表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/71

第6話 認めない 夢であろうと 断固拒否

 夢であろうとも、推しが父親なんてあんまりだ。

 しかも、悪役令嬢が母だなんて……!


 ショックから立ち直れない私は、再びベリンダに顔を向け、思いっきり睨んでやった。

 蒼い顔で突っ立っていた彼女は、ビクッと肩を揺らし、(おび)えた目で私を見返す。


「フローレッタ?……こら。そんな目で見てはいけない。お母様は、君が倒れてからというもの、ずっと心配してくれていたんだ。夜も、ろくに眠れはしなかったんだからね。だから、ほら……『心配掛けてごめんなさい』って言っておあげ?」


 私の頭に手を置いたまま、ウィルが優しく語り掛ける。



 ――は?

 ベリンダが心配? 私のことを?

 しかも、〝夜もろくに眠れなかった〟って?



 根性悪なベリンダしか知らない私には、とうてい信じられないことだった。

 でも、ウィルに悪い子だと思われたくなかったから、嫌々ながら謝る。


 ……目をそらしたまま。

 耳を澄ませなければ聞こえないほどの、小さな声で……だったけど。



「フローレッタ。謝る時は、お母様の目を見なさ――」

「いいのよ、ウィル」


 ウィルのセリフをさえぎるように、ベリンダが割って入って来た。

 彼が『だが――』と言い掛けると、今度は、首を横に振ることで制す。

 ウィルはまだ何か言いたげだったけど、ハァ、と小さくため息をつき、言葉をのみ込んだ。



 そして訪れる、しばしの沈黙。



 シンとした中、ベリンダの視線をひしひしと感じたけど、私は(がん)として顔をそむけ続けた。


 だって、私の知るベリンダは、最低最悪の悪役令嬢。

 私のお気に入りのヒロインを、いじめていじめていじめ抜く、典型的な悪女なんだもの。


 今は改心した……のかどうか知らないけど。

 ゲームで、嫌と言うほど悪印象を植え付けられたのよ? そう簡単に、気持ちを切り替えられるはずないじゃない!



 ツンとそっぽを向き、無言を(つらぬ)く私を前に、ウィルは、ほとほと困り果てている様子だった。


 彼には申し訳なく思ったけど、こればっかりは仕方ない。

 心で手を合わせつつ、私はベリンダを無視し続けた。



「ウィル。フローレッタも目を覚ましたことだし、もう心配いらないわ。夕食の時間まで、そっとしておいてあげましょう」


 数分の膠着(こうちゃく)状態の後。

 ベリンダが放った言葉に(うなが)され、ウィルは私に『夕食まで、ゆっくりしていなさい』と声を掛けると、彼女と共に部屋を出て行った。




 ドアが閉まり、数秒ほどしてから、私はようやく顔を元の位置に戻し、ホッと息をついた。


 ムキになって、これでもかってほど顔を(そむ)けてたせいだろうか。首の筋を違えてしまったようだ。

 ピキッと痛みが走った首を片手で押さえると、私は『イテテ』と顔をしかめた。



(むぅ~……。夢でウィルに会えて、サイッコーに幸せだったのに。ベリンダのせいで台無しだわ! もうっ、どーしてくれるのよ?)



 ……なんて、心で文句を言ってみても、状況は変わらない。

 まずは、夢の中の自分――フローレッタがどんな容姿をしているのか、確かめてみることにしよう。


 そう思った私は、ぐるりと部屋の中を見回した。

 幼女一人の部屋にしては、無駄にだだっ広くて、過剰(かじょう)なほどに豪華だ。


 私は『そっか。ウィルは貴族様だったもんね。豪華で当たり前か』などと思いながら、ベッド横の靴に足を差し入れ、大きな鏡の前に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ