第六幕 炎を扱う少女
悲鳴が聞こえた元を辿ると、赤髪ツインテールの女の子が厳つい男数人に絡まれていた。
「ちょ、だからやめてってば!!触らないで!!」
「大丈夫、大丈夫。痛くしないからさ。一発くらいヤらせてくれたって良いだろ?1万Gやるからよ」
その光景に村の人々は見てみぬ振りをしている。
誰もああいう男達とは関わりたく無いのだろう。
ーーーバチンッ
突如鳴り響いた弾かれる音。
どうやら女の子が男の頬をひっぱたいたらしい。
「....あ?てめぇ...優しくしてやってりゃ調子こきやがって...あぁ!!?」
男は拳を握り締め、女の子に向けて放とうとしたがーーー
「おい」
唐突に声を掛けられた男は俺の方を振り向いた。
「...あ?なんだてめぇ...」
「止めろよ」
「はぁ...?あんだって?」
「止めろって言ってんだろ。みっともねぇぞ」
すると男は俺の元へと近寄って来た。
「てめぇ、クラスとレベルいくつだよ」
「知らねぇ。転移して来たばかりだからな。レベルは多分1だろ」
それを聞いた男は腹を抱えて大笑いした。
「ぎゃははは!!!おい、聞いたか?レベル1だってよ!!」
女の子を取り囲んでいた他の男達も大爆笑している。
「喧嘩売る相手間違えたな。レベル1って事は冒険者ギルドに登録もしていない無職の雑魚って訳だ。残念ながら俺達は全員レベル15以上の現役冒険者だぜ」
男は続け様に言った。
「無職と現役冒険者との格の違いを見せてやるよ」
男がそう言うと俺の周りを男数人が取り囲む。
しかしこの事態にも関わらず、アスタリアは遠くでガッツポーズをしていた。
おいおい、お前の観察対象者が窮地に立たされているんだぞ...少しは心配とか手助けしたらどうだ。
(とは言え、試したい事もあったし丁度良いか...)
「おい、何とか言ったらどうだ!?それとも怖くなって今更後悔してるのか?」
そして俺はため息一つ。
「はぁ...後悔つーか、本当嫌んなっちまうよな...こっち来てから既に三回も死にかけるわ、訳わかんねぇ薄情者の女に付き纏われるわ、こんなクソみたいな連中に囲まれるわで...散々だよ」
「なーに訳わかんねぇ事言ってんだ!!取り合えず死んどけ!!」
男の拳が俺に目掛けて放たれる。
しかし、俺は元々あった持ち前の反射神経でそれを難なくかわして距離をとった。
「てめぇ、避けんじゃねぇよ!!」
「避けるなって無茶すぎだろ。悪いが俺はドMじゃない」
「ならこいつはどうだ!!【ストレートヒット】!!」
男の拳がオレンジ色に光り、駆け寄りながら打ってきた。
しかし、それも物の見事にかわして、またため息。
「はぁ...仕方ねぇ...」
俺には、今最も最適解なスキルが頭に浮かんでいた。
そして、あるスキル名を宣言する。
「【デバフエンチャント : スリープ】」
すると、どうだろうか。
俺とアスタリアと自称冒険者の男達以外のその場にいた全員がバタバタと倒れていき、眠ってしまった。
(なるほど、思った通りだな...)
その光景に、男達は驚愕したように辺りを見回している。
「なっ!!?て、てめぇ...何しやがった...!!」
「なに、眠って貰っただけだ。すぐに起きるから心配すんなよ。それよりも...」
俺は男を見てニヤリと笑うと続けた。
「無職と冒険者の格の違いを見せてくれるんだったよな...?だったら俺も余興として一つ、芸を見せてやらねぇと...」
そう言って右手を上に掲げてスキル名を宣言した。
「顕現せよ!!『不死鳥』【フェニックス】!!!!」
すると、突然空が茜色に染まり、俺の目の前に巨大な炎の渦が巻き起こった。
そして、その内側から渦を吹き飛ばして現れたのは、炎を躰に纏った巨鳥だ。
「ひっ...!?ひいいぃぃ!!!な、なんだあれ!!!!」
そのとんでもない光景に男達は全員尻餅をついて後ずさっていく。
「わ、悪かった!!!!俺達が悪かったから!!!勘弁してくれ!!!」
俺は男を一瞥して一言。
「断る。やれ、フェニックス!!」
「ピイイィィィ!!!」
そしてフェニックスは男達に向かって飛んで行きーーー
「うぎゃああぁぁぁ!!!!」
ーーー直撃する直前で姿を消した。
バタリッ...
見ると、男達は全員泡を吹いて白目を剥きながら気絶している様だ。
それから少し時間がたった頃、【デバフエンチャント : スリープ】の効果が切れて眠っていた全員が一斉に起き出した。
そして、例のツインテールの女の子も起き出す。
「う...うーん...あれ?私眠ってたの...?」
「あぁ、突然眠いとか言って倒れちゃったもんだからどうしようかと思ったぞ」
そう言って俺はツインテールの子に近付く。
「え...本当!?やだ...記憶にないんだけど...あ、後アイツらは!?」
その質問に俺は未だ気絶している男達に顔を向けて言った。
「あそこで気絶させといたよ」
「あ、アンタがやったの...?」
「まぁ、一応...」
「そっか...助けてくれて...あ、ありがと...」
とりあえず事態は収まったので俺は女の子に手を伸ばして起こす。
「それじゃ、俺達はもう行くから。今後もナンパには気を付けろよ。じゃあな」
そう言って俺はその場を立ち去ろうとした時だ。
何かに引っ張られたようで、俺は足を止める。
「ま、待って...!あの、お礼って言うか、何か奢らせてよ。借り作ったままなの、嫌だからさ」
「別に借りを貸した覚えはないぞ。だから気にしなくて良い」
「で、でも!!それじゃ私が納得しないの!!無理矢理にでも奢らせて貰うから!!」
そう言って女の子は半ば強引に奢ろうと差し迫ってきた。
こんな奢られ方は生まれて初めてかもしれない。
(...そう言えば俺は朝以降から何も食べていないな)
この世界で現世の通貨が使えるとは思えないので、取り合えずここは女の子に甘える事としよう。説得しても引いてくれそうにないし。
そうすれば女の子の顔も立てられるし俺も飯食えるで一石二鳥だな。
だが、問題はアスタリアなんだが...
「あー...つってもなぁ...あっちにいる銀髪の女の子も連れなんだが...」
「だったらその子の分も私が出す」
「良いのかよ?まぁ俺もこっちの世界来たばかりで金持ってないからどうしようも無いんだけど...」
すると、女の子は俺の服装を見て納得した様に言った。
「やっぱり...あんたも転移者なのね」