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123 鎚打つ響き

《レリトニール公子様》


「エカテリーナ嬢。その姿もイカしているよね」


 エカテリーナ嬢が白い不思議な服を着てきた。作業着なのに彼女が着ると聖職者の着る服みたいだ。


「いえいえ。ご冗談を。我々鍛治師は鍛治を神聖なものと捉えておりますの。それゆえに白いこのような作業着を切るのです。この服は作務衣(さむえ)と言います」


 鍛治聖エカテリーナ公女が答えた。


「その槌で打つんだね?」


「はい。これは先先代様がお造りになられた特別製なんです。わたくしが誕生した時の贈り物なんですよ」


 嬉しそうにエカテリーナ嬢が言った。


「お嬢様。大丈夫なのですか?」


 横からヤードおじさんが心配そうにエカテリーナ嬢に声を掛けてきた。


 何を心配しているのかな?


「はい。大丈夫だと思います。この槌を振るって鍛治をします。

 でもせっかくなのでどなたかの剣の強化でも致しましょうか?」


 エカテリーナ嬢が尋ねてきた。


 それは良い。


「実はこの剣なんだけど、ちょっと不安があってね」


 俺は腰に刺した剣を鞘ごと引き抜いてエカテリーナ嬢に渡した。


「あゝ。これは聖剣グランファードですわね。見てもよろしいですか?」


 俺が頷くと、エカテリーナ嬢は鞘からグランファードを抜いた。


 出てきた刀身は、聖剣の名に相応しい立派な刀身だった。


 エカテリーナ嬢は、しばらく刀身を見ていた。


「はあ。聖剣は神が打たれたとの伝説の通り素晴らしいものですわね。でも無数の小さなヒビか入っていますわね」


「やはりそうか。なんか振るうたびに剣が悲鳴をあげているような気がしてね。ある時から使うのをやめていたんだよ」


「そうなのですね。公子様が素手で戦っておられるのはその為なのですか?」


「いやぁ。剣を振るうような機会がないからだよ。狭いダンジョンで剣なんか振ったら大変な事になるよ」


 俺がそう言うと、なぜか槍聖シュレディたちだけでなくヤードおじさんまで一緒になってうんうんと懸命に頷いている。


 何かあったっけ?


 まぁいっか。


「それよりこの剣は硬くて気に入ってだんだけど。そんなにヒビが入ってたんじゃもう使えないよね。前よりも力が増えたしね。

 それは借り物だから王家にお返ししないと。元通りになれば良いんだけど」


「分かりました。まだ刀身に大きなヒビがあるわけではないので熱して打ち直せば大丈夫でしょう」


 そう言うと、エカテリーナ嬢は、柄頭から目釘を引き抜いて刀身を取り出した。なかなかの手際だ。


 彼女は刀身をやっとこで挟むと真っ赤に熱している炉に刀身を差し入れた。


 慣れた手付きが頼もしい。


 直ぐに刀身を取り出すと刀身は真っ赤になっていた。


 助手をするのだろう、エカテリーナ嬢と同じような服装の者が出てきて、エカテリーナ嬢を手伝い始めた。


 エカテリーナ嬢は、軽く槌を振り上げるとしなやかなスナップを効かせて振り下ろした。


 カツ!


 鉄を撃つ音が作業所にこだました。


 カツ! カツ! トントン。


 カツ! カツ! トントン。


 次第にリズムが早くなっていった。


 真剣なエカテリーナ嬢の表情も加点が高いだろう。


 良いものを見せてもらった。


 エカテリーナ嬢が鎚を振ると鎚から魔力が流れ出てくるのが見えた。


 それは俺が魔力の見えるスキルを持っているからだ。


 エカテリーナ嬢の鎚から流れ出る魔力の流れを観察していると、これは一種の戦いのようだ感じた。


 剣は、魔力の圧縮に抗って魔力を跳ね返す。エカテリーナ嬢がタイミング良く鎚を振り下ろす。その絶妙さがあたかも達人同士の剣の打ち合いに似ていると感じたのだ。


 ちなみに俺は、鍛治や錬金術のサブ職業を取得し、鍛治などのスキルもレベルは高くはないが所持していた。


 それゆえに、エカテリーナ嬢の鎚の打つ様子などが良く分かるのかもしれないと感じた。


「公子様も鍛治スキルをお持ちだと剣王様から聞いておりますよ。よろしかったら打ってみられますか?」


 エカテリーナ嬢が笑いながら言った。


 それならと言うことで俺は助手の人からエカテリーナ嬢の振るう鎚よりも二回り大きな大槌を受け取った。


 これは補助の鎚だ。強い力で打ち付けるもので精密性は要求されないが力が必要。


 普通は複数人が交代で振るうものだ。


 この鎚も重力魔法のエンチャントが掛かっているようでなかなかの重さだ。


 俺はその鎚を振り上げると、聖剣に向けて振り下ろした。


 ガン!


 地面がめり込むような音と共に、聖剣がたわんだ。


 もう一度、鎚を振り下ろした。

おはようございます。本日も頑張ります。

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