表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水中花 (桜)  作者: 山きょん
1/3

若返り

 小学1年になった春 静かなダムの水面を見ながら、お姉ちゃんが言った話を桜の時期になると思い出す。


「ダムが出来てな最初の春に、この水の中に桜が咲いたんじぇ!綺麗やった。一度きりやのに忘れんわ」

「ほんまに! 楓も見たかった」と悔しがる私を見て

「ここら 一面やで」と両手を広げ、笑っていた夏姉 



 徳島県那賀郡那賀町、一級河川那賀川本川上流群 

 1956年 長安口ダム完成 

 十川 夏 7歳 十川 楓 6ヶ月の時でした。



 この大きな家に一人、悠々自適に暮らしていた。夏姉はよく言っていた。


「家で死ねたら、本望やわ」でも、その通りにはならず、一日数本のバスの中で逝ってしまった。


 ほんでも、家の中だったら、見つけてもらえんで、えらい事になっとたな 昔やったらそのまま土葬やわと、

おじいちゃんを思い出し、埋められどうなるんだろうと怖がっていた私も、今では平気にこんな事を思ってる。


 林業が盛んだった、あの頃 筏師だった父や夏姉がいた時家は活気があったが、静まり返った今思い出も色褪せて、ため息を何度かつく。


「夏姉 この家を守ってくれて ありがとう あと10年は生きて欲しかったな。誰もおらんと帰るに帰れんでぇ」と言いながら押し入れを開ける。


 湿った匂いと古びた座布団が、積み重なっている。家で葬式や法事の時に使っていたが今では無用な物 家自体無用の長物になってしまったが、手を伸ばし少しヒンヤリとした感じにゾクッとし、思い切り引っ張ると雪崩のように落ちてきて足元に広がった。


「あーあー 知らん、知らん夏姉ごめんで、このままにしとくけど、許してよ」と声を上げるが、夏姉が片付けろって言ってるみたいで、縁側に出ていたが戻ってき、座布団を手に取った、グィと上体を押し入れの中に入れてみた。隅っこに見たことのない20㎝程の壺が見えた。


「何 これ!お宝でも入っているかな しっかり封してあるわ」しげしげと壺を眺め、油取り紙のような封の紐を解き、中を覗く、


「何にも、入ってないやん」ううん 折りたたまれた紙がある。


「お宝の場所でも書いてるん違うん」たたまれた紙を、広がったままの座布団に座り開けてみると

昔よくあった 薬紙が出てきた。そして、折りたたまれた紙の裏に(若返りの薬)と書いてある。


「若返りって、お肌にいいって事」

違う! もう一枚の紙に、何かしら理解し難い事が、つらつらと、、、


 よく考え むやみに呑むな。

 

 一年すると、効果は消える。


 若返ったなら、勤勉かつ仕事に励め。


 恋愛は、危険 胸の弾みは命落とす事になる


 もし恋愛感情が、湧いたなら、その場から離れて忘れるよう努める


「何やこれ!若返るって、年齢がほんまに、若くなるんやな、呑むなって呑みたいわ」


「落ち着け、楓 落ち着け」取り敢えず片付けに来たんやからと、若返りの薬と注意書をバックに入れ、座布団を投げ入れる様にして押し入れを閉めた。そして、適当に重ねたり、並べたりしているうちに、古いアルバムを見つけ、薬と一緒に持ち帰る。


 車で2時間ほど運転している間、夏姉は、この薬を吞んだのかもと、


バスの中で逝ってしまった夏姉は、淡いブルーのワンピースを着て、右手のひらに、血が滲むほど握り絞めていたネックレスは、ハート型だった。


 とても72歳の恰好とは、思えず、どうしたんだろうと気になっていたのが、若返りの薬をのんだなら、納得できる。


 夏姉 恋したん?





 



連載です。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ