第37話 今度こそ モフモフ使い魔 登場か?
(ええッ!? また、召喚してもいないのに、使い魔らしき生き物が出現した!?)
ダリルの時と同じく、雷が落ちたような爆音と共に現れた生き物に、心底驚きつつも。
その美しくも愛らしい、見た目は黒猫そのまんまの生物に、私の目は釘付けになった。
艶めく漆黒の毛並み、青と黄の神秘的なオッドアイ。
ダリルは実際のポメラニアンより小型だけど、この子は普通の猫と変わらないサイズ。
ただ、ひとつ残念なのは。
背中から黒い翼が生えてる……ってことなのよね。
黒い翼は、使い魔の必須アイテム(?)なのかしら?
でも、ミックに翼は生えてないしなぁ?
――なんてことを、つらつらと考えてたら。
「ねえ、そこの君。ここはどこなの? 僕、どうしてこんなところにいるの?」
オッドアイの黒猫さんが、首をかしげながら、私の方に近付いてきた。
「えっ?……あ、え~っと……。ここは、一応……私の家の書庫だけど……」
「書庫?……えっ? ここって、もしかして人間界? なんで僕、いつの間にか人間界なんかにいるの?」
私の前にちょこんと座り、黒猫さんは、私をじっと見つめる。
「……あれ? 君、まだ小さいんだよね? 人間の子供でしょ? なのに、どうして僕は、君のことを見上げてるんだろう? これじゃまるで、僕の方が小さいみたいだ。……う~ん……? 変だなぁ。どういうことなん……だ……?」
疑問を口にしながら、黒猫さんは視線を下に持って行った。
すると、
「えええッ!?……な、何これッ!? なんで僕の体、こんなに真っ黒なの!? おまけに毛むくじゃらだよ!? 手の形も変だし……。これ、獣の手じゃないの!? えっ、なんで!? なんで僕、獣なんかになっちゃってるの!?」
黒猫さんは、自分の手足や、体のあちこちを見回し、困惑した様子で私を見上げる。
この反応……。
まさかとは思ったけど、やっぱり、ダリルと同じパターン?
気付かないうちに、何者かの魔法にかかって、動物の姿に変えられちゃったってこと?
私は『嘘でしょ~?』とか思いながら、黒猫さんに恐る恐る話し掛けた。
「ね……ねえ、黒猫さん。あなた、もしかして……今まで、別の姿だったりした? たった今、黒猫の姿に変わっちゃたの?」
「えっ、黒猫!? 今、僕って黒猫になっちゃってるの!?」
背筋をピンと伸ばし、黒猫さんはまん丸な目で私を見据える。
私は『う……うん。私には、そー見えるけど……』と言いながら、壁にかけてある大きな鏡を指し示した。
黒猫さんは、私の指先が示す方向へと視線を投げ、鏡に目が留まったとたん、『んぎゃッ!?』と短く悲鳴を上げた。
昨日のダリルと同じように、前足を顔に当てたり、ペシペシ叩いたりしている。鏡に映っている生き物が、自分であるという確信がほしいんだろう。
「え……え、えっ? 何なのこれ!? ホントに僕、黒猫になっちゃってるじゃん!?――どーしてッ!?」
黒猫さんは鏡に前足を当て、引っかいたり叩いたりした後。
ぐるぐると小さな円を描くように歩き回ったり、後ろ足で立ち上がって、前足でバンザイするような格好をしてみたりと、せわしない。
まあ、ダリルみたいに、急に姿変えられちゃったってゆーんだから、パニック起こして当たり前だけど。
今の姿が本当じゃないってゆーなら、実際の黒猫さんはどんな人(魔族?)なのか、一応訊ねてみようかな……?
そんなことを考えていた時だった。
「エルマー様! まさか、あなた様までが……このようなお姿に成り果ててしまわれるとは……」
頭上から、またまた聞き覚えのある声がして。
上に目を移すと、例によって、ルシアンさんが大きな黒翼を広げ、ふわふわと浮かんでいた。
(……この人、毎回どこから現れるんだろう? 神出鬼没ってゆーか……ど○でもド○とか、隠し持ってるワケじゃないだろーし……)
魔界の生き物って何でもアリなのかな?
呆れるやら感心するやらで、私はまじまじとルシアンさんを見つめた。
視線に気付き、彼は私に目を向けると、
「またあなたですか。……やはり、これはいよいよ……という感じなのでしょうか」
何やら独り言のようなことをつぶやいて、あごに片手を当て、考え込むようなポーズを取った。
黒猫さんは、とっくにルシアンさんに気付いてはいたんだけど、深刻な雰囲気に、話し掛けていいものかどうか、迷っている感じだった。
しばらくしてから、ルシアンさんは黒猫さんに向き直り、彼の前にふわりと降り立った。
「エルマー様。少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「え?……う、うん。べつにいいけど……。でも、今、こんな姿なのに……よくエルマーだってわかったね?」
不思議そうに見上げる黒猫さん(あ。エルマーさんだっけ?)に、
「当然のことでございます。如何にお姿が変わられようとも、ダリル様の兄君でいらっしゃるのですから」
〝この程度のこと、造作もない〟とでも言うように、ルシアンさんはにこりと微笑む。
私はぼんやりしていて、『へー。ダリルのお兄さん……』と、うっかり聞き流しそうになったんだけど。
「……えッ!? ダリルのお兄さん!?」
数秒ほど経ってから、ようやく驚きの声を上げた。




