかそれだけで豪華だろ?」
その発想の奇抜さに呆れる思いだった。
「どうしてそんなことをわたくしに教えてくださるのですか?」
「サスティナ嬢には日頃お世話になっているから、そのお礼だよ」
などと公子様は仰ったが信じられなかった。何かあるんだろうが、公子様がお命じになるのなら我がジェラート商会は、どんな命令でも服するしかない。
なので、公子様考案の包装紙と言うものを作って全ての商品を包んで売ることを始めたのだ。
そんなある日、公子様は更に奇抜なアイデアをわたくしにくださった。
「信用を売るって言うのはラッピングだけじゃないんだよ
これな感じで紙に刷って数字を書く。ここに小さな字で
《この証券を持参された者は誰でも当商会の券面額の商品と交換する事を約す》
って書いておくんだよ。
この紙はギフト券って言ってね、この金額を券面額って言うんだよ。
この券面額で買い物ができるようにして、余った分はちゃんとお金で返したり、足りない分はお金を払って貰ってなんでも買えるようにするんだよ。
このギフト券は販売する時に券面額より少しだけ安く売るんだよ。そうだね。最初だけ一割ぐらい安く売ったら良いよ。普段は3分くらい割引して販売すると良いよ。
商人には8分ぐらい割引して販売してやると勝手に売ってくれるよ。
ギフト券は、綺麗な箱に入れてこの包装紙で包むんだよ」
そんな物が売れるのかとわたくしは思いました。
わたくしはそのギフト券を見て尋ねました。
「こんなことをしたらせっかく信用が付いてきた我がジェラート商会の商品の値崩れがしそうですが?」
わたくしは感覚でそう指摘したのですが、公子様の意見は全く逆でした。
「そう感じるだろうけど実は逆なんだ。物価は市場に出回っている貨幣の量で決定されるものなんだよ。
分かりやすく言うと買い物をしたいお客さんがたくさんいると物価が高くなり、お客さんが少ないと物価は低くなるだよ。
この紙切れでお買い物ができるシステムを導入してやると自然とお客さんが増えるからね。当然、物価は高くなるはずだよ」
とのことだった。
公子様の例え話は分かりやすかったが本当なのだろうかと疑問に思ったものだった。
これも実験だよとかって簡単に言いますけど、ジェラート商会も無限にお金があるわけじゃ有りませんが?
そうわたくしは思ったものです。
我がジェラート商会が扱う品物の品質についても公子様は気を付けれろと教えてくださった。物が手に入らないからって粗悪な品物を絶対に扱ってはならない。
粗悪な品物だったとのクレームが入ったら必ず交換か返品に応じるようにとも仰っていた。それが信用を創出する方法なのだそうだ。
わたくしは叔父様の商会長に厳しく公子様の命令を守らせた。
暫くして公子様のラッピング作戦は見事に当たり、我がジェラート商会の商品は、ラッシートを中心に東方諸国で売れに売れまくったのです。
そしてギフト券までもが大流行しのです。
そうすると公子様が仰ったように我がジェラート商会の品物は値崩れしなくなりました。我がジェラート商会の商品と言うだけで高値が着くようになったのです。
公子様が発案してくださった信用売り商法は、わたくしのジェラート商会を他の商会と格が違う別物へと押し上げてくださったのです。
「サスティナ嬢。済まないけどうちの領地にお金を融通してくれる?」
ある日、公子様からそう頼まれた時、なるほどそれが目的で我がジェラート商会に色々アドバイスして資金をお造りになられていたんだと理解しました。
もちろん融資するに決まっております。
公子様と賢王リビエラスト様が行われている改革は見事の一言ですし。
反論分身をどんどん登用し、自陣営に取り込むその手腕にはさすがとしか言いようが有りません。
リールセラートは恐らく近く国政が安定し素晴らしいお客様に変身するでしょう。融資は寧ろ進んで行いたいことだ。
お二人は良く国政について話し合われているが、公子様はほとんどを賢王様にお任せし、ヒントしか仰らない。ところがそのヒントだけで賢王様は、様々な施策を実施していかれるのだ。
なんか二人とも楽しそう。
羨ましいなとか思っていた。
「始商王サスティナ嬢はさすがですわね。よくも公子様のあんなめちゃくちゃで手間のかかるラッピングとかギフト券とかを取り入れて実行させましたね」
とある日、賢王リビエラスト様に感心して仰られたのを聞きました。
そしてなるほどとわたくしは思いましたわ。
わたくしも同じように公子様と楽しく商業の改革をしていたのだと気付かされたのです。
「あなたのおかげで、公子様と推進している改革が成功しそうよ」
賢王リビエラスト様は融資を実行した時、そう言って頭を下げられていた。
「いえ。全ては公子様の手のひらの上で踊っていただけですから」
わたくしがそう答えると。
「公子様は踊れない者を踊らそうとはなされません」
賢王様は、そうわたくしを褒めてくださった。その言葉には少しだけ自慢が混じっているのだと思った。
だから
「はい。その通りですわ」
とわたくしも少し自慢し合っておいた。
二人で小さな声で笑っていると、公子様が
「なんか楽しそうだね。僕も混ぜてよ」
なんて仰ってわたくし達の肩に美しい手を載せてくださった。
ふふふ。
そうやって従者の皆さんを手玉に取られるのですよね。
わたくしは賢王様に視線でそう申し上げた。
賢王様も呆れた目をしてわたくしの視線による無言の言葉に答えてくださった。
公子様は、わたくし達の視線を交互に見て
「ははは。セクハラかな? 嫌がってないよね?」
とか意味の分からないことを仰ってから、わたくしたちが笑って頷くと安心したのか、今度は暗殺王エーメラルダ様の方に行ってコソコソと情報交換してらした。
公子様の手はすかさずエーメラルダ様の腰に回っている。
エーメラルダ様はとても嬉しそうに微笑んで公子様に必要以上に近づいて情報を交換されていた。
わたくしは賢王様と呆れた目を交換してまた小さく笑い合った。
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