第93話:多摩丘陵の殲滅
相模湾から上陸したもう一つの軍団は山岳地帯に適した部隊が優先的に組み込まれていて九十九里浜に上陸した戦車を始めとする装甲師団とは全く性質が違った。
上陸した米軍は日本軍の抵抗を一切受けないで上陸に成功して橋頭保を築くことに成功するがあまりにもの無抵抗だったので罠と判断して慎重にいく事にする。
上陸して二日後、厚木基地を無血占領した時点で多摩丘陵地帯一帯に万里の長城みたいな陣地が築かれているとの報告を得る。
「成程な、敵は水際作戦を捨てて丘陵地帯に立て籠もって地形に応じたゲリラ戦で我らに出血を重ねていく作戦か……ふむ、厄介だな」
『アレクサンダー・ヴァンデグリフト』陸軍大将が多摩丘陵地帯の地図を見ながら唸る。
彼は海兵隊一筋で生きてきてガダルカナルの戦いでは第一海兵師団を指揮した名将でその後、ワシントンに呼び戻されて海兵隊総司令官に任命されて前線勤務から外れていたがオリンピック作戦の大失敗で一線級の将校を始めとする将兵を失って急遽前線に出陣する事になった。
ヴァンデグリフトは熟慮した結果、装甲猟兵擲弾師団三軍(四万人)を出す事にする。
これは山岳戦においては超熟練の塊でもある軍団で欧州戦線ではイタリア方面からベルリンへ進撃する為に極寒のアルプス山脈を易々と踏破した強者たちであった。
「諸君! ここはアルプスとは違うぞ? 極寒でも酷暑でもない心地よい気候がする異国の地だが敵の陣地は強固だ。私の見立てでも脆いとは思われない」
海兵隊総司令官として伝説の武人と言われていた人物の評価に師団の各長や旅団長が表情を改めて気を引き締める。
そして次の朝、猟兵擲弾師団は意気揚々と出撃していく。
「恐らく敵軍の国力では火砲の迎撃力は高くないだろう。現在の日本国内の生産は全てにおいて絶望的との事だからな」
ヴァンデグリフトはワシントンから出撃する前に統合作戦本部から日本の生産力についてブリーフィングを実施していた事による。
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一方、多摩丘陵要塞司令部にて総司令官『板垣征四郎』大将は客将『ジューコフ』大将と熱い玄米茶を嗜んでいる最中であった。
「板垣大将、日本茶は落ち着きますな? 腸に染みわたる」
「ジューコフ将軍、ロシア人はウオッカしか飲まないと思っていましたがそうではないのですね?」
板垣とジューコフが和やかに会話している時に伝令員が飛び込んできて現在、敵軍が厚木基地を無血占領した事を伝えに来る。
板垣は頷くとジューコフと共に司令部を出る。
「“おおわし”から送られてくる映像を見た所、山岳戦に特化した部隊がこちらにやってくるとの事ですが我が軍は一回も敵と邂逅しないで叩きつぶします。既に丘陵一帯に古式ですが二八センチ榴弾砲三百門が配備されていて砲弾も広域破壊専用として改良された新式で装填されています」
板垣の説明にジューコフはふむふむと頷いて自分自身も色々と頭の中でシミュレートしていてこれはうまくいくと確信する。
「徹底的な火力の集中攻撃ですな? 無尽蔵に砲弾がある過程でしか通用しない戦法だがここには唸る程の砲弾が蓄積されている」
「ええ、各一門に五十発の広域破壊弾が配備されていますので合計一万五千発全弾を打ち尽くします。その後、敵の被害が軽微だろうと殲滅であろうとも急速反転して帝都に撤退します。勿論、陣地には時限式爆弾を大量に設置していますのでこの要塞一帯が大爆発する計算です」
ジューコフは今までと全く違う戦闘の方針を執った石原莞爾と言う人物に改めて畏怖の念を抱くと共にこの時代に彼と共に生まれてきたことに感謝する。
「砲撃開始まで未だ八時間はありますので将棋と言う戦術ゲームでもやりませんか? あれにすっかり夢中になりましてね」
ジューコフの言葉に板垣は笑みを浮かべて頷く。
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そして遂に四万の猟団擲弾師団が多摩丘陵麓まで進撃して司令官『アンダーソン』中将が散開合図を出して密集攻撃されないように指示した時にそれは起きた。
耳が吹き飛んだかの凄まじい轟音と震動が周囲一帯を震え上がると共に大地が裂けたのかと思うほどの爆発した際の衝撃で発生した土砂の塊が無数に彼らの頭上に降り注いでいき無常にも命を狩り取っていく。
「撃て! 撃て! 一発も残すなよ、全弾撃ち尽くすまで砲撃に砲撃だ!」
板垣の命令が各部署に伝達されていく。
広域破壊弾の威力はすさまじくMOAB弾よりは劣るが次々と炸裂して広範囲に展開している猟団兵が爆散していく。
手足が千切れた己の身体を見て発狂する者が続出するがそれも一瞬で意識が切れて絶命していく。
攻撃用に持ってきた野砲も全てが二十センチ榴弾砲の餌食になり悉く破壊されていき鉄くずとなる。
「怯むな! 怯むな! 栄光ある我ら山岳猟団擲弾師団の底力を見せるのだ!!」
アンダーソンが叫ぶが轟音に遮られて命令が伝えられない。
その内、彼の直ぐ傍で榴弾が爆発して彼は数十メートル吹き飛ばされて断崖に激突して全身の骨が砕かれる音がしたのを感じる。
その時に片腕が千切れて何処かに飛んでいて出血と激痛に意識が朦朧としてくる。
「お……の……れ……無念だ……」
アンダーソンはそこで命を終えた。
それから一時間後、遂に砲撃は終了したがそこには誰一人として生き残った者はいなく赤く染まった大地が残っていた。
「……終わりましたな、それではジューコフ将軍! 作戦通り帝都に戻りましょう」
板垣の言葉にジューコフは頷くと改めて別世界から来たと言う未知の存在について考えさせられる。




