第50話 荷が重い 悪魔の寿命 握ってる?
ダリルの言葉には、ちょっと意味がわからないところがあった。
私はダリルに顔を向け、
「ねえ。今、『おまえと心中する羽目に』とかって言ってなかった?……どーゆーこと? 私が魔法を習得できなくても、ダリルは死んだりしないでしょ? 悪魔の寿命は何千年くらいあるって、ルシアンさん言ってたし。だったら、死ぬのは私だけじゃない。なんで私と心中って話になるの?」
首をかしげつつ、単刀直入に訊ねる。
ダリルは面倒そうに私を見上げて。
「実際に死ぬって話じゃねーよ。おまえが一生魔法使えずに死んじまったら、俺は死ぬまでこの姿のままなんだぞ? そんなん、飼い殺しされてんのと変わんねーじゃねーか。寿命だって、どんだけ縮むんだかわかんねーんだしよ」
「あ……そっか。ルシアンさん、私が数年で魔法習得した場合、数十年分寿命が縮むって言ってたけど……私の一生分が上乗せされるって考えると、数十年縮むだけじゃ済まなくなっちゃうのか。……そっか。数千年のうち、数十年分寿命が縮むのと、百年以上縮むのとでは、だいぶ違うかぁ……」
ぶつぶつとつぶやいて、私は改めて考え込んでしまった。
たとえば、私が十年で魔法を習得した場合、ダリルの寿命が、え~っと、五十年縮むとするわよね?
魔法の習得に七十年かかったとしたら、十年の七倍×五十、ダリルの寿命が縮むってこと?
え~っと、つまり……七×五十=三百五十、か……。
ダリルとエルマーさんが、今幾つか知らないけど。
寿命九千年の場合で考えたら、魔法習得十年の場合、九千-五十で、八千九百五十歳。
魔法習得七十年の場合は、九千-三百五十で、八千六百五十歳までが寿命、ってこと……よね?
う~ん……。
ケタが大きすぎてピンとこないけど、八千九百五十歳まで生きるのと、八千六百五十歳まで生きるのとでは、大違いなのかな?
寿命が五十年縮むのと、三百五十年縮むのとでは……ああ、やっぱ違うか。
いくら数千年生きるって言っても、数十年縮むのと、数百年縮んじゃうのとでは、全っ然、違うかぁ~~~。
……そーよね。
ケタが大きすぎて、大したことないように感じちゃうけど、人間の寿命で考えてみたら、数十年縮むだけでも大問題だわ!
うわーーーっ、どーしよう!?
一生、私が魔法習得できなかったら……。
ホントに、マジでどーしよう!?
メッチャクチャ、責任重大じゃないのよぉおおーーーーーッ!!
……正直、ルシアンさんに寿命について聞いた時は、
『悪魔って数千年も生きられるのかー。じゃあ、数十年寿命が縮むくらい、大したことないのかな?』
なんて、気楽に考えていたんだけど。
私が魔法を習得して、二人を元に戻せない限り。
数十年どころか、数百年も縮んでしまうんだわ。
しかも、一生、犬と猫の姿のままなんだわ!
……ヤバい。
今更ながら、すごく怖くなってきてしまった。
魔法……ちゃんと覚えられるのかな?
覚えられなかったらどーしよう……。
「おいっ、どーしたんだよ? 顔がすっげー青っちれ―ぞ?」
気が付くと、膝の上で揃えられた私の両手は、小刻みに震えていた。
隣では、ダリルが様子を窺うように、私の顔を覗き込んでいる。
(……心配してくれてるのかな?)
そう思ったら、ふわっと心が温かくなった。
私はそっと手を伸ばし、ダリルの頭をよしよしと撫でた。
「大丈夫。ちょっと、不安になっちゃっただけ」
なるべく平静を装い、微かに笑みをこぼす。
ダリルはピョンと私の膝に飛び乗り、『ガキが無理してんじゃねー! 調子悪ぃ時は悪ぃって、正直に言やーいーんだよ!』とお説教してきた。
「なーに? 具合悪くなっちゃったの?」
ルシアンさんとしばらくにらみ合ってたエルマーさんも、私の膝に片手を乗せ、心配そうに覗き込む。
きっと、私達のやり取りを耳にして、様子を見に来てくれたんだろう。
「幼いうちから、難しいことを考えすぎるのは、あまり感心しませんね。童女は童女らしく、庭でも駆け回っていればよいのです。この屋敷の家庭教師は、数週間ほど留守にしているのでしょう? 遊び回れるのも、今のうちだけですよ」
……え? 家庭教師?
そんな人いるんだ?
数週間留守にしてる……ってことは、住み込みの家庭教師さんなのかな?
六歳で、もう家庭教師とかいるのか……。やっぱ、貴族のお嬢様って大変なんだなぁ~。
まだ見ぬ家庭教師さんに、ちょっと思いを馳せてみたりもしたけど。
今はそんなことよりも、ダリルやエルマーさん、そしてルシアンさんの優しさに、私はちょっぴり感動していた。
口は悪いし態度もデカいけど、根は優しいダリル。
自分が一番可愛いナルシストで、ちょっと騒がしかったりもするけど、何かと気遣ってくれるエルマーさん。
内心からにじみ出るそら恐ろしさが、不気味に思える時もあるけど、なんだかんだで良い人(あ、悪魔か)っぽいルシアンさん。
悪魔って、こんなに優しい生き物だったかしら?
願いを叶える代わりに、魂とか寿命とかを要求したり、人間を堕落させたりするような、悪いヤツらなんじゃなかった?
(少なくとも、今ここにいる悪魔達からは、危険な気配なんか、全く感じないのよねぇ……)
私はフフッと笑みをこぼすと、ダリルとエルマーさんの頭に手を置き、思う存分撫で回した。
※お詫び※
メチャクチャ久しぶりに読み返してみましたら、寿命の計算が、ものすごくおかしなことになっていたことに気付きまして……。
以前読み返した時に、何故気付かなかったのだろうと、今更ながら恥ずかしくなってしまいました。
穴があったら……いえ、穴がなくても、自分で掘りまくって埋まりたいと思うほどの羞恥に、震えまくりました……。
計算バカで、本当に申し訳ございません!
慌てて加筆修正いたしましたので、今度は間違えていない……はず、です。たぶん。(←小学校の頃から計算苦手だったので、イマイチ自信が持てないのです……)
もし、また間違っていましたら、指摘していただけますと大変ありがたいです。
どうかよろしくお願いいたします!