夏姉
淡いデニムのワンピースとハート型のネックレス姿で逝ってしまった
夏姉が、ずっと気になっていた
本当に、この薬を呑んで若返り、胸の弾けるような恋をして、逃れられずに亡くなった
なら 納得できる、、、
夏姉 逃げれんかったん!
誰なんだろう その人は?
若返りの薬 信じれんけど、若返るんや
モヤモヤしながら、家に着き、ソファーの上の腰を下ろし、古いアルバムを開いて見た。
白黒の写真、夏姉が私を抱いている。満面の笑顔
「夏が、母ちゃんの代わりに、子守してくれたわ」とよくお母さんが言ってたな。
よく、思い出話に出てきた、猿との合戦
私が小学校1年だったろうか、おやつの干し芋を猿が取ったと泣くと、夏姉が追いかけ石を
投げると、猿が軍団を連れてやって来た、夏姉と一緒の友達と、自転車を盾に石を投げ合った
もちろん 負けて逃げたが、その時の話になると「猿め!」と悔しがる夏姉は
あの時と同じで笑えた。
夏姉は、高校には行かなかった。私が小学校2年の時、父さんは、トラックの運転手で
材木を下ろす時に、材木の下敷きになり、亡くなった
若い時は、筏師だった父さん、無口だが、優しかった。
夏姉は、母さんや私の事を考えて、高校には行かず 地元の製材業で働いてくれた
頑張り屋の夏姉は、事務の勉強して経理を、任されるまで、なっていた。
そのおかげで、私は高校に行けた。
「楓、姉ちゃんの分も、学校生活楽しみよ、走るん速いから、陸上部に入ったら」と
励ましてくれ、私は、陸上部では、頑張った。
成績を見て、申し訳なそうな私を見て、学校 楽しそうだから、よしと笑ってくれる
優しい 夏姉は、あの時 どんなだったんだろう。好きな人とかいなかったなか
好きなアイドルは、聞いたら、首を捻り マウンテンゴリラと笑った
休みの日は、鮎や川魚の釣りに、職場のオジサンたちと行っていたのは知っている
彼氏とか、恋愛には、ほど遠い
そんな夏姉は、見合いをした。その3ヶ月ごには、結婚式
私が、就職して、1年過ぎた頃だった。
「ほんまに、ええん 結婚するん」
「うん 養子に来てくれるって、母さん言ってたから」
「ええ人なん?」
「悪い人では、ない まー結婚てそんなもんやろ」
「そんなもんなん」
「そんなもんよ」
結婚って、よく分からなかったが、花嫁衣装に丁寧に化粧した夏姉は、綺麗だった。
それから、男の子二人育て、幸せに見えた。
二人の子供も就職し、那賀町から出ていき、旦那さんと二人の生活を12年近く過ごした頃
亡くなった。一人暮らしを心配したが、
「 楓 気使う人が、おらんようになって、また釣りに、行ける。」と
こっそり 話す。
そんなもんだったんかな、 強がって言っているのか、分からない。
家族愛は、確かにあっただろうが、胸が苦しくなるような恋愛を、したのだろうか
思い巡らし、アルバムをめくっていくと、コピー用紙に印刷された写真があった
「エー これ 夏姉!」
中学校卒業時の夏姉の写真を、めくり見比べる。
どう見ても、夏姉
ヤバイ ヤバイ やっぱり 若返りの薬は本当で、呑んだんや夏姉
ほんで、恋したん 命をかけたん
あほ マウンテンゴリラでいいやんか 誰なんそれ
パニック状態の私は、それから、同じ事繰り返し思い 叫び 寝られるはずなかった。
しかし 明け方ウトウトし、テーブルで寝てしまうと、夏姉が前に座っている。
「楓 これは、恋愛事故よ アッ 言ったら間に合わんかった。」
「何が、恋愛事故よ どうして 話してくれんかったん」
「ごめん もう少し 生きられたのにな」
「アッ 旦那迎えに来たけん 行くわ これからやで 楓 人生楽しみや」
「あほ! 夏姉」と言いながら、目が覚めた。
何なん この夢 夏姉ここへ来て それに、旦那迎えに来たって 分からん
「でも 夏姉 若かったな 可愛かったな 私も もう一度 青春したい
吞んで 見ようか 夏姉よりは、恋愛に免疫力はすこしはある。」
ぼ~と 頭の中を若くなったら、と思いを巡らす。
そして、コピー用紙の写真に、目を落とす。
夏姉の横にいる、若い夫婦 その赤ちゃん 中年の女の人が、二人 若い男の人
夏姉の横にいる。
あっ イチ子ファームって 書いた Tシャツを着ている。
ここを 探して、この男の人
この人が、恋愛事故の相手に、違いない
真実を確かめてやる。
イチ子ファーム ナビゲーションで場所は直ぐに分かった。
ここか、ビニールハウスの周りを何度か回り、余り目立たない所に車を止めた。
降りてウロウロしていると、ビニールハウスの中から男の人が出てきた。
写真に写っていた若い夫婦だ。
「直売は、まだしてないんですけど」と良く通る声で、
「いえ、違うんです。ここでバイトしていた、夏、、」
「えっ 夏ちゃんの、お母さん?」
そういう事になるか、お母さんに
「ちょっと 待ってて下さい」と走って行き、直ぐに写真のメンバーが来た。
夏姉の横に写っていた男の人 息を切らして
「夏ちゃんは、どうしたんですか、急に来なくなって、連絡もつかなくって」
{フランスに、行ってしまったんです。本当に、お世話になったのに、すいません。」
死んだなんていえないし、本当のことを話してもわかってくれるはずもない。
でも、フランスって、、
フランスってと、後から来た人たち、写真のメンバー以外の人が、ワイワイ話だす。
若いのに、しっかりして、よく働いて、よく笑って など 話してくれた。
「心配したけど、フランスにいったんやな、遠い所に行くから、もう少しで辞める
いよったから、でも 送別会したかったのに」と 奥さんが、残念そうに話す。
何度も、すいませんと頭を下げ、いたたまれなくなり、持ってきた菓子折りを渡し帰ろうとすると
さっきの男の人 多田聡といい、苦しそうな声で
「嘘でしょ フランス行ったなんて 僕が勝手に舞い上がって、迷惑な存在になってたんだ。」
若い夫婦の奥さん 聡君の姉で、
「聡 夏ちゃんがいなくなってから、仕事も手に付かなくって、でもお母さんが来てくれて
少しは、気持ちが楽になったんじゃない。フランスに行ってなくても」
ヤッパリ フランスは嘘ぽいか
お姉さんが、ハウスの中に入って行くと、聡君は暗い表情で
「僕が好きだなんて言ったから、、夏ちゃんの気持ちも考えずに迷惑だったんだ。」
どうしよう ずっと苦しんで、夏姉のバカ なにが恋愛事故よ 聡君 可哀そう
本当の事 言ってしまおうか でも分かってくれるはずない だけど、
「お母さん 本当の事教えてください。そうでないと、僕 この状態から抜けれない」
そう言われて、本当の事を話す決心がついた
{夏は、私の姉で、若返りの薬を吞んで若くなっていたんです。信じてください。
そして、恋愛経験のない姉の初恋だったんです 聡君が、、」
驚いた顔で、
「何 訳の分からない事言って、僕をバカにしているんですか!」
そりゃあ 理解できるはずもない。どうすれば、信じてもらえるのか
もう 実行するしかない
「聡君 明日 楓と言う女の子がここに来ます。それは、私です。若返りの薬を
吞んで来ます。 待っててください。」
そう告げて、イチ子ファーム走って去った。
言ってしまった。もう 吞むしかない!
読んで下さり、ありがとうございます。