第21話 意外にも ガラ悪ポメは お坊ちゃん
ニ~三分の内緒話の後、二人は私の側まで戻ってきた。
ポメは、珍しく申し訳なさそうな顔つきで。
「すまなかったな、一人にしちまって。こいつには、ちゃんと話しといたからよ。てめえを脅そうなんざ、もう二度としねえだろ。勘弁してやってくれ」
「……先ほどは、大変失礼いたしました。改めまして、自己紹介させていただきとうございます。私めは、長年ダリル様のお目付け役を仰せつかっている、ルシアンと申します。以後、お見知り置きください」
「え……お目付け役?」
私は驚いて目を見張った。
〝お目付け役〟って、確か……〝監視する人〟って感じの役割――意味じゃなかったっけ?
監視する人を付けなきゃいけない、ってことは……。
「やっぱりポメって、罪人か何かなの⁉」
「何でそーなる⁉ 『やっぱり』ってどーゆー意味だコラァッ⁉」
すかさずツッコまれてしまい、私はエヘヘと笑って、自分の頭をポンポンと叩いた。
「ごめんごめん。ポメってば言葉遣い悪いし、そっちの世界の住人なのかな~って、ちらっと思っちゃったりなんかしてたから」
「はあ? 何だ〝そっちの世界〟って? 魔界のってことか? だったら間違いねーけどよ」
……う~ん……。
魔界とは、ちょっと(全然?)意味合いが違うんだけど……。
でもまあ、似たようなもんかな?
中には、悪魔や死神みたいな人もいるんだろうし。
そっちの世界に知り合いがいないのをいいことに、私は適当に結論付けた。ポメ達には、曖昧な笑みを向けてごまかす。
ポメは私の笑顔を肯定の意味と捉えたのか、それ以上、特にツッコんでくる様子はなかった。
私はホッとし、次の話に移った。
「え~っと……。〝お目付け役〟って、つまりは、どんなことをするお役目なんですか? そちらの世界のことには、私、詳しくなくて。もしよろしければ、教えていただけるとありがたいんですけど~……」
ポメはともかく、黒髪ロングの美せ――じゃなかった、ルシアンさんには、敬語を使っておいた方がいい気がする。
だってこの人、〝怒らせたら怖い人〟に決まってるもの。そういう雰囲気アリアリだし。
確信があるわけじゃない。
それでも一応、要注意人物として、警戒しておこうと決めた。
ルシアンさんは、私のお願いに小さくうなずき、
「承知いたしました。私の役目は、常に、ダリル様のお側に控えさせていただくことです。ダリル様の御身に起こりましたことを、速やかに把握し、必要とあらば対処いたします。ダリル様に関わられます、ありとあらゆることに目を配ることこそが、私の役目なのです。誠に僭越ながら、時には、ご助力やご指導などを、させていただくこともございます」
「……へ、……へー……」
要するに、従者とか部下とか使用人とか……そんな感じのお仕事なのかしら?
そのうちのどれに近いにせよ、ポメより立場は下ってことだけは、ハッキリしてるのかな。
じゃあポメは?
結局ポメって、どーゆー存在なワケ?
「えー……っとぉ……。ルシアンさんの役割は、何となくわかりましたけど……。ポメは? ポメって、いったい何者なんですか?」
「ポメではございません。ダリル様です」
「あ、はいっ。すみません」
慌てて謝ると、ルシアンさんは『よろしい』と言うようにうなずき、私をまっすぐ見つめた。
「ダリル様は、私の主です」
「………………」
だから、それはわかってるって!
私が訊いてるのは、もっと、こう……。
あーっ、もう!
わっかんないかなぁ⁉
「ルシアン。ガキをからかってんじゃねーよ。ちゃんと答えてやれ」
私がじりじりしていることに気付いたのか、ポメ――っと、違うか。ダリルだった。
とにかく、ダリルがルシアンさんに指示を――って……え?
私、からかわれてたのっ!?
ジトッとした視線を、ルシアンさんに送る。
彼は薄く目を閉じてから、微かに口角を上げた。
「申し訳ございません。表情がくるくる変わる様子が、実に愉快でしたので。……つい、悪ふざけを。失礼いたしました」
どこか気品を感じさせるような美しいお辞儀で、ルシアンさんは私に謝罪する。
妙に引っ掛かるものを感じはしたけれど、あえて目をつむり、彼の次の言葉を待った。
「ダリル様の魔界でのお立場は、人間界で申すところの、貴族と同じようなものです。上流階級のご出身、ということですね」
「えッ⁉……上流階級⁉」
つまり、お坊ちゃんってこと⁉
あのヤ〇ザかヤンキーかって言葉遣いで⁉
心底ビックリして、思わずポメを二度見すると、
「なんだァ? 何か文句あんのかコラァッ⁉」
……キレられた。
これでお坊ちゃんだなんて、やっぱり魔界ってガラ悪ッ!!
行く機会なんて絶対ないだろうけど、なるべく、そっちの世界とは関わらないように気を付けなきゃ。
ぐっと拳を握り締め、私は強く心に誓った。




