回転寿司
「かのちゃん、気分じゃなかったかな? 変な場所を指定してごめん」
「いや……」
まずはじめに私がアポイントメントを取ったのは、真央李である。気さくなキャラクターゆえに、一番声を掛けやすかったからだ。
「それとも、もしかしてお腹いっぱい?」
「いや……」
会う場所を真央李に委ねたところ、真央李が指定したのはチェーンの回転寿司店だった。
真央李らしいといえば、真央李らしい。
普段は家族連れで賑わっているのだろうが、平日の昼間なので、広いテーブル席に案内された。
相変わらず露出度の高い服を着た真央李は、席に座るやいなや、お茶を入れ、小皿にガリを盛った。
そして、回っているお寿司を品定めし始める。
他方、真央李は、横目でチラチラと私の顔色も窺っている。
私が、ベルトコンベアのお寿司に一切関心を示していないからだろう。
それは機嫌の問題でも、空腹度合いの問題でもない。
真央李に何を訊くべきか、ということで私の頭はいっぱいで、お寿司どころではないのだ。
「まずは赤身からでしょ!……かのちゃんも食べる?」
「……食べる」
「あと、甘海老ね!」
「あ……」
真央李は、赤身と甘海老の皿を、ベルトコンベアから素早く回収する。
そして、赤身を一貫箸で掴むと、甘海老の皿に移す。代わりに甘海老も一貫赤身の皿に移す。
これで二枚の皿は、共に赤身と甘海老が一貫ずつとなった。
「やっぱり回転寿司屋は二人で来るに限るね! こうやってシェアすれば、色々なネタが食べれるから」
「……まおりちゃん、ごめん」
「かのちゃん、どうしたの?」
「……私、海老アレルギー」
「げっ」
真央李は、自らの意思確認ミスを隠蔽すべく、甘海老二貫をポンっポンっと立て続けに口に入れる。そして、ゴホッゴホッと咽せる。
なんとも憎めないキャラクターである。
果たしてそれは表の顔に過ぎないのだろうか――
私は、単刀直入に訊いてみることにした。
「まおりちゃん、なずなちゃんのことをどう思ってた?」
「……どう思ってたってどういう意味……?」
「好きとか嫌いとか」
「もちろん、好きだよ」
すかさずそう答えた真央李だったが、「あっ」と声を上げて、口を押さえる。
「……なんというか、そういう意味ではなくて……」
おそらく、私となずなの関係を意識したのだ。
「大丈夫。分かってる」
「……とにかく、私はなずなが亡くなって、本当にショックだった。もちろん、皐月が死んじゃったのもショック。……こう見えて、私、結構落ち込んでるんだよ」
「……分かってる」
回転寿司という楽しげな場所を選んだのも、決して真央李がノー天気だからというわけではないのだろう。
私を励ますための、真央李なりの工夫なのだ……と思う。
真央李が犯人でなければ、の話だが。
「……かのちゃん、なずなの遺書は見た?」
「……見てない」
事件当日、なずなのバッグから見つかった「遺書」。
なずなの筆跡で書かれていた、とされているが、私は、犯人による何らかの偽装工作がされたものだと確信してる。
「『私は死ぬけど、メンバーやスタッフには本当に感謝してる。今までありがとう。みんな幸せになってね』。……気遣い屋さんのなずならしいでしょ」
たしかになずならしい文章……には見える。
しかし、私は、その遺書の内容に、大きな違和感を覚える。
私に対する言葉が何一つとしてないのである。
「自殺」の前日に交際に至り、肌と肌を重ね、これから色んなところに行こうと約束した相手に対して、謝罪の言葉も感謝の言葉もないというのは、あまりにも不自然である。
やはり、その遺書は、偽造されたものに違いない。
「まおりちゃん、なずなちゃんが自殺した動機には心当たりはあるの?」
「ない」
真央李はハッキリと答える。
「こう言うのもアレだけど、皐月の場合は……何となく分かるよ。自傷癖があったから。でも、なずなの場合は、メンタルに問題はなかった」
メンタルに問題はない――とまでは言い切れないかもしれない。
なずなは、夜、睡眠薬を常用していた。
しかし、それでもやはり、皐月の場合とはだいぶ事情が異なるように思える。
私は、ふと、なずなに睡眠薬について質問した時のやりとりを思い出す。
「こう見えて、昔色々あってね」
「……昔?」
「昔アイドルをやってた時に……」
なずなに闇の部分があるのだとすれば、それは、実物アイドル時代に潜んでいるのではないだろうか。
なずなが誰かに命を狙われる理由があるのだとすれば、やはりそれもこの時代のことが関係しているのではないだろうか。
「まおりちゃん、なずなちゃんの前世って知ってる?」
「知らない」
これも真央李は即答した。
「アイドルをやってたというのは本人から聞いたけど、それ以上は教えてくれなかったなあ」
私と状況は同じである。
なずなは、過去のアイドル経験については誰にも語らなかったのかもしれない。
――いや、真央李の話を鵜呑みにしてはダメだ。
真央李が、本当に、実物アイドル時代のなずなと接点がなかったのか、しっかり確認する必要があるだろう。
「まおりちゃんも昔アイドルをやってたんだよね?」
「そうだよ。『ジャポネ』っていうユニット」
ジャポネ――聞いたことがある。私は、必死で思い出そうとする。
「たしか、名古屋の……」
「さすがかのちゃん。通だね」
「結構人気があるユニットだよね?」
「そうそう」
「……じゃあ、どうして辞めちゃったの?」
「それにはのっぴきならない事情があってだね」
そう言って、真央李はポケットからスマホを取り出し、素早くスワイプを繰り返す。
その間に、せっかくなので私はお皿の上の赤身を摘む。
噛んで飲み込むだけだ。
なずなが死んで以降、食べ物の味がほとんど分からなくなってしまっている。
真央李と目が合う。
「この画像を見て」
そう言って真央李が私に提示したのは、真央李と男性がキスをしているプリクラ画像だった。




