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184 剣王アイリスは吐き捨てるように言ったという

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《とある戦場の大佐の視点》


 敵を一秒でもこの戦線に足止めさせる。それが私の目的だ。


 大兵に対して寡兵で対抗するにはゲリラ戦法しかない。


 神出鬼没


 ヒットアンドウェイ


 それを繰り返すだけだ。


 塹壕を縦横に堀り巡らし、敵の攻撃を受けても全滅することがないように様々な工夫を凝らすのだ。


 お


 爆発音だ


 敵の急襲である


 国の同胞を守るために命を張る。そんな当然のことに今更なんの感慨も浮かばない。


 友が、後輩が、尊敬する諸先輩が、命を張り同胞を守って尊い命を犠牲にしておられる。


 我々弱者が絶対的な敵を食い止める。


 それは不可能ではない。


 不可避なる死を受け止めて、可否なる逃走を繰り返すのみだ。


 そしてゲリラ戦法をヒットアンドウェイを繰り返すのだ。一人でも生き残りそこに戦う意志があるなら敗北はない。



《天の視点》


 剣王アイリスが支援に駆けつけた時、既に前線を維持し続けていた大佐は命を無くしていた。


 しかし、その後も大佐の考案した塹壕構築によるゲリラ及びヒットアンドウェイ戦法により前線は崩れることなく敵を食い止めていた。


 剣王アイリスは、大佐の考案した戦い方を聞き、死んで行った大勢の者達に哀悼を捧げ、反撃に転じた。


 絶対的弱者が絶対的強者に転じた瞬間であった。


 だが、アイリスが最初に行ったのは前線の疲弊した将兵を後方に避難させる事だった。


 死を覚悟していた将兵は、帰ることができることになったことを喜ばなかった。


 なぜなら一緒に戦い死んで行った将兵に申し訳ない気持ちでいっぱいだったからだ。


 泣いて一緒に死なせてくれと哀願する将兵を前に始商王サスティナが願いを聞いてあげて欲しいと提案したが、剣王アイリスは頑として将兵を送り返すことを実行させた。


「あの方々は充分に戦われたのです。死ななかったのはそれだけ同胞を守る意思が強かっただけ。尊い将兵の自己犠牲が無ければ、ケーセシャリー帝国の善良なる民がどれほど犠牲になったことか。

 時間はかかると思います。ですが平和になれば皆さん、また笑顔を取り戻されるでしょう。

 あの方々にこれ以上の犠牲を強いるわけにはまいりませんわ」


 そう強く言い切ったと言う。


 そして剣王アイリスは自ら前線の前に立ち。敵に向かって名乗りをあげた。


「我はリールセラート大帝国の剣王アイリスである。引く者には慈悲を。歯向かうものには刃で歓迎させてもらおう」


「剣王だと? ヒューマン如き貧弱な下等生物が王級を詐称するとは笑止だ。

 我は第三の塔ドジャーサス様の近衛隊長タイヒルだ。詐称ではない本物の剣聖である。

 本物の聖級がどれほど凄いのか身を以て体験し、王級を詐称することがどれほどの恥なのかを実感するが良い」


 六大塔同盟の第三の塔ドジャーサスの軍勢がこの前線の攻撃担当だったのである。


 この場所は、ケーセシャリー帝国において決死の防衛戦略を最初に始めた前線だった。そのため剣聖と言う最大戦力の一人を投入してきたのだ。


 剣聖タイヒルの猛攻の前に大佐の尊い命と大勢の将兵が犠牲になったのだ。


「詐称しているかどうかは戦えば分かること。さっさとかかって来なさい。

 ハンデとしてお前に先に攻撃させてやろう」


「ふん。その増上慢が命を捨てる結果となるのだ。

 死ぬ前にせめてもの慈悲だ。我が剣の技名を聞かせてやろう。この技は斬撃を一点に集中させて威力を増す技。

 剛気一点。

 それが技の名だ」


 剣聖タイヒルは、それだけ言うと、剣を抜き闘気を練り上げ、斬撃を放った。


 アイリスが剣聖だった時よりもタイヒルは僅かに強い。とは言え王級の域を超え既に神級に片足を踏み込んでいるアイリスに敵うはずが無い。


 【剛気一点】は、アイリスに直撃したはずだったが、軽く躱されカウンターが繰り出されたのである。


「真の慈悲とは技名をわざとらしく言うのでは無く、死ぬことすら知らぬまに逝かせてあげることよ」


 剣王アイリスは吐き捨てるように言ったという。

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