表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女と使い魔王子 ~父は推し。母は元悪役令嬢。不運からの再出発を強いられたので、モフモフ使い魔召喚で癒されます~  作者: 咲来青


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/71

第38話 またハズレ? 自己愛強し ダリル兄

 唐突に出現した黒猫さんは、なんと、ダリルのお兄さんだった!

 お母さんが違う、異母兄弟ってことらしいけど……。



「そっか。ダリルのお兄さん、なんだ……?」

「うん、そうだよ! ダリルは末っ子で、僕はひとつだけお兄さんなんだ! 僕の上にもあと五人、兄さんがいるんだけどね!」



 黒猫さ――いや、エルマーさんは、やや高めの声、ハキハキした口調で、ちょっとだけ家庭の事情を話してくれた。



 異母兄弟は兄ばかり五人いて、みんなで末っ子のダリルを溺愛(できあい)していること。

 ダリル自身は迷惑がっていて、彼の方から兄弟に接触してくることは、めったにないこと。

 兄六名のうち、自分だけは、そこまでダリルに執着していないこと――。



「だってさ。今はこんな姿になっちゃってるから、わかってもらえないかもしれないけど。ダリルなんかより、ぜーーーったい、僕の方が可愛いんだからね? 見た目だって性格だって、ダリルみたいに粗暴(そぼう)じゃないし。兄様達が、どーしてダリルばっかり可愛がるのか、僕にはさっぱり理解できないよ。だって、僕の方が断然可愛いのに!」



 エルマーさんの主張としては、そういうことらしいんだけど。



 自分は『可愛い』って、真顔で言えちゃう(しかも二回も)って、すごいよね……。


 私は二人の本体は知らないから、どうにも返答のしようもなく。

 ひたすら微妙な笑みを浮かべつつ、エルマーさんの話を聞いていた。



「それでね? 僕の方がダリルより可愛いってゆー、証拠を示すとするとね?」



(え……。まだしゃべる気……?)



 いい加減ウンザリしてきちゃったけど、私は必死に笑顔を保とうと努力していた。


 その一方で、ルシアンさんは何をしているんだろうと、視線をさまよわせると。

 彼は本棚に並べられた本、一冊一冊に目を留め、何やら考え込んでいるようなポーズを取っている。



 ……あれは、本当に何か考えているんだろうか?

 それとも、エルマーさんの話を聞かずに済むように、()()()()()()をしてるだけ……?



「フリ……だな」


 思わず、ボソリとつぶやく。

 ルシアンさんはこちらをチラリと見やって、意味ありげな笑みを浮かべた。


 瞬間、(幻聴だろうけど)『長い話に付き合わされて、お気の毒さま』というセリフが聞こえたような気がした。

 私はムッとして口をとがらせ、ジト目で見返す。



「ねえ! ちょっと、聞ーてるのっ? ルシアンのことなんかほっといて、僕の話の方に集中してよ!」


 私の視線が、ルシアンさんに向いていることに気付いたんだろう。エルマーさんは、急にプリプリと怒り出した。

 慌てて視線を戻したけど、彼は軽々とした足取りで床を蹴り、私の肩から背中へと移動してきて、最終的に、私の頭の上に落ち着いた。


「ちょっ、ちょっと! 子猫ならまだともかく、その大きな体で、頭の上に乗らないでくれるっ? 重いし、髪がぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない!」


 ついつい、苦情を漏らしてしまったら。

 エルマーさんは、思いっ切り傷付いてしまったらしい。前足で頭をペシペシ叩き、


「はあ!? 『重い』ってどーゆーことっ!? 僕が重いはずないでしょ!? 『小柄で華奢(きゃしゃ)で、女の子みたいに可憐(かれん)だね』って、よく言われるんだからっ!」


 苛立(いらだ)ちを含んだ声で、自分がいかに細身の体つきかを強調した。



(うわー、自己愛強いなー。そこまで自分を好きになれるって、正直羨ましいよ……)



 これは皮肉でも何でもなく、私の本心だった。


 高卒、免許資格なし、特技なし、人生の伴侶(はんりょ)なし、恋人なし、友人もなし、貯金もほぼなし、見た目普通……って、ほぼ良いとこなしの人間だもの。

 自己肯定感なんて、もともと強くない人間からしたら、こういうタイプの人って、心底羨ましいのよね。


 一度でいいから、私も自分のこと、すっごく好きになってみたいわーーー。



 ……あ。

 今の私は、メチャクチャ可愛いんだっけ。

 だったら、自信も持てるようになるかな?



 ……無理か。

 しょせん、夢の中だけのことでしょ? 覚めたら全部終わりだもの。



 夢……。

 ホントに夢なのよね、これ?


 夢じゃないとしたら、他に考えられることって……。



「もぉっ! 何ボーッとしてるの!? 僕の話してる時に、よそ見とかボーッとするとか信じらんない!」


 バシバシバシッ! エルマーさんの猫パンチが激しさを増す。

 私は両手で頭を押さえ、『イタッ! イタタッ!』と悲鳴を上げた。


「やめ――っ、やめてよエルマーさんっ! 痛いって言ってるでしょっ?……もうっ、ホントに……これじゃー、ダリルの方がよっぽどマシだわ!」



 少なくとも、ダリルは暴力なんて振るわないし。

 ただ、ちょっと口が悪いってだけで、身体的な被害はないもの。


 実際のエルマーさんが、ホントに女の子みたいに可愛い人だとしても。

 こんな風に、暴力に訴えてくる使い魔なんて、まっぴらごめんだわ。


 ああ……。

 〝可愛くて人懐っこくて、ちょこっとだけ甘えん坊な癒し系使い魔〟召喚までの道は、限りなく険しそう……。



 ――なんて、私がガッカリしていたら、


「もぉもぉっ、何だってのさ! こんな可愛い僕を差し置いて、みんなみんな、ダリルダリルダリルって! あんな口も態度も悪い奴の、どこがそんなにいーってゆーの!? ぜったいぜったいずぇえーーーったい、僕のが百万倍くらい可愛いのにぃいいーーーーーッ!!」


 私の失言がそうとう気に触ったらしいエルマーさんは、頭上で連続強力猫パンチを繰り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ