表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
居場所を無くした少女
12/74

タオル


 ピンポーン――


 インターホンの音がしたものの、しばらく待っても、何の反応もなかった。



「留守なのかな?」


「分からない。もう一回押してみるね」


 なずなの細い指が、もう一度インターホンのスイッチに伸びる。


 ピンポーン――



 またしばらく待ってみたが、何も反応はなかった。



「きっと留守なんだよ」


 というより、どうか留守であって欲しいという思いである。「最悪の事態」だなんて、本当に勘弁して欲しい。



「皐月は出不精なんだよね」


 なずながそうは言うものの、出不精の人も、コンビニに買い物に行くことくらいはあるだろう。



 なずなはさらにもう一度インターホンを押す代わりに、今度はドアノブを捻り、引いた。



 当然、ドアは動かない――ものと思っていた。



 もっとも、実際にはドアはスーッと開き、少し開いたところで、何らかの抵抗する力によって、バチンと止まる。


 ドアの鍵は開いていた。


 しかし、チェーンロックが掛かっているのである。



「内側からチェーンが掛かってるということは、皐月は中にいるということだね」


 論理的には、なずなの言うとおりである。チェーンを掛けた状態で外出することは不可能だ。



「ドアノブを持ってて」


「うん」


 私はなずなの指示どおり、ドアノブを持つ。試しに思いっきりドアを引いてみたが、やはりチェーンの抵抗に遭い、僅かにしか開かない。


 なずなは、その僅かな隙間に顔を突っ込む。



「皐月! いるんでしょ!? 皐月!」


 部屋にいる者には間違いなく聞こえる大きな声。



――しかし、何の反応もなかった。



「かのちゃん、部屋の中を見てみて」


「うん」


 今度も私は素直に指示に従う。ドアを引っ張る立場をなずなに引き継ぐと、先ほどのなずなのように、僅かな隙間から部屋の中を覗き込む。



 まるでモデルルームのように、何もない部屋だった。



 靴箱に収納されているのか、玄関には靴は無く、廊下にも何も物は置かれていない。その先のワンルームに関しても、少なくとも視界に入る範囲では、フローリングの床以外には何も見えない。


 皐月はよほどの綺麗好きなのだろう。



 それはともかく、大事なことは、皐月の姿はどこにも見えない、ということである。



「……皐月ちゃんはいないね」


「……かのちゃん、ベランダを見てみて」


「え? ベランダ?」


 間取りは非常にシンプルなワンルームである。玄関、廊下、居間が一直線に並んでおり、居間と接続しているベランダまで、ドアの隙間から見通すことができた。



 ベランダには、洗濯物と思われるタオルが干してある。真っ白なタオルである。



――否、真っ白ではない。


 あれは――



「血?」


 タオルの中央部分が赤く汚れているのである。


 私は、頭を金槌で打たれたような強い衝撃を受ける。



 仮に、あの汚れが血だとすれば、それは明らかに新しいものである。あの色は乾いた血の色ではない。真っ赤な鮮血の色だ。



「な、なずなちゃん……あ、あれは……」


「……かのちゃん、落ち着いて」


 かく言うなずなも決して冷静ではない。


 ドアノブを握る手は、大袈裟に見えるまでにプルプルと震えているのである。



「皐月はお風呂場にいるのかもしれない」



 お風呂場――その場所が何を意味するのかは、私にも何となく分かる。



 なずながドアをバタンと閉じる。



「かのちゃん、もしかするとベランダの窓の鍵が開いてるかもしれない。急いで裏に回り込んでみよう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] めちゃヤベェ(;゜Д゜) 急げ!! 急ぐんだ!!(;゜Д゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ