表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
残された者たち
70/74

七階

 なずなの書いた文字が滲んで、初めて自分が泣いていることに気付いた。


 なずな本人が書いたことを疑う余地はない。

 とてもなずならしい文章である。


 真央李も以前指摘したとおり、なずなは「気遣い屋」だ。


 この遺書では誰も――皐月を殺し、なずなを殺そうとした珠里でさえも、悪く書かれていない。



 他方、なずなは、なずな自身のことを決して良く表現しない。



 謙遜にしては行き過ぎている。


 なずなは、七年前のビル火災以降、自分自身をひたすらに嫌悪していたのである。


 そんな生き方は辛過ぎる、と思う。


 なずなが死を決意したことにはそれなりの理由はある。



 とはいえ、私は、それが()()()()()()()()()()()()()()()


 私は、なずなに生きていて欲しかった。


 どんな事情があっても良いし、なずなが悪人だって構わない。これから先、なずなが私にどんなに迷惑を掛けたって許せる。


 だから、なずなには、是が非でも生きるという決断をして欲しかった。


 そうしたら、私が、何があろうとなずなを支えてあげたのに。



 なずなの決断は間違っている。


 なずなは早まったことをする前に、私に全てを打ち明けるべきだったのである。



 なずなのバカ――



「……あれ? じゅりちゃん?」


 なずなの遺書を読むことに集中していた私は、部屋の環境の変化に気付かずにいた。


 珠里がいないのである。



 立ち上がり、トイレを確認してみたが、そこにも珠里はいなかった。



 玄関の様子を見に行った私の背筋が凍る。


 玄関には、私が履いてきた靴、それから珠里がいつも履いているパンプスとサンダルが一足ずつ、私がこの部屋を訪れた時と同じように並べられている。


 他方、ドアの鍵は開けっぱなしである。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 私も靴を履かないまま、珠里の部屋を飛び出した。



 エレベーターホールまで駆けた私は、嫌な予感が見事に的中していたことを悟る。


 エレベーターの階層表示が「七」となっているのである。


 七階――ビル火災の時に麻美が飛び降りたのと同じ階層である。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 私は、エレベーターのボタンを連打する。



 どうか間に合ってくれ――



 どうか――どうか――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ああもう!! 気持ちは分からんでもないけどだからって!! 最悪な結末にしちゃいけない!! 急ぐんだ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ